TikTok Shop は「黒船」か、それとも「共存者」か? 米国の先行事例に学ぶ

Firework Japan株式会社でGlobal Revenue Operationを統括する瀧澤優作氏による全4回の寄稿シリーズ。本稿では、その第1回として「TikTok Shopの台頭と注目の背景」について考察する。
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瀧澤 優作/Firework Japan株式会社 慶應大学在学中にシリコンバレーへ留学し、2017年、創業3カ月のFireworkに7人目のメンバーとして参画。2021年よりFireworkの日本事業立ち上げを指揮。2024年までカントリーマネージャーとして、統合型動画ソリューション「Firework」の日本市場立ち上げを推進。現在はFireworkのGlobal Revenue Operationを統括。
先行する米国市場のリアル:「急成長」の光と「構造的課題」の影
TikTok Shopが米国で導入されたのは2023年で、当初は大きな注目を集めました。この熱狂は「久しぶりに本格的な新しいコマースが現れた」と感じるほどでした。実際、TikTokは配送費の補助や低い取引手数料(2%程度)に約5億ドル(約750億円)規模のプロモーション費用を投じ、多くのブランドが参入しました。美容ブランドのタルト・コスメティックス(Tarte Cosmetics)が30日間で約800万ドル(約11億円)の売上を達成し、その大半がアフィリエイト経由だったという報告や、電子機器ブランドのプリズムプラス(PRISM+)が年末商戦期にTikTok経由の売上が前月比58.6%増を記録した成功事例も存在します。TikTok Shopの流通総額(GMV)は2024年に約332億ドルに達し、そのうち米国市場だけで約90億ドルを占める規模に成長しました。※1ドル=150円換算、2025年秋時点の為替水準に基づくしかし、2024年に入ると状況は一変します。TikTokによるプロモーション費用が大幅に削減されたうえ、取引手数料は従来の2%から最大8%に急増し、さらに一部取引では30セントの固定チャージが追加されました。このコスト構造の変化により、多くのブランドで利益率が圧迫されやすくなりました。※手数料の段階引き上げ(2%→6%→8%)/$0.30固定(2024年報道)TikTok Shopの急成長の背景には、プラットフォーム全体の利用拡大があります。2023年から2024年にかけてTikTokのアプリダウンロード数は高水準で推移し、2023年Q3には2億6500万件とピークを記録しました。2024年Q2も約2億5200万件と高い水準を維持しています。
出典:AMZScout/Statista 2024
しかし、TikTok Shopの平均購入単価(AOV)が約43ドル(約6500円)と、InstagramやFacebook Shopの平均95ドル(約1万4000円)と比較して圧倒的に低いことも判明しました。これは、ユーザー層が若年層で購買力が低い傾向にあることや、ビジュアル訴求による衝動買いで低価格帯の製品(SheinやTemuのような安価な製品)が中心となっていたためです。その結果、パクサン(Pacsun)やビーチウェーバー(Beachwaver)など、初期に成功事例として取り上げられたブランドの多くが、TikTok Shopからの撤退や、購入導線を自社ECサイトやAmazonへ変更する動きを見せました。特にソル・デ・ジャネイロ(Sol de Janeiro)のように、プラットフォーム上で模倣品が出回ったことがブランド毀損につながると判断し、撤退を決定したケースもあります。グローバルEC構造の比較と日本市場への示唆
TikTok Shopの動きを理解するには、中国と米国のEC構造の違いを把握することが重要だと私は考えています。この構造の差が、TikTok Shopの立ち位置やブランドの戦略判断に大きく影響しています。
中国では、タオバオなどの大手ECプラットフォームで買い物をすることが主流で、ブランドが自社ECサイトを持つ商習慣はほとんどありません。また、人件費が安いため配送費も非常に安価で、平均単価が低い商品でも利益を確保しやすい構造です。いわば、「超・プラットフォーム型」のエコシステムです。一方、米国ではAmazonやウォルマート(Walmart)といった巨大プラットフォームが存在しつつも、各ブランドが自社ECサイトを伸ばしていく動きが盛んで、売上規模が非常に大きいのが特徴です。「超・プラットフォーム型」の中国に対して、ブランド各社が自社ECサイトの成長を重視する「ハイブリット型」の構造が浸透しています。人件費が高い(配送費が高い)ため、ブランド側はECの利益率に非常に敏感です。米国ブランドの視点では、TikTokはティーンエイジャーなどが時間を費やす新しいメディアとしては注目されているものの、販売チャネルとしての優先順位は低いと感じています。利益率が高いのは、店舗でのピックアップや自社ECサイトでのサインアップを通じてLTVを上げることだからです。実際、米国ではアプリのメイン画面から「ショップ」タブが消えるなど、コマース機能の推進力は低下傾向にあります。つまり、TikTokがすべてのブランドにとっての「売り上げの柱」になるわけではないという現実が浮き彫りになっています。そして、日本のEC商習慣は米国に近いと考えられます。自社ECへの信頼、決済・物流品質への期待、レビュー文化などがその背景です。したがって、TikTok Shopも中国のような爆発的普及ではなく、米国と同様に導入直後の1年間は「カオスな状態になる」と予測しています。日本市場で「信頼構築」が最大の鍵
