【ネタバレ注意】「過去に戻って人生をやり直したい」人が急増中…タイムスリップドラマの流行が映し出す「令和の閉塞感」

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「タイムスリップ」ドラマが3作品も

この4月ドラマでは時間遡行ものが目立った。

いわゆるタイムスリップものである。

高橋一生の『リボーン〜最後のヒーロー〜』、濱田岳の『刑事、ふりだしに戻る』、加藤清史郎の『君が死刑になる前に』と3本あった。

(以下しっかりネタバレしますのでご注意ください)

もうひとつ、『ターミネーターと恋しちゃったら』も400年後の未来から先祖を守るためにアンドロイドがやってくる話だけれど、主人公たちはべつだんタイムスリップしなかったので、ちょっと違う。

『リボーン』、『刑事、ふりだしに戻る』、『君が死刑になる前に』の3本は、主人公が過去に戻ってしまう。そして過去の失敗をやり直そうとするドラマである。

いまどきどんだけ「人生やりなおしたい」とおもっている人が多いのかと感じ入ってしまうが、令和8年4月期ドラマでは特に目立っていた。

ただ、時間遡行といっても、それぞれ違う。

『リボーン』は2026年に遣り手の社長(高橋一生)が階段から落ちて死んだとおもったときに、14年前にタイムスリップ、2012年に飛んだ。しかも、顔がよく似ている別人となって生まれ変わっていた。時間遡行&入れ替わりドラマであった。主人公は2012年からやり直して、2026年まで生きる。

『刑事、ふりだしに戻る』は、主人公の刑事(濱田岳)が2026年世界で犯人を追ってSITに誤射される。死んだとおもったら雷に打たれて2016年にタイムスリップしていたというお話。恋人(石井杏奈が演じる新聞記者)は10年前に射殺されており、その少し前に戻れたので彼女が殺されるのを阻止しようとする。

10年前から現在までを生き直すドラマであった。

『君が死刑になる前に』は主人公(加藤清史郎)と仲間二人(鈴木仁・与田祐希)は2026年世界から2019年にタイムスリップする。そこで「7年後の2026年に死刑となる女性(唐田えりか)」と遭遇し、彼女がやったとされる教師連続殺害事件の真相を探り、彼女の死刑を回避しようとするドラマである。

懐かしい「空想科学」という言葉

『リボーン』と『刑事、ふりだしに戻る』は過去に戻って、そこから一度だけ生き直すドラマである。

何かにけつまずいたように、たまたま過去に戻ってしまうが、(そして前世の記憶もあるが)そのあとはふつうに生きて現在に到る。過去に戻るのは一度きりである。

『君が死刑になる前に』は過去と現在を行き来する。

タイムマシーンがあるわけではなく「ある場所を、ある条件のもとで通過すると2026年と2019年を行き来できるらしい」ということがわかってくる。

1話で2026年から2019年に3人そろってスリップしてそのまま2019年でしばらく過ごし、5話で3人そろって2026年に戻る。6話で再び3人で2019年にスリップして(狙って成功した)、7話で主人公(加藤清史郎)1人だけ2026年に戻ってしまう。主人公1人が8話でなんとか2019年に戻って、3人でいろいろ活躍して、最終話でまた2026年までスリップしてしまう。

主人公は、2026→2019→2026→2019→2026と、2往復している。

『君が死刑になる前に』だけはかなり「空想科学ドラマ」な仕上がりになっていた。

3人で一緒に7年前に戻るので、「2026年からやってきた旅行者セット」のように扱われる。2019年世界で、スリップしてきた3人は別世界から来た存在として扱われて、「未来の彼ら彼女ら」とは別に2019年の彼ら彼女らも同時存在しているのだ。

与田祐希演じる月島凜は、2019年の高校生としても登場し、主人公たちが接触する。ついには「24歳の凜が、17歳の凜に直接アドバイスする」というシーンまであった。

まさに空想科学である。というか科学ではないけど。

あらためて「空想科学」という言葉が懐かしい。この言葉が使われていた時代は、あまり大人向けに「未来や過去を行き来する」物語は作られていなかった。

『リボーン』と『刑事、ふりだしに戻る』は、一回きり過去に戻るばかりなので、それが同一人物内で起こっているのなら、「変な夢を見た」ということで説明できないわけではない。

たとえば、ふりだしに戻った刑事は。2016年の新人刑事時代に居酒屋のトイレで意識を失って、そのとき長い夢(2026年まで生きていた夢)を見て、起き上がったら、夢を細かく記憶したまま人生を続けた、と考えることはできる。

