スマートフォン時代に適応した漫画の新しい姿ともいえる「ウェブトゥーン」について解説します(写真:mayucolor/PIXTA)

『鬼滅の刃』の経済規模は約1兆円といわれるなど、いま漫画ビジネスは、日本の次なる輸出産業として活況を呈している。

今回は、漫画の新しい姿ともいえる「ウェブトゥーン」について、漫画専門のシンクタンク代表である菊池健氏の著書『漫画ビジネス』から、一部を抜粋してお届けする。

ウェブトゥーンビジネスの始まり

ウェブトゥーンとは、スマートフォン上で読むことに特化した縦スクロール形式のカラーコミックを指します。2010年代中盤から日本でも定着し始めたこの形式は、従来の横読み漫画とは異なり、スマホ画面に最適化されたコマ構成とセリフ配置が特徴です。

世界市場の概況として、中国のリサーチ企業・QYResearchによると、2021年のウェブトゥーン市場規模は約5300億円で、2028年には約3兆8500億円まで成長すると予測されています(※QYResearch〈2023〉「ウェブトゥーンの世界市場レポート2023−2029年」)。この成長は、コミック販売だけでなく、映像化やライセンス収入も含んでいます。

ウェブトゥーンの起源は韓国にあり、2003年頃からウェブサイトでの本格的な掲載が始まりました。2010年代中盤には「待てば無料」というビジネスモデルが確立し、マネタイズが容易になりました。

また、動画配信サービスの台頭と相まって、ウェブトゥーンの映像化が増加し、ビジネスを成長させました。

日本では、2013年のcomico開始を皮切りに、ウェブトゥーンが意識され始めました。

2020年頃から『俺だけレベルアップな件』(DUBU、Chugong/D&CMEDIA)、『女神降臨』(yaongyi/LINEマンガ)などのヒット作が登場し、注目度が高まります。現在、ピッコマ、LINEマンガ、comicoが日本国内では主要なプラットフォームとなっています。

日本のウェブトゥーン市場は、2022年時点で約500億円と推定されています。これは電子コミック市場の約10%に相当します。ウェブトゥーンの制作方法に関しては、韓国では個人制作で人気が出たものが、のちに分業制のスタジオ制作になり、連載ペースを早めるというようなかたちが見られました。

日本でもウェブトゥーンスタジオが増加

日本でcomicoができた当初は個人作家がほとんどでしたが、近年、日本でもウェブトゥーンスタジオが増加しており、コミチ社の調査によると、2021年末から2023年中盤にかけて、スタジオの数が23から約80へと急増しています。

この頃には、個人のほかにも小さなスタジオなど、なかなか把握が難しい小規模事業者が多数参入しているため、現在はそれ以上のかなりの数が参入していると思われます。

作品傾向としては、韓国で一般的な小説原作の作品のほか、完全オリジナルや、既存の横読み漫画を縦スクロール化するケースも見られます。

また、日本の大手出版社も続々とウェブトゥーン市場に参入しています。その中でも同様に、完全オリジナル、小説原作、既存作品の縦化などさまざまなパターンが生まれています。

また、ウェブトゥーンはスマホに特化された形式ではありますが、レイアウトし直して、紙の単行本として発売されるケースも増えてきています。『氷の城壁』(阿賀沢紅茶/集英社)、『俺だけレベルアップな件』(DUBU、Chugong/KADOKAWA)など、いくつかの作品で国内でも結果が出始めました。

欧米、アジアなどでは、ウェブトゥーンのマネタイズ手段のひとつとして、多くの出版社がウェブトゥーン原作の紙単行本化を行っています。特に北米では、DC/マーベルといった強力なIPを持つ出版社が、ウェブトゥーン形式で新作を連載し無料でファンを育て、それを紙単行本で販売してマネタイズするモデルを増やしています。

クリエイターの動向としては、スタジオ制作の増加により、さまざまな分野からの人材が参入しています。漫画家はもちろん、原作・脚本には小説家やゲームシナリオライターが、作画や仕上げにはイラストレーターやアシスタント経験者が携わるケースが増えています。