日本市場でTikTok Shopが爆発的に普及しない最大の理由は、消費者側の「映像を見ながらその場で購入する」という新しい購買行動がまだ定着していないことにあると思っています。また、日本のEC市場はAmazonや楽天が長年築き上げた「価格とクオリティ勝負」の信頼資産が根強いため、TikTok Shopがいきなりこれらを「脅かす黒船」になる可能性は低いと見ています。先行する調査でも、TikTok Shopの認知度は広がる一方、購入意向が低い理由のトップは「信頼できないから」であり、日本市場での信頼構築の重要性が浮き彫りになっています。しかし、私はTikTok Shopが既存プレイヤーと「共存できる」存在になると分析しています。Amazonや楽天が「価格と利便性」で戦う場であるのに対し、TikTok Shopは「今時のクリエイティブを発信しながら、ブランドやストーリーで勝負する場」となるでしょう。これは、TikTok Shopが「商品が人を見つける」発見型ECであり、コンテンツ視聴から衝動購買に至る新しい購買行動を生み出すからです。特にライブ配信は、TikTok Shop認知ユーザーの9割以上が視聴経験を持ち、そのうち約3人にひとりが購入に至るという調査もあり、強力な購買動機になり得ます。ただし、日本の消費者の購買行動を変容させるには、過去のPayPayの例のように、プラットフォーマーによる大規模な資金と時間の投資(米国では約800億円規模のプロモーションが投じられました)が必要だと私は考えています。日本企業のためのマーケティング活用の4つのヒント
米国市場の成功と失敗の教訓、そして日本市場の特性を踏まえ、企業がTikTok Shopを強力な新規獲得チャネルとして活用するための次の4つの戦略視点を提案します。「売れやすい商品」を見極める商品戦略成功の鍵は、衝動買いを促す低価格帯(目安1万円以下)で、ビジュアル訴求が重要な商品に焦点を当てることです。とくにAOV(平均購入単価)がほかのSNSと比べ低い(TikTok:約43ドル/Instagram:約95ドル)ことを踏まえると、高単価で比較検討が長い商材はTikTok Shopには不向きです。SNS(TikTok)と自社ECサイトでは戦略を分けるべきで、TikTokでは、新規・若年層顧客獲得のため、安価で手が届きやすい新作を期間限定で販売するのが有効です。たとえば米国の成功ブランドの多くは、TikTokで「バンドル(まとめ売り)」や「期間限定オファー」を用い、単価を底上げしつつ顧客との初回接点を作っています。「本物らしさ」を追求するコンテンツとライブコマースTikTok Shopでは、ライブ配信やショート動画において「オーセンティシティ(本物らしさ)」が極めて重要です。単にインフルエンサーに任せるだけでなく、ブランドの創業者や「中の人」が顔出しで出演することで、リアルな使用実感や説得力が増し、信頼獲得に繋がります。ライブ配信は週に3〜4回、1回あたり2時間程度の配信が理想的ですが、短い時間でも継続することが効果的です。配信中は視聴者のコメントにリアルタイムで回答し、「今そこで買う理由」(限定商品、割引、イベントとの連動など)を明確に提示することが、購買を促す決定的な要素となります。日本市場ではとくに「信頼感の欠如」がTikTok Shop普及のボトルネックとなっているため、本物らしさは演出ではなく戦略になります。インフルエンサーとの協業と「動画資産」の二次活用米国市場と同様、日本でもTikTok Shopにおける売上の相当部分がインフルエンサー経由になると予測されます。起用するクリエイターは、フォロワー数だけでなく、「正直な意見を伝える信頼性」や「専門性」「親近感」を優先して選定すべきです。さらに重要なのは、TikTok Shopで得られた動画コンテンツを「動画資産」として捉えることです。これを自社ECサイトやAmazon、広告、実店舗など他チャネルでの二次活用(スピルオーバー効果)を意識することで、新規顧客獲得だけでなく、LTV(顧客生涯価値)を高めロイヤルカスタマーに育成していく上で不可欠な視点となります。運営効率と収益性管理の徹底TikTok Shopは初期費用・月額費用が無料で始められますが、利益率の管理はシビアに行う必要があります。米国での手数料引き上げの事例(最大8%)からもわかるように、チャネル増加による管理コストの上昇を粗利率に含めて厳しく見込むべきです。物流面では、注文から7営業日以内に「Ready to Ship」にならないと自動キャンセルされるリスクがあるため、迅速な物流体制が必須です。ShopifyやBASEといった既存ECプラットフォームとの連携を活用し、在庫管理や発送業務の効率化を図ることも重要となります。すなわち、「TikTokで売る」は簡単でも、「TikTokで利益を残す」には仕組みが必要です。勢いと話題性の裏側で、冷静な収益設計が勝敗を分けるポイントになるのではないかと考えています。
米国市場の先行事例をもとに、日本企業がTikTok Shopを戦略的に活用するための実践チェックリスト
