■佐藤寿人のチャントを継承した武藤

10月22日J1第30節仙台-川崎戦の試合前。仙台サポーターから懐かしいチャントが聞こえてきた。2003〜04年仙台に在籍し、エースストライカーとして活躍した現広島FW佐藤寿人のチャントである。かつての「寿人アレー、寿人アレー…」というチャントと同じ節で歌われたのは「武藤アレー、武藤アレー…」というチャントだった。佐藤寿人のチャントが大卒新人ストライカー武藤雄樹に受け継がれたのだ。武藤が仙台のサポーターに認められた証しである。

前回のコラムでも書いた通り、武藤は9月17日第26節新潟戦でリーグ戦デビューを果たした。その3週間後の10月8日天皇杯2回戦ソニー仙台戦では0-0の状況で途中出場すると、先制点となったPKを獲得した場面で倒されたFW中島裕希にラストパスを送った。同点とされた後の延長戦後半、武藤は自らドリブルでペナルティエリアに侵入し、相手DFに倒されてPKを得た。「先輩に何か話したらPKを譲っちゃいそうだったので、自分からボールをペナルティエリアに持っていった」と大物ぶりを見せた武藤は、自身でPKを決めて、これがプロ初ゴールとなり、チームの勝利に大きく貢献した。さらに翌週15日の第29節福岡戦では後半途中出場したわずか2分後、松下年宏のクロスをニアで受けて反転し、角度のないところからシュートを決め、リーグ戦初ゴールも決めた。わずかな出場機会を見事に生かし、武藤は手倉森監督やサポーターの信頼を勝ち取った。

わずか1ヶ月でプロデビュー、カップ戦で初ゴール、J1リーグ戦で初ゴールと怒濤の活躍を続けた武藤が、熱い仙台サポーターの心をつかまないはずがない。リーグ戦のゴールを境に、武藤と同じDFラインの裏への飛び出しを得意とした仙台のレジェンド佐藤寿人と同じくチャントが与えられたのは、サポーターの期待がいかに大きいかを物語る。

■武藤獲得の裏に手倉森監督が信頼寄せるスカウトあり

仙台は手倉森誠監督就任後、在籍1〜3年目の若手をあまり起用することはなかった。J1昇格争いや、残留争いなどシビアな試合が続き、若手を起用しづらかったという理由もあるが、実際のところ手倉森監督の意向に沿った選手がなかなか獲得できなかったことも理由の一つだった。

手倉森監督が就任した2008年には、秋に練習参加した柏U-18のDF島川俊郎一人を獲得したが、2009年には関東大学リーグで活躍していた選手が多く練習参加した。福岡MF中町公祐、千葉MF伊藤大介、松本山雅FCFW船山貴之など現在他のクラブで活躍している選手も仙台の練習に参加したが、いずれも手倉森誠監督のチームづくりの意向と合わず、獲得の判断には至らず新人獲得はゼロという事態になった。

そこで2010年、新たなスカウトが仙台に加入した。前鳥栖スカウトの都丸善隆氏だ。都丸氏は鳥栖で有望な若手選手を次々と発掘し、その手腕が注目されていた若手スカウトだった。都丸氏は地元から他県まで多くの選手を練習参加させ、その結果この年3人の選手の新加入が内定した。筑波大の左サイドバックDF原田圭輔、新潟明訓高GK石川慧、そして流通経済大から武藤を獲得した。

手倉森監督は都丸スカウトについて「都丸自身がプロの資質としてパーソナリティを重要視している。そこが間違いないからこそ練習参加させて、口説いて契約までこぎつける。彼は一人一人の分析が正しく、連れてくる選手はまず間違いない。特長があって人間的に間違いない子を連れてくる。今の一体感ある仙台のトップチームに見合う選手かどうかが大事だと感じてくれている」と語る。選手のメンタリティを重視する手倉森監督は、同様に技術に加えて選手のメンタリティを重視する都丸スカウトの手腕を高く評価している。都丸スカウトが練習参加をさせ、獲得にこぎつけた3選手に関しては「練習参加した時点で、仙台にマッチしていると思った。みんな厳しい指導者の下でやってきていると感じた」と評価した。