入れ替わりも、かなり強い妄想を抱く人だと考えれば、説明できないわけではない。

行き来するのは、それはおとぎ話の世界となる。

「人生をやり直す」ストーリー

過去へのタイムスリップものが描いているのは「もし、人生をやり直せたら」というお話である。やり直せたら、たぶん後悔なく生き抜けるだろう、という物語だ。

「これから起こることを(ある程度は)知っている」というアドバンテージを持っているのに、おもったほど優位には動けなくて、四苦八苦する。でも、最後はなんとかアドバンテージを活かして幸せな未来につなげる、という話が基本である。

3本も時間遡行ドラマが放送されるのは、いまの人たちが、言葉にしないまでも2026年世界がそんなに楽しいわけではない、と告白しているようである。まあ、そうなのだろう。

時間遡行物語は、あまりにも「自分に都合の良い手前勝手な設定」なので、こういうドラマには2つの約束事がある。

ひとつは「コミカルに仕上げる」ということである。

現実には起こらない夢の話みたいなものだから、真剣に描かず、なるべく軽めに仕上がっていることが求められる。どれにも軽妙さがあるし、それが似合う役者が主演をつとめている。

もうひとつは「時間遡行というアドバンテージをもらったぶん、何かを引き換えに差し出さないといけない」という決まりである。

これは、時間遡行に限らず「自分のために不思議な力を使うには代償を必要とされる」というファンタジー全般の約束ごとである。一般人がいきなり魔法を使うと、何かを差し出してもらうことになるよ、というのが人間と魔界の約束事だからだ。

『リボーン』と『刑事、ふりだしに戻る』は、もともとの世界線では、主人公は「死んだ」ことになっていて、つまり「命を助けてもらってやり直し」という大ボーナスで物語は始まるから、きちんと代償を要求される。

『リボーン』は2026年まで戻って、「神社の長い石段から落下して死ぬ」は防いだのだが、でもそれから間もなくして死んだらしい。仏壇に主人公の遺影が飾ってあった。

『リボーン』は入れ替わりドラマでもあってややこしいのだが、大筋でいえば、「もともと起こった良くないこと」を変えようと努力して、細かい部分は変えられたが、大きい流れは変わらなかった、という内容であった。それに沿って、そもそも主人公はこの時期に死ぬものだった、という「決まっていたこと」が守られた。

なかなか考えさせられる結末であった。

ドラマは面白ければいい

やり直すことはできるが、寿命は変えられない、というのは、人生のある真実だろうから、それをあらためてお話として見せてくれたことになる。

人間の力の及ぶところは限られている、ということでもある。

それもまた物語に教えられてきた教訓だ。

『刑事、ふりだしに戻る』は、人生をやり直して、恋人の死を防いだ。ついでにその事件がらみの真相も明らかになった。世界は少しよくなった。

代償は「主人公も恋人もお互いの記憶をなくし、存在も知らなくなる」であった。

恋愛ものとしてはなかなか切ない。

ただし、二人は10年後に出会い直して、似たような経路を辿りそうなところで終わった。10年ぶん年くってからの再会かとおもったが、まあ、出会わないよりはいい。

ズルしたら報いを受ける、という話でもある。

『君が死刑になる前に』は少し違った。

現在と過去を2往復して、世界を変えた。主人公が正しいとおもっているほうに変えられた。

ただ、自分に関わることを変えたわけではない。たまたま出会った「君」の無実を証明したばかりである。他人のために動いた。

だから、代償は要求されない。

自分が得しないときは、代償は要求されないという「いいほうの悪魔との契約」みたいである。最終的に戻った2026年では、もといた2026年より自分の立場が良くなっていた。(映像作家として評価されていた)

「他人のために一生懸命働いたら、あなたにもいいことが起こる」という教訓が含まれていたことになる。

ここもまた、ずいぶんおとぎ話的な作りになっている。

時間遡行の物語は、どうしてもおとぎ話的な教訓をつけないと、おさまりがつかないと(たぶん作っているほうが)おもっているようである。

それでかまわない。ドラマはおもしろければいいんである。

このクールの時間遡行物語は、3本とも最終話で「真犯人がわかる」というミステリー部分を抱えていたから、最後までおもしろかった。

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【著者】堀井憲一郎 1958年生まれ。京都市出身。コラムニスト。著書に『若者殺しの時代』『落語論』『落語の国からのぞいてみれば』『江戸の気分』『いつだって大変な時代』『やさしさをまとった殲滅の時代』(以上、講談社現代新書)、『かつて誰も調べなかった100の謎』(文藝春秋)、『東京ディズニーリゾート便利帖』(新潮社)、『恋するディズニー 別れるディズニー』 (新潮新書)、『いますぐ書け、の文章法』(ちくま新書)などがある。

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