創業社長地方が名を連ねる―フォーブス長者番付2015

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金融危機以降、大きくは増えていない日本のお金持ち。だがその中身は変わった。富裕層研究の第一人者たちが彼らの素顔を明らかにする。

■「開業医=お金持ち」ではなくなった

5万世帯とされる超富裕層。彼らの職業は「3分の2が企業オーナー」(NRIの宮本弘之・上席コンサルタント)であり、続いて医師・歯科医師(開業医)が多数を占める。甲南大学の森教授によれば、この構図が定まったのは1995年ごろと最近のことだ。企業オーナーの顔ぶれも変わってきた。

「高度成長期からバブル経済、その後のITバブルにかけては、ある程度『伸びる業種』が決まっていて、いち早くそこへ乗り出した人たちが成功していました。しかし08年のリーマンショック以降は、同じ業種のなかでも工夫をして伸びた人と、そうではなく失速した人とに分かれるようになっています」(同)

明暗を分けた条件とは何か。

「ひとつは海外進出です。中小企業白書によると、中小製造業のうち海外へ進出している企業は、進出していない企業に比べて利益率が高いという傾向が出ています。もともと儲かっている企業だから海外進出にも対応できたという側面はあるでしょうが、彼らは海外へ出ることで、さらに大きな成長の機会を手にしているのです」(同)

個別で見れば、06年までは多かったIPO(株式公開)リッチの勢いがなくなった。代わりに増えているのは、堅実な経営で業績を伸ばす「新オーナー経営者」。彼らは間近でベンチャー企業創業者の栄枯盛衰を見てきたため、それを反面教師にしているという。

オーナー経営者の命運は企業の盛衰とともにある。業績を伸ばした人が富を増やすのは当たり前。興味深いのは、その関係が医業においても見られるようになってきた、ということだ。宮本氏が続ける。

「かつて開業医であることは、自動的にある程度以上の資産家であることを意味しました。しかし病院数の増加や国民医療費の抑制が政策課題になるなかで、最近は開業医イコール資産家ではなくなっています。収入に格差もつくようになっており、それは地方で顕著です。先端的な医療技術や設備を導入している病院で成功しているところは、ますます裕福になっています」

森教授も「医学部や医大が少ない県、具体的には2つ未満のところほど開業医がお金持ち」という。さらに、診療科によっても違いが出ると指摘する。

「高額納税者名簿で調べると、04年までは内科の開業医が圧倒的なシェアを得ていました。しかしその後は、内科や外科と比べ『マイナー科』といわれた眼科や美容外科、皮膚科、内科のなかでも糖尿病に特化した医師が所得を伸ばしました」

少子高齢化社会において、患者が増えたり高度治療の需要が高まったりしたことが背景にある。また、治療技術の進歩も一因だ。

「かつて白内障は1泊2日の手術が必要でしたが、15分の治療ですむようになりました。それでも診療報酬はしばらくは変わらない。だから一時期は『眼科御殿』があちこちに建ちました」(森氏)

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【アドバイザー】
甲南大学 経済学部教授 森 剛志(もり・たけし)
京都大学大学院博士課程修了(博士号取得)。研究分野は家計経済、経済格差。著書に『新・日本のお金持ち研究』などがある。
野村総合研究所 上席コンサルタント 宮本弘之(みやもと・ひろゆき)
東京工業大学大学院理工学研究科修了。金融コンサルティング部長。著書に『プライベートバンキング戦略』(米村氏との共著)などがある。

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(面澤淳市=文 武内正樹、永井 浩=撮影)