若い頃から排便は週に一度の便秘持ち。ある日、トイレが血に染まり、お腹に激痛が!救急車で運ばれ緊急手術となった病名は――
厚生労働省が行った『国民生活基礎調査』(令和元年)によると、日本では男性2.5%、女性4.4%の人が便秘を感じていると報告されています。出るも出ないも悩みの種。おなかの具合に振り回されて……。横浜智子さん(仮名・神奈川県・主婦・77歳)は、若いころから便秘に悩まされていましたが、ある日、血便の後お腹の痛みが激しくなり、救急車で病院に運ばれて――。
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あまりの痛みに耐えられず
私は若いころから便秘に悩まされてきました。普段から1週間近く排便がなく、ずっとおなかが重いのです。トイレにこもって20〜30分踏ん張っても、ヤギのフンのようなコロコロッとした便ばかり。スッキリ! とはなかなかなりません。
以前は、自分の好きなタイミングでトイレに行けない仕事柄、便秘になるのも仕方ないと放置していました。
しかし今から9年前、人生を一変させる出来事が起こったのです。6月のある朝、やっと便を出し終えてほっと腰を上げたところ、便器のなかが赤く染まっていました。痔になってしまったのかな? と不安を覚えましたが、ひとまず様子を見ることに。
一夜明け、心配する夫を「大丈夫だから」と言って仕事に送り出した途端、再びおなかが痛くなり始めたのです。だんだんと激しくなる痛みに、みるみる冷や汗が出てきました。一歩も動けず、ソファにうずくまるしかありません。
家には私一人きり。とにかくこの痛みがおさまってくれれば……との願いもむなしく、1時間経っても状況は変わりませんでした。腹痛で救急車を呼んでもいいのだろうかと悩んでいるうちに思い出したのが、友人のMさん。
医療関係の仕事をしている彼女は電話に出ると、「今日は休みだからすぐ行くわ!」と心強い返事をくれました。しばらくして駆けつけてくれたMさんは、私の様子をテキパキと確認すると、すぐに救急車を呼んでくれたようです。
サイレンがこちらに近づいてくる音や、受け入れ先が決まらないのか周囲がざわざわしていたことを断片的に覚えています。どれくらい時間が過ぎたのかはわかりません。救急車が動き出し、「緊急手術!」という声が聞こえたのを最後に私は意識を失いました。
目覚めたのは丸1日半が過ぎたころ。傍らにいた夫と息子によれば、手術にはなんと7時間半もかかったのだといいます。
「あれ? なんでいるの?」
と、関西にいるはずの息子に尋ねると、夫から連絡を受けて飛んできたのだとか。2人でまんじりともせず手術が終わるのを待っていてくれたと聞き、申し訳なさと感謝の気持ちでいっぱいになりました。
容体は安定し、数日後には個室へ移動。そこで主治医から、私の病状と手術後のケアなどについて説明をしていただきました。告げられた病名は、「大腸がんのステージII」。今回の手術で悪性の箇所を切り取ることができたのはよかったけれど、これからは人工肛門をつけての生活が必要だと言われました。
この数日間、自由に体を動かせなかった私は、すでに手術が済んでいることに気がついていませんでした。医師が私の手を腹部のわきに持っていってくれて、はじめて人工肛門が装着されていることを知ったのです。生活が一変したことへの不安と悲しみに、ただただ涙が止まりませんでした。
相棒とともに憧れの舞台へ
「ストーマ」と呼ばれる人工肛門が、私の体を助けてくれていることは理解していたのです。ただ、しばらくはおなかに器具をつけて生活することへの違和感がぬぐえず、時間をかけてだんだんと納得し、受け入れていったように思います。これから一緒に生きるのだからと、ストーマを「マメちゃん」と名づけ、体の一部だと思おうと決意したのです。
主治医は、「マメちゃん」という私の名づけに大笑いしたあと、退院後のことを話しましょうと言ってくださいました。そこで私は、「実は今年のクリスマスに、夫と息子には内緒でとある演劇に出演者として応募している」と打ち明けたのです。「あと半年で舞台に立てるまで回復できるでしょうか?」と聞くと、「参加できるように頑張りましょう!」と。こうしてリハビリの目標が定まりました。
投薬、リハビリとスタッフの方に支えられ、体は少しずつ回復へ。退院までの2ヵ月間、夫は毎日決まった時間にお見舞いに来てくれました。気恥ずかしいですが、その様子は、「これは2回目の恋愛?」なんて思うほど。
夫に演劇のことを話すと、「目標ができていいことだね」と励ましてくれました。数日後、いつもの足音が聞こえてきたと思えば、入室するなり「朗報だよ!」。聞くと、私の体でも演劇に参加してよいと劇場の担当者から許可が下りたと言うのです。
口下手な夫が私のために問い合わせてくれて嬉しいやら、オッケーが出てほっとするやら。涙とともに思わず相棒のマメちゃんにも「一緒に、舞台に立とうね!」と報告していました。
私が参加したのは故・蜷川幸雄氏が立ち上げた高齢者演劇集団、「さいたまゴールド・シアター」。満55歳以上の素人を集めて、ひとつの劇を作り上げてゆくという企画でした。コンセプトに大いに感動して、応募を決めたのです。
稽古場のあるさいたまスーパーアリーナまで、片道2時間半。一人で通って練習できる体力をつけるという目標に向けて、リハビリを乗り越えることができました。
始まるまではあれこれ心配していましたが、いざ練習が始まるとあっという間の日々。俳優仲間には車いすの人もおり、いろいろな背景を抱えた人生経験の多いメンバーが集まっています。皆で一つのことを目指すなんて、何だか学生時代に戻ったかのよう! 演じている時は、おなかの悩みも頭から消えていました。
一回も欠かさず練習に参加し、いよいよ迎えた本番。客席には夫と息子の姿がありました。舞台上の私の姿は良いクリスマスプレゼントになったでしょうか。
数年前に行った2回目の手術で、四六時中おなかにいた相棒のマメちゃんは取り除かれました。たかが便秘と思って放置していた異変が、こんな一大事になるなんて。絶望も、幸福も味わった出来事でした。
気を付けたい便秘は…
横浜さんは若い頃から便秘がちだったことで、大腸がんに気が付くことが遅れてしまいました。
便秘にはさまざまな原因がありますが、大腸がんで大腸が狭くなると排便がスムーズに行えず、便秘の原因となることがあります。
便が細くなる、コロコロとした便が出る、便秘と下痢を繰り返す、便に血が混じるなどの症状があったら、早めに消化器科。胃腸科、肛門科などを受診しましょう。
●大腸がんとは(国立がん研究センター)
https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/clinic/colorectal_surgery/140/index.html
大腸がんは見つけるのが早ければ早いほど完全に治る可能性が高くなります。がんの早期発見のため、定期的ながん検査を心がけましょう。
●各自治体のがん診断窓口
https://www.med.or.jp/forest/gankenshin/contact/map/
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