『俺はまだ本気出してないだけ』の堤真一と福田雄一監督

写真拡大

おちゃめさを通り越し、ここまで格好悪い堤真一は、実に新鮮で、そして最高だ！『俺はまだ本気出してないだけ』(6月15日公開)で堤が演じたのは、42歳バツイチ子持ちの漫画家を夢見る中年男・大黒シズオ役。根拠のない自信家で、バイト先や家では罵倒され、高校生の娘に借金をするという、救いようのないダメダメ男である。そんな堤を、楽しみながら演出したのは、『コドモ警察』シリーズや『HK 変態仮面』(公開中)の福田雄一監督だ。堤真一と福田監督にインタビューし、キャスティング秘話や撮影裏話を聞いた。

【写真を見る】おちゃめ！堤真一扮する大黒シズオが風呂上がりにバスタオル1枚で登場するシーンはこちら

原作は、青野春秋のデビュー作にして「このマンガがすごい！2009」にランキングされた人気コミック。シズオのダメダメすぎて空回りし続ける姿が笑いを誘う。映画化に際し、主演は堤真一以外に考えられなかったという福田監督。「堤さんで！と僕は言い続けました。でも、正直1割半くらいの期待しか持っていなかったので、決まった時は、嘘だろう？マジで？と思いました。その時の喜びだけは忘れられないです」。

堤は、「お話をいただき、最初に原作を読んだら、『これは俺じゃない』と思ったんです。でも、監督から『とりあえず、原作者にプレゼンしても良いですか？』と言われたので、『どうせ通らないから良いですよ。原作者がNOと言うに決まってますから』と答えたんです」と苦笑い。福田が「僕は、ぶっちゃけ、絶対通る自信がありました」と、してやったりの笑顔を見せると、堤は「絶対通らない自信があった」と被せ、ふたりは大爆笑。

原作者から無事、映画化の許諾が下りた。堤は「その後、僕のスケジュールを見たら、2年先になってしまうということで、さすがにこの企画はなくなるだろうと思ったんです。そしたら、『待つ』という話になって」と驚きの表情を見せる。福田監督は「僕も最初は絶望的だと思いました。漫画の映画化では2年先でOKが出るなんてことはまずないので。そしたら、原作者さんから『堤さんじゃないと駄目だ』と言われて。こんなに嬉しいことがあって良いのかと思いました」と大喜びしたとか。堤も「もうやるしかなかった」と笑顔を見せた。

福田監督は、コミック原作の映画を撮るうえでの楽しみの一つは、キャスティングにあるという。「主人公を、原作と似ても似つかない役者さんがやって、こんなに面白い！と言われることが一番の喜びです。だから、シズオとは似ても似つかない堤さんの力を持ってして、こんなに面白いものになったと見せつけたいというのが一番の願望です。原作に似た感じの役者でやって、『原作の感じが出たね』と言われるのが一番嫌で、耐えられない。原作と違うけど、こっちの方が面白いと言われるくらいのものにしないと、映像化する意味がない。堤さんは憧れの役者さんで、ずっとご一緒したいと思っていたし、僕は格好良いパブリックイメージとは違う堤さんを知っていたので、勝算は確実にありました」。

シズオは、家ではTシャツとパンツ一丁だし、何をやっても空回りするイケてない中年男だが、堤はそのダメダメ男に見事にはまった！そんなシズオを叱咤しつつも、堤の口からは「人のことは言えない」という意外な言葉が。「僕も役者という仕事をやっているから、言ってみれば世の中からちょっとはみ出しているんです。役者をやっているヤツはみんな変わっているから、あんまり人のことは言えないかなと。シズオに『お前、しっかりせえよ』と、僕には言えない。でも、いたら殴りたいね(笑)」。「ハハハ」と笑って同意する福田監督。「わかります。シズオは本当に殴りたくなるようなヤツになりましたよね。それが理想だと思っていたので本当に良かった。むかつきますよね。でも、結局、最終的には憎めないんです」。

人気と実力を兼ね備えたアグレッシブな俳優・堤真一と、快作を連打する福田雄一との最強タッグによる『俺はまだ本気出してないだけ』。堤真一の新境地というより、“珍”境地が見られるイチ押しの映画である。【取材・文/山崎伸子】