もっとシンプルなLINEが欲しい…1億人突破の国民的インフラが「無料→有料アプリ」に変貌し始めた本当の理由
■1億人が支える“つながり”という価値
「LINE」が日本に上陸して15年が経った。ここにきてPayPayとの連携を始めとした“収益化”に大きく舵を切る姿勢を見せている。
無料のコミュニケーションアプリとして日本人の生活に根を張ってきたLINEの規模は圧倒的だ。国内の月間利用者数は昨年末に1億人を突破し、企業や店舗を中心としたLINE公式アカウントは127万以上、自治体アカウントも1500以上に上る。
LINEスタンプを作成するスタンプクリエイターも750万人以上に達しており、LINEヤフー上級執行役員 コンテンツ&メンバーシップドメインリードの舛田淳氏は、この「つながり」こそがLINEの価値だと、7月2日に開催された15周年イベントで繰り返し強調した。

■主力の広告収益が伸び悩む中での次の一手
背景には、主力だった広告事業の成長鈍化がある。
2026年5月に開示されたFY25(2025年度)通期決算によれば、広告を含むメディア事業の売上収益は7351億円とほぼ横ばい(前年比+0.4%)にとどまり、調整後EBITDA(正常な収益力)は2.2%の減益となった。
検索広告が前年比10%超の減収となる一方、アカウント広告が15%超の増収でこれを補う形だ。全社で増収(売上収益2.0兆円、前年比+6.2%)を確保できたのは、PayPayを含む戦略事業が同+30.6%と大きく伸びたためだ。
LINEの広大な接点をいかに持続的な収益モデルに変えていくか。それがLINEヤフーの次なる課題だ。
数ある発表の中で最も大きな注目を集めたのが、2026年夏に開始される「LINE」と「PayPay」のアカウント連携である。LINEヤフーの発足以降の重要テーマとして取り組まれてきたものだが、2023年11月に発生した情報漏洩問題によりセキュリティの再構築を行う必要性に迫られ、延期となっていた。
満を持して国内1億人規模のLINEユーザーと7400万人以上のPayPayユーザーという、国内で最大級の二つのサービスの経済圏をつなぐことになる。
■友人への送金も割り勘もLINEで完結
この連携によって最も分かりやすく変わるのが、個人間での決済だ。これまでは友人への送金にPayPayアプリを別途開いて相手を検索する必要があったが、連携後はLINEのトーク画面の中で友だちを選び金額を指定するだけで送金が完結するようになる。割り勘機能も同様にLINE上から直接指定できる。
この仕組みにより、コマースやサブスクの課金導線も、最終的にはこの決済基盤の上に乗っていくのではないかと推測される。

2015年に始まったLINEギフトは、年間1300万人以上が友人や家族への贈り物に利用するサービスに育ち、今年度の流通総額は1000億円を超える見込みだという。
そして今後は、本格的なECへと進化させる。現在「VOOMタブ」がある場所にショッピングタブが置き換わり、LINEヤフーグループのショッピングサービスを利用できるようになる。7月6日から段階的に表示範囲を広げ、9月頭の正式リリースを目指す。
これまでギフト用途で約30万点だった商品数を、LINEヤフーグループのEC全体を巻き込むことで3億点以上に広げるという。今後はLINE上で「買う」から「届ける」まで、一気通貫で行える仕組みを整える予定だ。

■目指すのは「日本最大のサブスク」
イベントでは「未来の話」として、LINEのAI「Agent i」がその人の好きなアーティストを把握、芸能ニュースからグッズの先行販売について情報を入手し、購入予約から購買まで進む例が紹介された。ユーザーの潜在ニーズを掘り起こすAIの提案から、決済・購買に至るまで、すべてのプロセスがLINEアプリ内でシームレスに完結する。この構想が実装されれば、「無敵のショッピングモール」へと化ける可能性を秘めている。
もう一つの大きな柱が、有料会員サービス「LYPプレミアム」の強化である。LYPプレミアムの会員数は約2600万人に達し、通信キャリアの回線特典を含まない「直接会員」も666万人まで伸びている。直近では「Netflixセットプラン」の投入が計画比170%以上という好調な滑り出しを見せており、直接会員数はここへきて急速に増えているという。
目標として掲げられているのは「早期に1000万人以上、将来は誰もが使う日本最大のサブスクに」という水準だ。

