「64歳11カ月で退職するとお得」って聞いたのに…失業手当を78万円多くもらって、定年後も働きたい会社員。“裏技”でかえって損したワケ【社労士が解説】
定年後も働く意思がある場合、会社を退職した後でも「失業手当」を受け取ることができます。ただし、退職のタイミングが65歳より前か後かによって、受け取れる失業手当の種類が変わることをご存じでしょうか。退職日が数日違うだけで、支給額が数十万円単位で変わることも……。今回は、社労士みなみ氏の著書『知りたいことがぜんぶわかる! 定年前後のお金の超基本』(Gakken)より、「基本手当」と「高年齢求職者給付金」の違いと、損をしない定年後のお金について解説します。
〈登場人物〉

■教わる人……みやおチャ太郎
会社員(58歳)。子どもは独立し、パート勤務の妻と2人暮らし。定年が近づき、「退職金はどう受け取るのがいいのか」「年金だけで暮らせるのか」と気になることが増え、定年前後のお金に詳しいみなみ先生に相談することになった。

■教える人……みなみ先生
年金や定年前後のお金をわかりやすく伝える社労士。人気YouTuberとして専門的な内容をやさしく解説している。「年金だけでは暮らせない」という不安を減らすための考え方として「年金最大化生活」を提唱。チャ太郎さんに、老後を安心して続ける知恵を伝えていく。
失業手当は「64歳以下」と「65歳以上」で金額が異なる
POINT
□64歳までの退職なら給付日数が多い「基本手当」を受け取れる
□65歳以上の退職は一時金の「高年齢求職者給付金」になり総額が小さくなる傾向に
□「64歳11カ月退職」は有利に見えるが、退職金や年金減など損をする可能性も
みなみ先生:定年退職時に会社を辞めて求職活動をする場合、雇用保険から失業手当が受け取れます。ただ、退職する年齢によって失業手当の種類が変わり、支給要件や給付額が大きく変わるのをご存じですか。
チャ太郎:失業手当って、種類があるのですか?
みなみ先生:はい。64歳以下に受け取る「基本手当」、65歳以上に受け取る「高年齢求職者給付金」と2種類に分かれているんです。
[図表1]基本手当と高年齢求職者給付金の違い 出典:『知りたいことがぜんぶわかる! 定年前後のお金の超基本』(Gakken)より抜粋
チャ太郎:そうなんですね。65歳以上に受け取る給付金は、どんなふうに違うのですか?
要件を満たせばその都度受け取れる「高年齢求職者給付金」
みなみ先生:求職活動を支える役割は同じですが、仕組みが異なります。大きな違いは支給要件がゆるいこと。基本手当は「離職前2年間で通算12カ月以上の雇用保険加入」が必要ですが、高年齢求職者給付金は「離職前1年間で通算6カ月以上の加入」で対象になります。
チャ太郎:半分の期間でいいから対象になりやすいということですね。
みなみ先生:さらに基本手当は4週間ごとの認定日があり、毎回ハローワークで失業認定をしてもらう必要があります。でも高年齢求職者給付金は一括で振り込まれる一時金方式。認定日に何度も通う必要がないので、時間や手間がかかりません。
チャ太郎:一括で入るのは助かりますね。まとまったお金があると安心感が違いますし。
みなみ先生:しかも高年齢求職者給付金には支給回数の制限がありません。年齢制限もないので、6カ月以上働いて雇用保険に入り要件を満たせば、再び離職した場合でもその都度給付金が出ます。
チャ太郎:えっ、何度でも? それは、うれしいですね。
高年齢求職者給付金は「年金との併給」も可能
みなみ先生:もう1つのメリットは年金との併給ができること。基本手当は年金と併給できませんが、高年齢求職者給付金は併給可能です。
[図表2]高年齢求職者給付金は年金との併給可能 出典:『知りたいことがぜんぶわかる! 定年前後のお金の超基本』(Gakken)より抜粋
チャ太郎:65歳より前に年金の繰上げなどで年金を受給していると、両方の“いいとこ取り”はできないのですね……。
みなみ先生:そうですね。高年齢求職者給付金は65歳以上なので、原則すべての人が当てはまり、老齢基礎・厚生年金どちらも受け取れます。
チャ太郎:もし年金では生活費が不足していたら助かりますね。
同じ加入年数でも、支給総額は「約78万円」もの差に
みなみ先生:ただしデメリットもあります。基本手当と高年齢求職者給付金では支給日数が異なります。例えば、雇用保険加入20年以上の場合、基本手当は最大150日受給できます。でも高年齢求職者給付金は同じ条件でも50日と大きく減ります。
チャ太郎:そんなに違うと、支給額も相当変わりますよね?
