記事のポイント
各ブランドは関税や経済不安のなかでも、品質や共感を軸に夏商戦に挑んでいる。
メイドインやキーンなどは強みを生かし、価格維持や多様性対応で支持を得ている。
「癒やされたい」と「節約したい」が同居する今、感情価値の提供が重視されている。


目のくらむような関税や高騰するコスト、経済の先行き不透明感。いずれも夏の商戦にとって追い風とは言いがたい。それでもブランド各社は、まさにこうした逆風を見据えた数カ月先の計画に取り組んでいる。

小売業界には回復の兆しも見えはじめており、米国の消費者心理指数は6カ月ぶりに上昇した。それでも不安を抱える消費者は多く、ブランドからの値上げ告知に関するEメールが相次いで届くなか、自分のお気に入りの製品が関税の影響をどれほど受けるのか、消費者自身も理解を深めつつある。

一方で、高額な買い物に対しては依然として慎重な姿勢が根強く、必需品以外の購買を控える傾向が続いている。さらに、全国的に広がる政情不安が、今後の消費行動を大きく変える可能性もある。

ブランドは「ウォレットシェア」の争奪戦に直面



調理器具ブランド「メイドイン(Made In)」の共同創業者チップ・モルト氏は、「経済の全体像は以前より明確になってきた」としながらも、依然として多くの消費者が慎重な姿勢を崩していないと指摘する。

「いまやウォレットシェアを奪い合うゲームになりつつある。消費者は支出をより厳選するようになっており、我々のようなブランドは同業他社だけでなく、あらゆる裁量的支出の対象となるブランドと競い合っている状況だ」と同氏は米ModernRetailに語った。

こうした環境のもと、各ブランドはこの夏、顧客がもっとも重視しているとみられる「品質」「耐久性」「実用性」「シンプルさ」へのこだわりを強めている。

各社はこれらの要素を反映した新商品を打ち出すとともに、来店促進のためにセールや割引を積極的に実施している。その背景には、より大きな経済的・社会的・政治的な混乱が横たわっている。

製品開発について、メイドインのチップ・モルト氏は、夏に向けて「革新的で現実に根ざした」製品づくりに力を注いでいると語る。

「支出に対してより厳しい目が向けられる今、製品はただ優れているだけでなく、その価値を伝える説得力が求められる」という。その一例として、メイドインはこの夏、キャンプやテールゲートパーティー、ビーチでの調理に適したハンドメイドのポータブルグリルを発売予定だ。

「この製品が支持されるのは、人々のライフスタイルの大切な瞬間に寄り添い、それを高める存在だからだ」とモルト氏は話す。

エリックスは心と体のケアに寄り添う施策を展開



一方、女性向けウェルネスブランドのエリックス(Elix)は、より幅広い顧客層へのアプローチを狙い、セール施策を拡大中だ。

2024年は6月に1回のみセールを実施したが、2025年はEメールやSMS限定のプロモーションとあわせて「夏至セール」を開催していると、マーケティング担当バイスプレジデントのメリル・モンゴメリー氏は説明する。さらに7月には、毎週金曜日に中医師による無料の健康指導セッションも実施予定だ。

「夏が近づくにつれ、多くの人が身体的にも感情的にも過剰な刺激や燃え尽き感を抱えやすくなっている。我々は、そうした人々に対して、より深い知識や気づき、そして癒しを届けたいと考えている」とモンゴメリー氏は語る。

キーンは実用性と価格への信頼で応える



フットウェアブランド「キーン(Keen)」のCMO、ニック・エリクソン氏は、夏は「アウトドアに特化した製品を展開するキーンにとって、いつも忙しい季節だ」と語る。しかし今年は、消費者の購買行動に変化がみられると認める。

「今年の消費者は、より慎重で戦略的に買い物をしているようだ」と述べ、衝動買いから計画的な購買へのシフトが起きていると指摘した。さらに「より少ない数の、より責任ある商品を選ぶ傾向が強まっている」とも述べた。

キーンでは、こうしたインサイトを夏のマーケティング戦略に反映させている。防水型の登山靴からオープンエアースニーカーまで、複数のシーンに対応でき、耐久性に優れた製品を打ち出していく方針だ。また、価格面の訴求にも力を入れており、今年初めには2025年は関税による値上げを行わないと明言している。

ニックケイシーは価格・サイズ・共感を軸に訴求



ジェンダーフリーのフットウェアブランド「ニックケイシー(NiK Kacy)」の創業者、ニック・ケイシー氏は、今夏の戦略について多段階のアプローチを採用していると語る。

「現在のすべての取り組みは、アクセスのしやすさと手頃な価格を出発点にしている」とケイシー氏は説明する。

今年はほかのフットウェアブランドとの提携により、自社開発のジェンダーフリーな靴型の使用を許可。これにより、関税の影響による突発的な価格上昇を回避しながら、より多くの顧客に多様なサイズ展開を届けられるようにしているという。

加えて、ニックケイシーはほかの工房と連携し、限定生産のアクセサリーを紹介。プライド月間の売上の一部は、トランスやノンバイナリーのコミュニティ支援に寄付される。またマーケティングキャンペーンでは、ニックケイシーの靴を履いているユーザーや、同ブランドが再投資するコミュニティにスポットを当てている。

すべての購買行動の背景にある感情の葛藤



ブランド各社が共通して語るのは、政治的にも経済的にも不安定なこの時代に、製品に「付加価値」を持たせたいという思いだ。

モルト氏は「いまは人々が精神的にも感情的にも、そしてデジタル的にも疲れている時代だ」と述べ、ケイシー氏も「多くの人が、ちょっとした楽しみに自分を癒やしたい気持ちと、お金を貯めておきたい気持ちのあいだで揺れている」と語る。

「その葛藤こそが、今日のすべての購買判断の根底にある」と、ケイシー氏は締めくくった。

[原文:Brands Briefing: Brands are drumming up tactics to boost consumer sentiment during a fraught summer]

Julia Waldow(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:藏西隆介)