●「新たに一から学び直している」 単独ライブ重ねて楽しさも実感

2021年6月にお笑いコンビ・アジアンを解散し、ピン芸人として活動している馬場園梓にインタビュー。コンビ解散時にお笑いを辞めることも考えたという馬場園が、どのような思いでピン芸人として活動することを決意し、この3年間どのようにお笑いと向き合ってきたのか。お笑い芸人を目指す原点となった祖父母との思い出や、今後の抱負なども聞いた。

馬場園梓 撮影:蔦野裕


――昨年3月にピン芸人として初の単独ライブを開催された際に「気持ち新たに、また一から積み重ねてまいります」とコメントされていましたが、やはりコンビからピン芸人になって心境は大きく違いましたか?

全然違いますね。ネタの作り方も全然違って、それまではツッコミがいて初めて成立するネタしか作ってなかったので、本当に1年目のような気持ちに。お笑いの土台は作ってきたつもりでしたが、漫才を長くやってきたので、全く新しいジャンルに挑戦しているような感覚で、心機一転、新たに一から学び直している感じです。

――9月から11月にかけて東京・大阪・山形で第3回単独ライブ「BBZ selection」が開催されますが、回数を重ねて心境の変化はありますか?



最初はどこがどうウケるのか何もわからない状態で始めたので、緊張が勝っていましたが、2回目の時に少し「楽しい!」という感情が湧いてきて、今3回目に向けてネタ作りをしていますが、楽しい気持ちがさらに増して、「早く見てもらいたい!」という気持ちがどんどん湧き上がってきているので、経験を重ねることで楽しくなっていくんだなと感じています。

――2回目のライブで「楽しい!」と感じたのはどういう瞬間でしたか?

自分が笑ってもらいたいと思ったところでお客さんに笑ってもらえた時ですね。1回目はどこがウケるかわからないから、とりあえずやってしまえ! という感じでしたが、2回目は「ここで笑ってくれたらいいな」というのが出てきて、実際にそこで笑ってもらえるとうれしくて、1人でもできたという喜びがありました。

――ピン芸人のやりがいはどのように感じていますか?

ツッコミや説明をしてもらうことなくすべて1人で完結しないといけないんですけど、1人で完結したことに対して反応があると、自分を認めてもらえたという喜びを感じます。また、コンビだと台本をいつまでに仕上げないといけないという期限がありますが、1人だといくらでも変えられて、舞台の途中でも変えたり、果てしなくやってしまうんです。それがメリットでもありますが、ご飯を何回食べたかわからなくなってしまうくらいネタのことで頭がいっぱいに。もっとよくできるんじゃないかと、終わりがないんです。



○「コンビの活動があっての今」 1人になってありがたみを改めて実感

――コンビとピンでは全然違うということですが、約20年間のコンビ活動はご自身にとってどんな経験になったと考えていますか?

やはり2人でやってきたことで得られた土台が今の私を支えていますし、人前に出ることができたのも、皆さんに覚えてもらえたのも、コンビの活動があっての今なので、私にとってとても大切な経験になっています。ネタのことでも信頼して頼ってきて、1人になるとそのありがたみを改めて感じ、感謝の気持ちもすごく大きいです。今は1人になって難しいことだらけですが、その試練が逆に刺激になって、一からという気持ちで取り組めています。

――ピンになると重圧もより大きく感じるものでしょうか。

ウケるもスベるも1人で、ほかの仕事も全責任が自分になってくるので、重圧はめちゃくちゃあります。ロケの待ち合わせでも、相方がいると安心しますが、時間になってもスタッフさんと会えないと「ここで場所合っているのかな?」と不安になります。

――精神的にたくましくなりますね。

厚かましさとたくましさがさらに増していると思います(笑)。ネタを書いても、コンビだと意見をもらうことができますが、1人だとお客さんにどう伝わるかという判断を全部自分でしないといけないので、ぶっつけ本番のようなスリリングさがあります。

●久々の賞レースでぶつかった“時間の壁”「難しかった」



――ご自身の持ち味や武器についてはどのように考えていますか?

生まれも育ちも根っからの関西人で、私の厚かましさや「いってしまえ!」というやけくそ精神がいい形になって出ているのかなと。関西人ならではの勢いをどんどん出していけたらと思っています。

――子供の頃からザ・関西人という性格でしたか?

おばあちゃんとおじいちゃんにすごくかわいがってもらって、大人の前ではお調子者でしたが、外では人見知りで目立つタイプでもなく、仲のいい友達の前だけではしゃぐ感じでした。でも、おじいちゃんとおばあちゃんを笑わせようとするのが好きで、すごく褒めてくれるのでうれしくて、褒めてもらうためにやっている感じでした。

――芸人になりたいと思ったのもおじいちゃんおばあちゃんの影響が大きいのでしょうか。

めちゃくちゃ大きいですね。子供なので同じことを繰り返すんですけど、いつも「面白い」と言ってくれて、それがうれしくて。今1人で活動していますが、お客さんに笑ってもらった時に、昔おじいちゃんとおばあちゃんに「面白いね」と褒めてもらった感じがよみがえってきて、生きている感じがします。やっぱりお笑いを続けていきたいとも思いましたし、褒めてもらえるごとに楽しさが増しています。

――昨年『女芸人No.1決定戦 THE W 2023』に6年ぶりに出場されました。感想をお聞かせください。

それまで10分のネタを作っていたので、2分とか3分のネタの作り方を忘れてしまっていて、難しかったです。コンビのネタで2分にするのも難しいのに、さらにピンのネタで2分となるといろいろな問題が出てきて、やりたいことが収まらないという時間の壁にぶつかりました。

――短いネタのコツは少しずつつかめてきましたか?