■15分以内のメッセージ編集が有料で実現
7月中旬には月額290円の「LYPプレミアムライトプラン」が投入される。第一弾となる「エンジョイパック」には、スタンプ使い放題、LINE通話の着信音設定、アルバムへの動画保存、アプリアイコン設定という、利用者人気の高い4特典が組み合わされる。既存の月額650円プランと併せ、今後は「手軽なライトプラン」と「すべてを詰め込んだスタンダードプラン」という二段構えの料金体系になる。

さらに秋以降には、スタンダードプラン向けに新機能が4つ追加される。送信後15分以内ならメッセージを訂正できる「メッセージ編集」、ブロックした相手の友だちリストから自分を消せる「プレミアムブロック」、日時を指定して送れる「メッセージ予約」、通話を録音・文字起こしできる「通話レコーディング」だ。8月から「LINEラボ」で無償提供し、秋以降に有料特典へ移行する。
好調なマネタイズが続くLYPプレミアムだが、新設するライトプランによってさらなる増収を狙う構えだ。ユーザー数の増加と機能拡充が進んだ結果、ユーザーのインサイトやニーズが多種多様化していることの表れと言える。
■AI機能を強化し、明確な収益源に
LINEがこれまで掲げてきた「Life on LINE」というビジョンは、AIによって「Life on LINE with AI Agent」という次の段階へ進化させるというメッセージも発表された。

例えば、複数のミニアプリをまたいでAIエージェントが飲食店探しや予約を代行したり、トークルームの中に友だちと同じような感覚でAIエージェントを招き入れてタスクの整理やスケジュール管理、写真整理をさせる機能も年内にリリースされる予定だ。
しかし、AIの役割は体験の改善だけにとどまらない。2026年5月に開示されたFY25決算資料では、AIを明確な収益源とする方針も示されている。LYPプレミアムを土台にした「ユーザー課金」、Agent i上の「Agent型広告」、購買仲介時の「Agent経由手数料」、LINE公式アカウントAIモードの「クライアント課金」という4モデルが、FY26の取り組みとして掲げられている。
■無料から収益化への設計思想の転換
ここまでのLINEの構想を整理すると、無料という広い入り口から利用頻度の高いメッセージや通話機能をユーザーに定着させ、コマースやサブスクなどの収益源を育てていく設計思想の転換が見て取れる。国内最大級の利用者基盤を持つ企業が本格的にマネタイズに乗り出すインパクトは相当なものだ。
一方で、忘れてはならない側面がある。LINEはこの15年で、家族や友人との日常的な連絡はもちろん、災害時の安否確認や行政手続きの通知など、国民生活を支える通信インフラへと成長してきた。携帯の電波が届かない災害時に衛星通信でLINEを使えるようにする「サテライトモード」などは、災害大国である日本において、まさに命綱とも言える重要機能だ。
強固なインフラを維持していくために収益化へ注力することは、巡り巡ってユーザーの利益にもつながるため、むしろ歓迎すべきことだろう。しかし、子どもからシニアまで幅広い年代が利用する巨大プラットフォームとなった今だからこそ、同時に「誰もが安全に使えること」への配慮を強く求めたい。
■シンプルなLINEの復活を求む
かつて発展途上国向けに提供されていた軽量版アプリ「LINE Lite」(2015年提供開始、2022年サービス終了)のように、メッセージ機能に絞ったシンプルなLINEを、子どもやシニアといった層に向けて提供することはできないだろうか。あるいは、アプリ内の機能を制限できるオプションの追加でも構わない。
実際、筆者は周囲やSNSなどで「子ども用にもっと機能を絞ったシンプルなLINEが欲しい」といった保護者からの要望をしばしば耳にする。
LINEの機能が拡張し、スーパーアプリ化が進むほど、ITリテラシーが必ずしも高くない層にとっては複雑化していく。それは、意図しない課金や情報の混乱、トラブルに巻き込まれるリスクの増加を意味する。
収益化の広がりと並行して、「つながる」というLINEの原点だけを必要とする人々への選択肢も用意してほしい。実現へのハードルは高いのかもしれないが、日々の生活をLINEに支えられてきた一利用者の小さな願いとして受け止めていただければ幸いだ。
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鈴木 朋子(すずき・ともこ)
ITライター・スマホ安全アドバイザー
メーカー系SIerのSEを経て、フリーランスに。SNSなどスマートフォンを主軸にしたIT関連記事を多く手がける。10代の生み出すデジタルカルチャーを追い続けており、子どもの安全なIT活用をサポートする「スマホ安全アドバイザー」としても活動中。著作は『親が知らない子どものスマホ』(日経BP)、『親子で学ぶ スマホとネットを安心に使う本』(技術評論社)など多数。
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(ITライター・スマホ安全アドバイザー 鈴木 朋子)
