クロちゃん(左)とナダル

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「クロナダル」でMC

 最近のお笑い界では、やたらと悪態をついたり、借金を重ねていたり、だらしない私生活を送っていたりする、いわゆる「クズ芸人」と呼ばれるタイプの芸人が猛威を振るっている。

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 クズ芸人の代表格として知られるのは、ピン芸人の岡野陽一である。岡野はギャンブルで巨額の借金を抱えながらも、明るく前向きに生きる独自の人生哲学を持っている。相方にすら借金をしている相席スタートの山添寛も同様のクズ芸人キャラで知られる。

 一方、先輩芸人にも平気で噛みつく霜降り明星の粗品、愚痴と不平不満をぶつける毒舌漫才で知られるウエストランドの井口浩之など、「M-1」チャンピオンでありながらクズな生き方を貫く新しいタイプの芸人も出てきている。

クロちゃん(左)とナダル

 そんな中でも、クズ芸人のレジェンドとして別格の扱いを受けているのが、安田大サーカスのクロちゃんと、コロコロチキチキペッパーズのナダルである。彼らはバラエティ番組の企画で性格の悪さや異常な言動があらわになり、多くの視聴者に衝撃を与えた。今ではこの2人で「クロナダル」(テレビ朝日系)という冠番組を持つほどの人気者になっている。

 レジェンドクズ芸人として並び称されることの多い2人だが、そのキャラクターには微妙な違いがある。

 クロちゃんが注目されるきっかけになったのは「水曜日のダウンタウン」(TBS系)における数々のドッキリ企画である。彼を隠し撮りしていたスタッフが、SNSに自分を良く見せるためにウソまみれの書き込みをしている事実を突き止めた。

 その後も、彼は視聴者の予想をはるかに上回るリアクションを示して爆笑をさらった。クロちゃんに対するドッキリ企画はどんどん大がかりになっていった。

 そして、クロちゃんブームの決定打になったのが2018年にこの番組で行われた「MONSTER HOUSE(モンスターハウス)」という企画だ。これはフジテレビの恋愛バラエティ「テラスハウス」のパロディ企画。本家と同様に、男女数人がひとつ屋根の下で共同生活を送り、恋愛模様を繰り広げる。

笑いのために悪の道に

 ここでクロちゃんは2人の女性にターゲットを絞り、二股をかけようとしていたのだが、その試みが発覚して最後には振られてしまうという結果になった。

 この企画の中で、クロちゃんは次々に問題行動を連発。自撮りのふりをして女性を隠し撮りしたり、女性が座っていたクッションに顔をうずめたり、2人同時に口説こうとしたり、予想外の気持ち悪い言動の数々で視聴者を凍りつかせた。

 これでクロちゃんの「キモいけど目が離せない」というキャラクターが確立した。その後、続編の企画で彼の恋愛は成就することになるのだが、クズ芸人としての地位は少しも揺らぐことがない。

 一方のナダルは、「アメトーーク!」(テレビ朝日系)の「ナダル・アンビリバボー」という企画でその特異な素顔があらわになった。悪気なく先輩芸人に失礼なことを言ったり、非常識な行動をしていたりする。それを指摘されると無茶な言い訳をしたり、開き直って逆ギレしたりして、反省する素振りを見せない。

 バラエティ番組では誰彼構わず悪態をつき、態度も悪い。普通の人が言えない本音を代弁するというのが毒舌芸の基本だが、ナダルのそれは一般的な考えをはるかに凌駕して、ただ純粋にひどいことを言っているだけだったりする。

 クロちゃんとナダルに共通するのは、他人に悪く思われるかもしれないということを気にせず、強気な姿勢を貫いていることだ。笑いのために自ら悪の道に足を踏み入れ、その足取りは堂々としている。だからこそ、彼らはクズ芸人界のレジェンドと呼ばれ、ほかの芸人からも一目置かれているのだ。

ラリー遠田
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)など著書多数。

デイリー新潮編集部