リーズナブルでも安っぽく見えないジャケットはどう選べばいいのでしょうか(写真:kapinon/PIXTA)

ここ数年でリーズナブルな価格のビジネスアイテムが増えてきたことは、「良い現象」だと思われがちですが、選び方や着こなし次第では、安っぽさが悪目立ちするリスクもあります。

リーズナブルなジャケットが安っぽく見える問題は、「カジュアルとビジネスジャケットの混在」が関係しています。というのも近年加速した働き方の多様化の影響を受け、紳士服量販店でも「ジャケット風の上着」が増えてきているからです。

つまりわれわれは、これまで以上にドレス感を誤解しやすい環境を生きています。安っぽく見えるものを掴んでしまわないよう「令和におけるリーズナブルなジャケット選び」について、のべ5134人のビジネスマンの買い物に同行してきた服のコンサルタントがお伝えします。

2種類に分かれる低価格ジャケット


カジュアルな型紙でできたオフィスカジュアル専用ジャケット(写真:筆者撮影)

これまで低価格のジャケットといえば、ビジネスシーンでよく使われる「スーツジャケットに近い型紙」が主流でした。天然繊維のウールではなく、ポリエステルなどの化学繊維によって低価格を実現したジャケットは、合わせ方によって好印象も演出可能です。

ところが2010年代後半ころから、スニーカー通勤やビジネスリュックが想像以上に浸透してきたことは周知のとおり。その影響から、ワイシャツではないクルーネックTやニットを合わせるオフィスカジュアル用ジャケットも増えていたのです。

つまり問題の本質は、「コーディネートの正解は異なる」のに「似たような化学繊維のジャケット」が低価格帯に混在してきたこと。質感が似ていたとしても、シルエットが異なるため、合わせ方次第では違和感が生じるからです。この違和感こそ2万円以下のジャケットが安っぽく見える原因だと私は考えています。

だからこそジャケットのドレス感を見分けていく必要があるわけですが、知識もしくは試着なくして判断しづらいのです。たとえばジャケットライクな上着がショップハンガーに掛かっていたとしても、着用時点のフォルムについて想像しがたいもの。

この問題を解決するカギこそ、「AMFステッチの有無」なのです。

ビジネスジャケットはAMFステッチで決まる


AMFステッチがジャケット襟に縫い込まれた一般的なスーツジャケット(写真:筆者撮影)

AMFステッチは、アメリカの有名ミシン会社の頭文字を冠したネーミング。ミシンで縫っているのに、手縫いの雰囲気のみならず襟の印象が際立つため、現代ビジネススーツやジャケットの定番ディテールと言われています。

一方、ステッチがないジャケット襟は、フォーマル特有の「柔らかい印象が出る」という特徴があるのですが、昨今のカジュアルライクなジャケットの大半も、ステッチが見当たらないのです。これは私自身、あらためて紳士服大手量販5社をまわって気づいた視点。つまりAMFステッチの有無を確認することで、ジャケットのドレス感をある程度絞り込めるというわけです。

同じような低価格帯であったとしても、AMFステッチがあるジャケットならば、ワイシャツやネクタイ合わせも可能ですし、逆にステッチが襟にない化学繊維のジャケットは、ワイシャツやネクタイ合わせは避けたいところ。

「ジャケット見え」する上着やカジュアルジャケットについては、襟がないクルーネックTシャツやニットに合わせれば、安っぽく見える心配もありません。見え方のクオリティーを左右するポイントは、ジャケットとインナーやパンツのドレス感を合わせることだからです。

とはいえ大抵の方は、色合わせの重要性については理解を示しますが、「ドレス感を揃える」という意味合いについてはイメージしづらいことでしょう。

ドレス感とは、そのアイテムが発するフォーマル具合を表すもの。同じように見えるジャケットであっても、質感や型紙によってドレス感は変わります。そして紳士服量販の店舗においてもドレス感について商品タグに明記されていないからこそ、われわれユーザー側が賢く見ていく必要があるのです。

たとえばカジュアル要素が強いジャケットには、ワイシャツではなく、襟がないカットソーやニットを合わせたオフィスカジュアルに仕上げれば好印象ですし、AMFステッチがあるジャストサイズのジャケットならば、ワイシャツやネクタイを合わせてみてください。

ドレス感を見分ける「3つの手がかり」

AMFステッチ以外にも、ジャケットのドレス感を判別するディテールを紹介します。大きく分けて3つのチェックポイントがあるのです。

まずはジャケットのポケットデザイン。パッチポケットのものはカジュアル寄りですし、スーツのような切りポケットならばドレス寄りと言えます。

次に袖ボタンの数を確認してみてください。4つボタンでボタンが少しずつ重なっているものはビジネススーツでよく見かけるもの。一方カジュアルの場合、あえてボタンの数を3つや1つにしているデザインも見かけます。


一般的なスーツジャケットに多い「重ねの4つボタン」とカジュアルジャケットに多い「パッチポケット」。写真のジャケットはパッチポケットだが、ドレス寄りの印象(写真:筆者撮影)

また2万円程度のジャケットのなかでも、秋冬なのに裏地が省かれているタイプも見かけるはず。カジュアル寄りのジャケットでよく見かけるデザインです。低価格帯であってもドレス感が高いものは、総裏と呼ばれるタイプを選べば間違いないでしょう。

以上3つのチェックポイントとAMFステッチの有無を確認することで、試着せずとも、そのジャケットの方向が「カジュアルもしくはビジネス寄り」という絞り込みが可能になります。

「安見え」しないコーディネート配色

ここまで紹介してきたチェックポイントを駆使することで、安っぽく見えないコーディネートに近づけるはず。ジャケットのドレス感を見極めることで、ワイシャツなのか、クルーネックTやニットなのか、コーディネートしていくということ。

さいごにお伝えしたいポイントは、低価格のジャケットを好印象にする配色。ビジネスシーンの定番ジャケパン配色といえば、紺ジャケットにグレースラックスが主流です。このとき濃いグレーの色合いを選ぶことで、全身の印象が引き締まります。

つまり全身の印象が引き締まっていれば、安っぽい印象にはならないもの。秘訣は「コーディネートの質を高める」こと。そのために型紙やドレス感の知識はなくとも、目視できるデザインの違いを理解することで、買い物がだいぶラクになるのです。

(森井 良行 : ビジネスマンのためのスタイリスト)