(※画像はイメージです/PIXTA)

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孫の誕生は喜ばしいイベントです。しかし、孫の存在が祖父母の心身を追い詰めるケースも少なくありません。特に、共働き世帯が増加する現代、多忙な子ども夫婦を支えるための「善意の協力」が、かえって親子関係を歪めてしまうことも……。事例をもとに、高齢の親と成人した子の“適度な距離感”について考えてみましょう。

善意からはじまった“孫育て”だったが…

埼玉県在住のクミコさん(仮名・64歳)。数年前に夫を亡くし、現在は夫が遺してくれた自宅で一人で暮らしています。月13万円の年金で慎ましくも穏やかな老後を送っていたクミコさんでしたが、約2年前、待望の初孫が生まれてからというもの、生活が一変しました。

クミコさんのひとり娘のナオミさんは、夫とともに、とある競技のプロとして活動しています。普段は自分たちの教室を開いて生徒の指導にあたりながら、定期的に開催される大会に出場するため、夫婦で全国を飛び回るという非常に多忙な日々を送っていました。

「最初は孫に会える嬉しさから、私も喜んで手伝いを引き受けたんです。多忙な娘夫婦を応援したいという、純粋な善意からでした」

しかし、その生活はすぐにクミコさんの想定を超える過酷なものとなりました。孫が保育園に入るまでの間、クミコさんは週に6日、娘夫婦の家へと通い詰めることになったのです。

担当したのは、孫の世話だけではありませんでした。多忙を極める娘夫婦に代わり、夫婦の分の食事作りから、まだ手のかかる孫の離乳食の準備、さらには部屋の掃除や洗濯に至るまで、すべての家事をクミコさん一人が担っていたというのです。

「小さな子どもは一瞬でも目を離すと、どんな予期せぬ行動をとるか分かりません。万が一にでもケガをさせるわけにはいかないというプレッシャーから、常に神経をすり減らしていました」

娘の夫の反応は…

この生活が始まった当初、娘の夫は「お義母さん本当にすみません、ありがとうございます」と恐縮しきりだったそうですが、数ヵ月後にはすっかり“当たり前”となった様子。仕事から帰宅し、クミコさんが作った夕食を前にして「お義母さん、次から僕の分はもっと多めに作ってもらっていいですか?」と振る舞う始末です。

「お金」はどうしている?

クミコさんの体力的、精神的な負担に対する配慮や、家事代行に対する労いの言葉は、日を追うごとに薄れていきました。

「最初は喜んでやっていたはずなのに、ある日の夜、疲れ果てて自宅に戻ったとき、ふと『なんで私はここまで自分を犠牲にして尽くさなきゃいけないんだろう』と思ってしまったんです。自分の時間も体力も、すべて吸い取られていくような感覚でした」

娘夫婦は、ここまで尽くしてくれるクミコさんに対して、金銭は一切渡していないといいます。年金月13万円の限られた生活のなか、娘夫婦の家へ通うための交通費や日々の食材費が、クミコさんの家計を圧迫していきました。

「孫はいまでも本当にかわいいです。成長を見るのは嬉しい。でも、正直もうしばらくは会わなくていいかな……というのが本音です」

現在、孫は保育園に入園したものの、娘からスマートフォンに連絡が入るたび、クミコさんは「また急な呼び出しや、休日の子守りの要請ではないか」と怯えるようになってしまったといいます。

「核家族で共働き」の限界

厚生労働省の「2025(令和6)年国民生活基礎調査」によると、児童のいる世帯数(907万4,000世帯)のうち、「核家族」は784万2,000世帯とされています。その割合は約86%と、かつてのような三世代同居による日常的な育児の分散はほとんどの世帯で行われていない状況です。

一方、共働き世帯は増加の一途を辿っています。総務省統計局が2025年2月に公表した「労働力調査(詳細集計)」によると、2024年時点の共働き世帯は1,300万世帯と、前年(2023年)の1,278万世帯から22万増加しました。

親から“搾取”する子ども

こうした状況のなか、公的な保育サービスや民間サポートだけでは埋めきれない育児の穴を、近隣に住む祖父母に頼る共働きの核家族世帯は少なくありません。ただし、ここには重大なリスクと問題点が潜んでいます。

高齢の親に対する過度な依存で問題なのが、「経済的・精神的な搾取」の構造です。

子ども世代が親の支援を「便利な無償の人手」と捉えることで、親側の自由な時間や、年金から支出される細かな生活コストが顧みられなくなります。

親への依存が招く最悪の事態

親が「子どものためだから」と無理を重ねて判断能力や体力を失えば、最終的には早期に介護が必要な状態となり、子ども世代へ介護負担としてブーメランのように跳ね返るという「共倒れ」の構図を生み出しかねません。

親しき中にも礼儀あり…家族の「適切な境界線」とは

育児支援を巡るトラブルを防ぐためには、親世代が元気なうちから、子ども夫婦に対して明確な「一線」を引くことが重要です。

たとえば、何曜日なら手伝えるのか、どのような作業であれば対応可能なのかなど、できることをあらかじめ具体的に提示する。それを超える部分については「できない」と断ったうえで、民間シッターや自治体のファミリー・サポート・センター事業など、外部インフラを活用させましょう。

善意ではじめたサポートも、自己犠牲が限界を超えれば家族の絆そのものが崩壊します。たとえ愛するわが子からのお願いであっても、ときには毅然と断る……その勇気を持つことが、良好な親子関係を保つためには必要なのかもしれません。