京葉銀行の「50年住宅ローン」(京葉銀行のリリースより)

写真拡大

 9月2日、千葉市に本店を置く「京葉銀行」が、首都圏の地方銀行としては初めて「50年住宅ローン」をスタートし話題となっている。最長50年の住宅ローンは既に住信SBIネット銀行が取り扱いを始めているが、その流れが地銀にも及んだ格好だ。これまで最長35年が一般的だった住宅ローンに、いったい何が起きているのか――。

 ***

【写真を見る】どちらを選ぶべき? 変動金利/固定金利の推移

物件価格の高騰に頭を抱える新婚夫婦

 京葉銀行は「50年住宅ローン」のリリース内で、

<本商品は、借入期間をこれまでより拡大することにより、余裕を持った返済プランをご検討いただけます。「物件選びをこだわりたい」「趣味を満喫したい」「子どもの教育に力を入れたい」など、多様化するお客さまのニーズにお応えできる商品となっております。>

 と説明しているが、背景にはやはり、首都圏の物件価格の高騰があるのだろう。

京葉銀行の「50年住宅ローン」(京葉銀行のリリースより)

 都内で物件探しを続ける20代半ばのA夫妻も、ため息交じりにこう話す。

「本やネットには、住宅ローンは“年収の6倍まで”が安全圏と書かれていますが、うちは2人合わせた世帯年収が1100万円ほど。この条件に当てはめると、6600万円までならOKということになりますが、この予算ではとてもとても……。将来を見据え70平米3LDKの物件を希望していますが、都心では新築はもちろん、中古でも全然予算が足りません」

 最近は都内に加え、埼玉や千葉の物件も視野に入れていると言うが、

「職場のある大手町エリアや、池袋、新宿など都心へのアクセスのいい物件は、埼玉や千葉でも新築は予算オーバー。築浅中古でいくつか気になる物件は見つかりましたが、もとは都内で探していたこともあり、なかなか踏ん切りがつきません。でも、1年前と比較すると郊外の物件も値上がりしていて、そろそろ決めないと本当に買える物件がなくなってしまいそうです……」(同)

メリットはあるが、リスクも

「50年住宅ローン」は、まさにこのような若年夫婦のニーズを念頭に置いているのだという。

「1億円の新築マンションを購入したとして、35年と50年でそれぞれ金利が同じ0.5%だとすれば、35年では月々の返済額は約26万円。一方の50年では約19万円と7万円ほど安くなる計算です」

 そう解説するのは都内で働く不動産関係者だ。実際には50年でローンを組む場合、金利が上乗せになる可能性が高いと言うが、月の返済額だけで見れば、負担感の軽減は大きい。

「今後も都心の不動産価格が上昇していくという前提に立てば、若くして好立地の不動産を手に入れ、5〜10年ほど住んだ後に売却すれば、キャピタルゲイン(売却益)を得られる可能性もあります。50年ローンを組んだからと言って、50年住み続ける想定で融資を受ける人ばかりとは限りません」(不動産関係者)

 ただ、もし今後数年のうちに不動産価格が暴落するような事態になれば――。

「仮に不動産の評価額が残債額を下回ると、売るに売れない状況に……。金利の先高観など不確定な要素も多いなか、将来の家計の負担増について、どこまでのリスクを許容できるかがポイントとなりそうです」(同)

“マンクラ”も反応

 実は、京葉銀行のリリースに反応したのは、先ほどの若年夫婦のような“実需層”だけではなかった。

 コロナ以前から積極的に不動産を購入し、その売却益でさらに高価なマンションに住み替えるという“マンションすごろく”で資産を築いてきた、「マンションクラスタ(マンクラ)」と呼ばれる人たちの注目も集めることとなったのだ。

 要は、50年ローンで融資を受けた方が、35年ローンよりも与信(融資可能額)が増えるため、値上がり期待の高いより高額な物件を購入できるという発想である。

 ちなみに、住信SBIネット銀行の融資手数料が借入金額の2.2%なのに対し、京葉銀行では24万2000円の定額であることも、“マンクラ”の目に留まった理由だという。

 ただ、この点については、

「京葉銀行の50年住宅ローンは“1億円以内”で“新築に限る”という条件があるので、キャピタルゲインを狙って物件を吟味するような層のニーズには必ずしも合致しない」(先の不動産関係者)

 のだという。

京葉銀行「想定を上回るお問い合わせ」

 最後に、50年住宅ローンの狙いや、反響について京葉銀行に聞いてみると――。

「想定を上回るお問い合わせをいただき、営業担当者からはうれしい悲鳴も上がっています。受付開始が9月2日であったため、ご契約に至るケースはまだ出ておりません」(広報担当者)

 とした上で、リリースの背景をこのように説明する。

「弊行では、お客さまニーズの高まりを受け、2021年7月より最長返済期間を35年から40年に変更しました。取扱開始から3年経過した現在では、返済期間35年超のご契約は、新規ご融資の約4割までに達しており、お客さまのニーズが多いという認識を持っております。そうした実績に加え、パワーカップルやおひとりさまの増加等ライフスタイルの変化や、不動産価格の上昇、高性能住宅の増加等の状況を踏まえ、今回、最長返済期間50年の住宅ローンの取り扱いを開始致しました」(同)

 想定している層についても聞いた。

「ターゲット層は、20代から30代前半の若年層で、今後の給与上昇が見込まれる若い方や、毎月の返済額を抑えて趣味を充実させたい方等からのお申し込みを想定しております」(同)

 また、「1億円以内」という条件については、

「ご夫婦でローンを組まれる『ペアローン』、『連帯債務』等を活用することで、1億円以上のご融資も可能になっており、都内の新築マンションのご購入者でもご利用可能です」(同)

 ただし、利用可能なエリアは、千葉県全域と東京都・埼玉県・茨城県の県境の地域で、東京都内では、葛飾区・江戸川区・江東区の一部が対象とのこと。また、条件によっては金利の上乗せや所定の保証料が必要となる。5年ルールや125%ルールは適用される。

 先の夫婦も、「50年ローン」を選択肢に入れるのだろうか。無事にマイホームを手に入れられるよう祈りたい。

デイリー新潮編集部