制作ツールに関しては、「CLIPSTUDIOPAINT」がウェブトゥーン用のプリセットを提供しており、海外でも一般的に使われているようです。

現在の日本ウェブトゥーン業界としては、2024年現在スマッシュヒットと呼べるヒット作品が複数出始めました。

そのなかでも、ナンバーナイン社がLINEマンガ上で連載した『神血の救世主〜0.00000001%を引き当て最強へ〜』(江藤俊司、疾狼、3rdIve/Studio No.9)は、2024年1月には月間売り上げで1.2億円を超え、6月には英語版に翻訳されて海外展開するなど、今後の成長を期待されています。

2024年5月には、集英社のジャンプTOONもアプリローンチと同時に作品公開を開始。国産の大ヒット作品の不在が課題とされていた日本ウェブトゥーン勢も、今後の伸長が期待されます。

今後の展望としては、スマートフォンでの閲覧環境が進むにつれ、新世代のクリエイターがウェブトゥーン制作に参入することで、才能の総量が増加することが期待されています。しかし、現状国内では横読みマンガ市場も好調であり、トップクリエイターがウェブトゥーンに移行するかどうかはいまだ不透明です。

ウェブトゥーンは、スマートフォン時代に適応した新しいマンガ形式として注目を集めていますが、巨大な日本の横読みマンガ市場での定着にはまだ課題が残されています。今後の本当の意味での大ヒット作品の登場や、クリエイターの動向が、ウェブトゥーン業界の発展の鍵を握っていると言えるでしょう。

日本発プラットフォームの海外進出

このほか、ウェブトゥーン関連で注目したいところとしては、国内のプラットフォーム勢の海外進出の動きです。

出版社・CP勢はのぞき、純粋なプラットフォームとしては、BOOK☆WALKER、コミックシーモア、めちゃコミックなどのサービスが、それぞれ北米やアジアなどに進出しています。特に、BOOK☆WALKERは、もともと進出している現地法人と連携するなどして先行しているかたちですが、各社ともに日本国内の売り上げ規模に比べると、まだまだ小さく成長途上というところです。

どこが伸びるかということで注目なのが、めちゃコミです。

2024年6月にPEファンドのブラックストーンが運営会社の親会社であるインフォコムを買収し、今後大きな投資が図られると思います。アメリカの企業が買収してるわけですから、アメリカ進出には相当な力と資金が投下されると想像されます。

また、めちゃコミックは2024年1月に『オークの樹の下』(Seonal,namu,P,Kimsuji/RIDI)というウェブトゥーン作品で、大きな売り上げをあげたことをプレスリリースもしています。アメリカ進出への巨大な投資に、ウェブトゥーン作品の伸長を加味すると、今後がかなり楽しみな存在です。

シーモアのアメリカ向けサービス、MangaPlazaも近年は注力されています。

2024年のAnimeExpoでは、大きなブースを出展し、アメリカのユーザー獲得に力を入れていました。CruchRollやFAKKUなど、アメリカのエンタメPFは、日本のPFのようにWeb広告に力を入れるよりも、大きなイベントでファン向けのイベントや企画をやることでファンを獲得していきました。海外でイベント出展するのは王道と言えましょう。

いずれにせよ、韓国2強が大きくリードして、他が追いかけるというのが、グローバルのウェブトゥーンプラットフォーム(大きくいうと電子コミックプラットフォーム)の競争の構図です。

成長中だが、いまだ発展途上な部分も

ここで、どのようにウェブトゥーン作品を伸ばしていくかが、日本も含めた各国のウェブトゥーン制作サイドの課題にもなっていきます。


2024年現在の状況は、韓国勢やDC/マーベルなどの北米の動きといえば、ウェブトゥーンを無料かサブスクなどで広め、作品認知を取ったり、作品を連載する媒体としてプラットフォームを使い、映像化や紙コミックの販売につなげるかたちが、ひとつのモデルになっているようです。

言い換えると、世界のウェブトゥーン・電子コミックプラットフォームは、現状作品を広げる点においては力強く成長中ですが、プラットフォーム単独として収益を上げるモデルとしては、いまだ発展途上な部分が多いという現在地かなと思います。

日本の電子コミックの成長は、ウェブ広告手法の発展と錬磨、SNSの台頭とクリエイターの発信の進化、さまざまな課金モデルの開発や、そしてなによりそこに載せる世界中を席巻した社会的大ヒットの存在があったと思います。

『進撃の巨人』(諫山創/講談社)『鬼滅の刃』(吾峠呼世晴/集英社)などが、この社会的大ヒット作品にあたると思います。

(菊池 健 : 一般社団法人MANGA総合研究所所長/マスケット合同会社代表)