【舛添 要一】突然「小泉進次郎の支持率」がガクッと落ちた《本当の理由》…ここへきて解雇規制「緩和」を「見直し」に軌道修正した真意とは

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自民党総裁選挙、9人の候補者が連日政策論争を展開している。事実上、次の日本国の内閣総理大臣を決める選挙であり、国民の関心も高く、マスコミの報道も過熱している。

小泉進次郎は、9月6日の出馬会見で解雇規制の見直しを1年以内に実施することを提言したが、それには賛否両論が渦巻いている。

「解雇規制緩和」の中身

経営不振などで企業が従業員を解雇する整理解雇、いわゆるリストラには、これまでの裁判例を見ると、4つの厳しい条件が付けられている。

第一は、人員整理の必要性で、会社の維持・存続を図るためには人員整理が不可欠であることである。

第二は、解雇回避の努力、つまり、解雇に先立って、退職者の募集、出向など余剰労働力吸収のための努力を会社が尽くすことである。

第三は、人選の合理性で、解雇対象者の選定が合理的であることである。

第四は、解雇手続きの妥当性で、解雇の必要性、規模、方法、解雇基準などについて、会社が労働者側の納得を得るための努力が十分になされていることである。

小泉進次郎は、以上の4要件を満たさなくても解雇できるようにしようとしている。

労働契約法第16条には、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定められている。

日本の雇用システムは、年功序列賃金と終身雇用を基本とする。労働者にとっては、定年退職まで安心して働けるし、年功序列賃金なので生活給という要素があり、子どもの成長に伴い嵩んでいく出費もカバーできるというメリットがある。また、企業にとっては、技能訓練などの投資をしても、定年まで働いてくれるので、長期的には元を取るという利点がある。

進次郎が提言に至った背景

企業ごとの労働組合の存在や春闘による賃金決定に加えて、終身雇用と年功序列賃金は、日本的経営の基本的要素とされてきた。そして、それこそが日本経済発展の原動力だと、海外から賛美されることもあった。

しかし、20世紀末から「失われた30年」と言われる状況になり、世界における日本の地位も低下していった。そして、かつて高く評価されてきた終身雇用や年功序列賃金についても、成長への足かせだと批判されるようになってきた。

年功序列賃金については、無能な中高年労働者に高給を払うために、有能な若い労働者の賃金が不当に安くなっていると非難される。

また、終身雇用制度は、転職を難しくし、社会の流動化を妨げる。中途採用などの採用枠も増えない。

さらには、会社にとっては、労働者を正規に雇用すると解雇しにくくなるので、非正規で採用することになり、非正規労働者が増えている。

労働者にとっても、雇用が守られているために、自発的に能力開発をする意欲をなくすことになっている。

以上のような問題点の解消のためにも、アメリカのように解雇が容易に出来る仕組みに変えたほうがよいという意見が増えてきている。小泉進次郎は、この風潮を背景に解雇規制の緩和を提案したものと思われる。

規制緩和がもたらす効果とは

アメリカには、レイオフ(一時解雇)という仕組みがある。これは、会社の業績が悪化したときに一時的に従業員を解雇し、業績が回復したら再雇用するものである。勤続年数の短い者からレイオフの対象になり、長い者から再雇用の対象となる。

解雇規制の緩和は、先述した問題点の解消など、様々なプラスをもたらす。

無能な労働者を解雇することにより、能力主義が導入できる。また、無能な労働者を解雇できないためにパワハラに走るということもなくなる。さらに、会社への帰属意識が希薄化するので、より有利な職場を求めての転職が容易になる。

労働者も自分に相応しい、また自分の能力を開花できるキャリアを進むことによって、日本全体の生産性が上がる。

一気に規制緩和に進むのが困難なために、政府は「働き方改革」などの側面からの攻勢に出ている。

日本生産性本部が発表した「労働生産性の国際比較2023」によると、2022年の日本の時間当たり労働生産性は(就業1時間当たり付加価値)は52.3ドルで、OECD加盟38カ国中30位であった。これも、データが取得可能な1970年以降で過去最低の順位である。

一人当たり労働生産性(就業者1人当たり付加価値)は、85,329ドルで、これも1970以降で最低の31位である。日本の製造表の労働生産性(就業者1人当たり付加価値)は、94,155 ドルで、主要34カ国中18位である。

私は、これらのデータを毎年注視しているが、悪化の一途を辿っている。その原因の一つに、労働市場の固定化、非流動化があるのではなかろうか。

野党にとって絶好の攻撃材料

小泉進次郎の雇用規制見直しの提言については、他の候補者間でも賛否両論がある。明確に反対を表明したのは、高市早苗、小林鷹之、林芳正、上川陽子、加藤晴信である。他の候補者も、慎重な姿勢である。石破茂は、よく精査して答えを出すという。

労働組合の連合、そして立憲民主党を始め、多くの野党は、小泉提案には反対である。労働者の権利が守られなくなるという懸念があるからである。

もし、小泉が総裁選に勝利し、首相になれば、野党は、総選挙の最大の争点に雇用規制緩和を据えるであろう。「首切り」法案というレッテルを貼って葬り去ろうとすることが予想される。

終身雇用と年功序列賃金という仕組みは、戦後の日本社会に定着しており、これを一気に変えようとすれば、国民は大きな不安を感じてしまうであろう。

9人もの候補者が乱立し、マスコミジャックの様相を呈しているのは、それが自民党の活性化、支持率上昇に貢献するからである。

茂木敏充幹事長が、政策活動費の廃止を掲げたのも、政治資金問題で守勢に立たされている状況を打開するためである。

自民党総裁選とともに、立憲民主党の代表選挙も行われている。自民党候補の主張は、直ぐに立憲民主党の代表選挙のネタに使われる。解雇規制の緩和という話は、その典型例である。

野党にとっては、絶好の攻撃材料が転がり込んだことになる。そのため、小泉進次郎も、発言をトーンダウンし、「緩和」ではなく「見直し」だと強調している。

自民党員の中にも、小泉提案に反対する者は多かろう。それが総裁選の投票行動にもつながる可能性もある。

総裁選に関する9月16日に公表された世論調査では、自民支持層では、朝日新聞は、1位石破(32%)、2位小泉(24%)、3位高市(17%)、読売新聞は、1位石破(97票)、2位高市(94票)、3位小泉(60票)、日経新聞は、1位石破(25%)、2位高市(22%)、3位小泉(21%)、共同通信は、1位高市(27.7%)、2位石破(23.7%)、3位小泉(19.1%)となっている。石破が安定し、高市が伸びているのに比べ、小泉支持はさほど増えていない。理由は定かではないが、解雇規制緩和問題も影響しているのかもしれない。

総裁選の結果がどうなるにせよ、「失われた30年」から脱却するためにも、今の終身雇用と年功序列賃金という日本的システムの見直しは必要だと考える。

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