みなみ先生:そうです。給付金の1日あたりの上限額も異なるため、単純計算でも差が出ます。基本手当は約114万円(7623円×150日)、高年齢求職者給付金は約36万円(7255円×50日)と、約78万円もの差になります。
チャ太郎:なるほど……。たしかに、この差は気になりますね。
「64歳11カ月」で退職すれば、基本手当と年金の“両取り”が可能
みなみ先生:ここで、65歳に定年退職する人でも基本手当を受け取る裏技をご紹介します。これを使うと65歳以降でも基本手当を受けられ、年金も併給できます。よく「64歳11カ月で退職するとお得」といわれる理由です。
チャ太郎:64歳11カ月に退職……その言葉、どこかで耳にしたことがあるような……。詳しく教えてください。
みなみ先生:方法はシンプルで「65歳の誕生日の2日前までに退職する」ということです。
チャ太郎:誕生日の2日前? 一体どういうことですか?
みなみ先生:基本手当は雇用保険から支払われますが、雇用保険法では、65歳の2日前までが“64歳”とされます。例えば、4月1日が誕生日なら、前々日の3月30日までに退職すれば64歳扱いになります。
チャ太郎:ということは、そのタイミングで退職すれば基本手当がもらえるってことですよね?
みなみ先生:その通りです! そして、65歳の誕生日を過ぎてからハローワークに申請すれば、年金の受給も始められ、64歳で退職したことで確保した最大150日分の基本手当も受け取れます。
チャ太郎:「64歳11カ月に退職する」方法。お得だから使いたいですね。
みなみ先生:そうですね。ただ、この方法は、受けられる失業手当を基本手当にして増やしたい場合には、有効ですが、この方法を使うことで、かえって損をするケースもあるので、注意が必要です。
退職金や給与が減額…“裏技”でかえって損してしまうケースも
チャ太郎:具体的にはどんなことですか? 知っておきたいです。
1.退職金減額のリスク
みなみ先生:まず、1つ目は退職金減額のリスク。「65歳になった日」や「65歳以降の最初の3月31日」など、定年退職日を会社が決めていることがあります。
チャ太郎:えっ、そんな細かい日付まで決まってるんですか?
みなみ先生:実はそうなんです。こうした社内規定があると、64歳11カ月で退職すると定年退職に該当せず、自己都合退職扱いになる可能性があります。すると退職金の算定率が変わり、大きく減ってしまうことも。結果として、基本手当で増える分より退職金の減額が大きく、「トータルでみると損をした」ということもあり得ます。
チャ太郎:そうなると元も子もないです!
[図表3]「定年退職日」の主なパターン 出典:『知りたいことがぜんぶわかる! 定年前後のお金の超基本』(Gakken)より抜粋
2.給与とボーナスの減額リスク
みなみ先生:2つ目は、給与とボーナスの減額リスク。当たり前ですが、2日早く退職するということは、最後の1カ月の給与は減額されます。それから、ボーナス支給日に在籍していないと賞与が出ない会社もあります。もし退職日がボーナス支給日の直前だった場合、ボーナスはもらえない可能性があります。
チャ太郎:たしかに! ボーナス減は痛いかも。何十万円も減る可能性も考えられますね。
3.基本手当はすぐにはもらえない
みなみ先生:3つ目は、基本手当はすぐにもらえないという点です。これは、給付金が手元に入るまでの時間の問題。64歳11カ月で退職すると自己都合扱いになる可能性があり、その場合、定年退職扱いより長く給付制限がかかり、初回支給まで1〜3カ月程度かかる場合もあります。
また、基本給付は、150日分を一度に受け取れるわけではなく、28日ごとに失業認定を受けて支給されるため、すべて受け取るまでには、数カ月かかることになります。
チャ太郎:なるほど! 意外な落とし穴でした。
4.将来受け取る年金額が減る
みなみ先生:4つ目は、将来受け取る年金額が減るリスクです。厚生年金は、働く期間が1カ月でも長ければその分、年金額が増えます。そのため、働く期間を短くすることは、年金額に影響しますし、ボーナスをもらい損ねてしまう場合も影響します。年金を少しでも積み増しておくことは、将来の生活を支える力になります。
チャ太郎:デメリットも理解して総合的に判断しないとダメですね。
みなみ先生:そうですね。失業手当を増やすことだけにとらわれてしまうのは非常に危険です。仕組みをしっかり精査して総合的に判断してくださいね。
社労士 みなみ
社労士YouTuber

