なかやまきんに君

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多様化している理由

 一昔前までは、トレーニングで筋肉を鍛えてムキムキにするというのは特殊な趣味であると考えられていた。ボディビルダーなどを除く一般の人が極端に筋肉をつけようとすることはほとんどなかった。

【写真】「筋肉スゴい」「腕太過ぎ」と仰天…大注目の若手「マッチョ芸人」

 しかし、最近になって一気に状況が変わった。普通の人の間でも、スポーツジムなどでマシンを使って筋トレをするのは一般的になってきたし、アスリートなどが競技に必要な筋肉をつけるためにウェイトトレーニングをするのも当たり前になっている。筋トレが広まってきたことで、筋肉量の多い「マッチョ」も増えてきたし、そういう人が奇異の目で見られることも少なくなってきた。

なかやまきんに君

 お笑い界でも状況は同じだ。かつては筋肉ムキムキの芸人というのは珍しい存在だったのだが、徐々に体を鍛える芸人が増えてきた。

 そんな中で、筋肉芸人の歴史に革命を起こしたのがなかやまきんに君である。彼の場合、そもそも筋肉のボリュームが段違いであった上に、芸名も芸風も潔く筋肉オンリーを貫いていたところが新しかった。

 きんに君はデビューしてまもなく、その圧倒的な個性が注目され、バラエティ番組で引っ張りだこの存在になった。特に「スポーツマンNo.1決定戦」(TBS系)などの体力勝負の番組では真価を発揮して、優秀な成績を収めた。

 きんに君の登場以降、お笑い界でも筋肉を鍛える人が増え始めた。レイザーラモンHG、庄司智春(品川庄司)、小島よしお、春日俊彰(オードリー)などが続々と筋肉芸人戦線に名乗りを上げた。

 筋肉芸人の顔ぶれを見ると、どこか共通点があることに気付く。どちらかと言うと頭脳派よりも肉体派の芸風で、良くも悪くもどこか抜けたところがあるタイプの人が多い。

鍛えるのに夢中

「大男 総身に知恵が回りかね」という言葉もあるように、筋肉芸人は体を鍛えるのに夢中になりすぎて、頭の回転が悪くなり本業のお笑いが疎かになっている、というイメージもあった。

 ただ、ダウンタウンの松本人志が体を鍛え始めてから、そのようなイメージも少しずつ変わってきた。最近では、ミルクボーイの駒場孝、マヂカルラブリーの野田クリスタルのように、「M-1グランプリ」チャンピオンの筋肉芸人まで出てきている。

 野田はいまや、きんに君と肩を並べる筋肉芸人界のキーパーソンである。というのも、彼は自ら発案した「クリスタルジム」というパーソナルトレーニングジムの運営に携わっているからだ。そこでは、彼をはじめとする筋肉芸人たちが、お客さんを相手にトレーニングの指導をしてくれる。筋肉芸人たちが安心して働ける環境を用意しつつ、筋トレの魅力を多くの人に広める啓蒙活動を行っているのだ。

 そんな野田も認めるいま売り出し中の筋肉芸人が、お笑いトリオ・かけおちの青木マッチョだ。青木は筋肉芸人界でも最高レベルの筋肉量を持っているのだが、服を脱いで筋肉を見せるのを恥ずかしがる内気な性格。マッチョを名乗りながら筋肉を見せることに抵抗を感じるという独特のキャラクターで人気を博している。彼は人気番組「ラヴィット!」(TBS系)にも出演しており、今後の活躍が期待されている。

 なかやまきんに君の一強時代を経て、松本人志が筋肉芸人のイメージを一新し、今では筋肉芸人のジムが作られ、新世代の筋肉芸人も出てきた。新しい人がどんどん出てくることで、筋肉芸人の歴史はこれからも更新されていくのだろう。

ラリー遠田
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)など著書多数。

デイリー新潮編集部