「親の介護」と「子どもの思春期」のダブルパンチでストレスフルな「中高年」が、さらに「孤独な老後」まで迎えないために準備しておくべきこと
日本は今、「人生100年」と言われる長寿国になりましたが、その百年間をずっと幸せに生きることは、必ずしも容易ではありません。特に人生の後半、長生きをすればするほど、さまざまな困難が待ち受けています。
長生きとはすなわち老いることで、老いれば身体は弱り、能力は低下し、外見も衰えます。社会的にも経済的にも不遇になりがちで、病気の心配、介護の心配、さらには死の恐怖も迫ってきます。
そのため、最近ではうつ状態に陥る高齢者が増えており、せっかく長生きをしているのに、鬱々とした余生を送っている人が少なくありません。
実にもったいないことだと思います。
では、その状態を改善するには、どうすればいいのでしょうか。
医師・作家の久坂部羊さんが人生における「悩み」について解説します。
*本記事は、久坂部羊『人はどう悩むのか』(講談社現代新書)を抜粋、編集したものです。
重複する困難
家族がいると、この時期には人生における困難が重なって襲いかかってくる可能性があります。
ひとつは介護問題。
夫婦が中高年の時期は、親が後期高齢者で、要介護状態になっていることが少なくありません。このとき家族の関係が良好ならいいですが、ぎくしゃくしていると、だれが介護を担うのかが問題になります。
協力体制も構築できず、どうやったらいいのかわからない、思いがけない負担で予定が狂った、介護を押しつけられているのではないか、なぜ自分がこんな目に遭わなければならないのか、いつまで続くのかと、不満、戸惑い、苛立ちから怒り、絶望へと飛躍して、精神的な健康が損なわれます。
在宅医療で老親を介護している子ども世代を多く見ましたが、不満や迷惑顔の家族も少なくありませんでした。そういう家では介護される側も不愉快そうで、家の中が重苦しい空気に包まれていました。
半身不随や認知症になった親に、ため息ばかりついている息子さんや娘さんには、秘かにこう思ったものです。
──あなたたちもいずれは同じようになるのですよ。
もうひとつの困難は、子どもの思春期です。
親が中高年のときは、子どもは思春期を迎えていることが多く、不安定な精神状態をそのまま親にぶつけてくることがあります。
思春期の子どもは、第二次性徴の身体の変化から、異性への興味、受験や進路の迷い、さらには大人社会の矛盾に怒ったり傷ついたり、親への反抗、嫌悪、軽蔑などもあり、ストレスまみれであることが少なくありません。
未熟な子どもに親の精神状態を慮る余裕はなく、悩みをストレートにぶつけてきますから、ぶつけられる側もそうとうなストレスになります。
大人としての見識で冷静に対応できればいいですが、ただでさえ自分自身が衰えはじめ、仕事や介護や病気や離婚問題などを抱えていると、思春期の青臭い悩みや、解決困難な問題に、理性的に立ち向かうのは至難の業です。
このときの対応をまちがえると、親子関係は一気に悪化し、子どもが思春期を通り越したあとまで確執を残す危険性があります。これを放置しておくと、自分が高齢者になったとき、子どもから支援してもらえなくなって、孤独で不如意な老後をすごさなければならなくなります。
先のことを考えるなら、耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍んで、早めに頭を下げる準備をしておくべきでしょう。
さらに連載記事<じつは「65歳以上高齢者」の「6〜7人に一人」が「うつ」になっているという「衝撃的な事実」>では、高齢者がうつになりやすい理由と、その症状について詳しく解説しています。