そもそも作り方を変えないといけないというのがわかりました。10分に慣れているので、目の付け所が長くやったほうが面白いネタのほうにフォーカスしてしまう癖がついているんですけど、2分のほうが盛り上がる題材を見つけないといけないなと。1年目、2年目の頃のネタの作り方をもう一度しないといけないので、本当にすべてが心機一転です。

――『R-1グランプリ2024』にも、10年以下の芸歴制限が撤廃され出場されましたが、いかがでしたか?

楽しかったですけど、やっぱり難しかったですね。また時間の壁にぶつかりました。



○賞レースにストレスも成長につながる大事な場「より極めていける」

――コンビ時代には『M-1グランプリ』にも挑戦され、2005年に女性コンビとして初めて決勝に進出されましたが、賞レースは馬場園さんにとってどういうものになっていますか?

『M-1』のときにストレスで髪の毛が大量に抜けてしまうことがあって、それぐらい追い込まれるものなんですよね。周りに面白い人たちがいすぎて、それを超えるためには自分の限界を超えないといけないという意識のせいで、ストレスがすごくて。ずっとそのことばかり考えて、普通に街を歩いていても、もっといいネタできないかなと。のんきな人を見るとイライラするぐらい心が荒れてしまって。自分を追い込み、もっといいものを作ることに挑戦できるのはすごくありがたい環境ですが、女性としてはやさぐれます(笑)

――苦しさはあっても、挑戦したいという思いのほうが強いから、再び出場しようという思いに?

そうですね。挑戦することによって自信にもなりますし、それがあるからもっといいものを作ろうという気持ちにもなれるので。ただ楽しいだけのネタはたくさん作れると思いますが、賞レースがあることによってより極めていけるというか、余計なものを取り払ったいいものが作れるきっかけになるので、それはありがたいと思っています。

――今は単独ライブのネタ作りと賞レースのネタ作りを並行しているのでしょうか。

単独ライブで自分が純粋にやりたいネタも、賞レースでやりたいネタも、何本も並行して作っていて、どちらも単独ライブで見てもらおうと思っています。

●「NGKの最後を飾れる芸人になれたら」 賞レース優勝も目指す



――今後の人生はどう思い描いていますか?

やっぱり劇場でネタをやって生のお客さんの前で笑ってもらえるという環境がすごく好きなので、ずっと続けていきたいなと思っています。将来的には、なんばグランド花月(NGK)で一番最後を飾れるような芸人になれたらいいなと思っています。そこを目指して吉本に入ったところがあるので、NGKの最後を飾れるような人になれたら。

――テレビにも出演されていますが、劇場によりやりがいを感じられているんですね。

来てくださったお客さんに笑ってもらえるかどうかという、お客さんと向き合って作る空間で、同じネタをやっても年齢層や劇場の大きさによっても反応が全然違うんです。なので毎回新鮮で、この空間がすごく好きですね。

――賞レースにおける目標はいかがでしょうか。

もちろん絶対優勝するという気持ちで挑みます。周りが後輩ばかりで、優勝して当然ぐらいの芸歴はあると思うので、あえて自分にプレッシャーを与えつつ、気持ちは1年目の気持ちで挑戦できたらと思っています。



○コンビ解散で「一度はお笑いを辞めようかと考えた」

――ちなみに、これまでの芸人人生の中でお笑いから離れたいと思ったことはありますか?

コンビ解散が決まったときに、一度はお笑いを辞めようかと考えました。漫才が好きだったので、そこがなくなるなら辞めてもいいかなと。コロナ禍も重なって、そんな中でこだわってやり続ける意味って何なんだろうと。それだったら大好きな唐揚げの専門店をやろうかなと思った時はありました。

――芸人引退も考えられたところからピン芸人としてやっていこうと決意された思いをお聞かせください。

解散してから1年は悩みました。コロナ禍で何カ月も家にいたので、これからどうしようか毎日いろいろ考えましたが、NGKでトリを取るという目標が達成できてなかったので、目標達成できてないまま辞めるのも不完全燃焼だなと。もう一度その目標に向けて挑戦しようと思うようになりました。

――そして、1人で単独ライブなどに挑戦されていく中で楽しさを感じられるように。

そうですね。最初は本当にわからないことだらけで大変でしたが、楽しさも感じられるようになってきたので頑張っていけたらと思います。

――最後にファンの皆さんにメッセージをお願いします。

単独ライブを重ねるごとに楽しさがどんどん増してきて、見てほしいネタが仕上がってきています。ぜひ会場に来ていただいて、私の成長を見守りつつ楽しんでいただけたらと思います。ライブをずっと見ていくということは、私の人生を見ていくということなので、私の人生を見てほしいです!

■馬場園梓

1981年3月1日生まれ、大阪府出身。1997年、NSC時代に隅田美保とお笑いコンビ・アジアンを結成し、一度解散するも2002年に再結成。『M-1グランプリ2005』で女性コンビとして初めて決勝に進出。『女芸人No.1決定戦 THE W 2017』では第3位に。2021年6月にコンビを解散し、その後はピン芸人として活動。ドラマや映画などにも出演している。「馬場園梓第3回単独ライブ『BBZ selection』」は、9月22日に東京、10月6日に大阪、11月3日に山形にて開催。