ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)のパリ・ファッションウィークのショーを体験するために、この1カ月パリに滞在する必要はなかった。9月下旬、フランスのこの名高いブランドはDiscordのサーバーの立ち上げを発表、そこで2024年春ウィメンズコレクションのライブストリーミングを行った。

ほかのブランドは、Roblox(ロブロックス)やディセントラランド(Decentraland)など新興プラットフォームでショーやパリ・ファッションウィークのアクティベーションを利用できるようにし、エムシー(Emcee)のような新しいソーシャルコマースプラットフォームと提携した。インスタグラムのような従来のプラットフォームにおける顧客獲得コストが急騰する中、こうした新しいソーシャルプラットフォームは、ブランドがファッションショーを最大限に活用するための代替手段を提供している。

存在感を示す新たなソーシャルコマースプラットフォーム



ジョン・アガーヤン氏が2021年に設立したソーシャルコマースプラットフォームのエムシーは、フランスのウィメンズウェアブランド、ミャウ(Miaou)とのパートナーシップのおかげで、パリ・ファッションウィークで存在感を示した。エムシーはミャウのパリ・ファッションウィークのショーのスポンサーとなり、同社の大物インフルエンサーパートナーを何人か招いてフロントロウでショーに参加させたほか、ミャウのランウェイを歩かせた。その中には、ジョーダン・スローン氏(インスタグラムのフォロワー数60万人)とロクセット・アリサ氏(フォロワー数30万人)も含まれている。

エムシーのパートナーである1000人以上のインフルエンサーはそれぞれ200のブランドと提携しており、エムシーのウェブサイト上に専用のページとショップフロントを持ち、そこで商品を販売するためにブランドと直接提携できる。ミャウのショーは「今見て、今買う」というモデルで運営されたため、ショーが終わった瞬間に、これらのインフルエンサーは自身のさまざまなソーシャルメディアプラットフォームにルックを投稿し、エムシーを通じて販売することができた。

エムシーの創設者でCEOのジョン・アガーヤン氏は、このモデルは従来のプラットフォームにおける顧客獲得コストの上昇と、TikTokショップのような他のソーシャルコマースプラットフォームの欠陥の両方に対する解決策だと述べた。エムシーは、プラットフォーム上で販売するごとに10%の手数料を取る。現在、約1億人のユーザーを抱えている。

顧客獲得コストが上昇するなか、有料広告より魅力のあるマーケティング



「ブランドにとってリスクはない」とアガーヤン氏は言う。「ブランドはコンテンツを得て、認知度を高め、我々ののインフルエンサーネットワークを通じて売上を得ることができる。TikTokショップにはない形での共感がある。TikTokは低価格帯に重点を置いており、ディスカウントがすべてだ。それは一部のブランドには有効かもしれないが、ラグジュアリーブランドには向いていない」。

ミャウと仕事をする前、エムシーは8月にブルックリンで開催されたブランドのパーティーでルアール(Luar)と組んでいた。それ以前には、コリーナストラーダ(Collina Strada)、キムシュイ(Kim Shui)、ディオンリー(Dion Lee)などのブランドと提携していた。ソーシャルコマースは米国で流行しつつあり、今年の市場規模は6億2900万ドル(約934.2億円)に達すると予想されている。

ミャウの創業者でデザイナーのアレクシア・エルカイム氏は、顧客獲得コストが上昇しているため、エムシーと協力するようなブランドマーケティング活動は、有料広告よりも魅力的だと述べた。

「私たちは、製品マーケティングとは対照的に、ブランドマーケティングに主眼を置いている。飽和状態の市場では、動画やライフスタイルマーケティングを通じてブランドのストーリーに投資することを選択した」。

求心力を高めるDiscordとRoblox



パリ・ファッションウィークでは他に、ルイ・ヴィトンはショーのライブストリームをDiscordでホストし、ロレアル(L’Oréal)はショーケースをRobloxで配信した。両ブランドともこれらのプラットフォームでのデビューは初めてで、また両プラットフォームともにファッションブランドへの求心力を高めている。

特にRobloxは最近、ファッションパートナーシップにかなり力を入れており、グッチ(Gucci)、トミー・ヒルフィガー(Tommy Hilfiger)、メイベリン(Maybelline)とのパートナーシップを含め、過去2年間だけでも200以上のブランドアクティベーションを行っている。Robloxの担当者によると、2023年6月の同社のブランド体験への累計訪問者数は平均230万人、ブランド体験に関与した1日のアクティブユーザー数は200万人、平均11.7分だったという。

一方、ルイ・ヴィトンはDiscordに参入した最新のファッションブランドであり、昨年Discordサーバーを設置したグッチやプラダ(Prada)といったラグジュアリーブランドの競合他社に加わった。このサーバーは、ルイ・ヴィトンのランウェイショーと、デジタルコレクティブル部門であるヴィア(Via)と連携している。サーバー内のチャンネルは、ルイ・ヴィトンが6月に発表したヴィアNFTプロジェクト専用となっている。このサーバーのローンチに関するルイ・ヴィトンの声明によると、「ルイ・ヴィトンとそのオンラインコミュニティとの間にさらなる強固なつながりを築き、また一方で最新のクリエイションや舞台裏のインサイトへの特権的な可視性を提供する」ことを意図しているという。

長期的なアプローチでWeb3に取り組むラグジュアリー



ラグジュアリーマーケティングのNYU教授であり、ラグジュアリーインサイト企業サブマリン.ai(Submarine.ai)の創業者であるデビッド・クリングベイル氏は、ルイ・ヴィトンが新しいDiscordサーバーのようなWeb3やNFT関連のプロジェクトに投資しているのは、他の多くのブランドがWeb3から撤退しているのと同じことだと指摘した。

「2021年、多くのマーケターはWeb3がすぐにすべてを変革するだろうと考えていたが、今ではその考えは変わっている。当時ローンチされた多くのWeb3やメタバースのプラットフォームを訪れると、少し寂しく感じるだろう。『弱気市場はその後の強気相場のためにある』という言葉がある。ヴィトンは、Web3の小康状態を利用して将来に必要なインフラを構築しているのかもしれない」。

Web3にいまも投資しているラグジュアリーブランドはルイ・ヴィトンだけではない。たとえば、ドルチェ&ガッバーナ(Dolce & Gabbana)は今年始めのメタバース・ファッションウィーク(Metaverse Fashion Week)でディセントランドに参加した。LVMHとAppleの元幹部で、現在は暗号ウォレット会社レッジャー(Ledger)を経営するイアン・ロジャーズ氏は、ラグジュアリーはゆっくりと物事を構築することでWeb3で長期戦を戦っているという考えに同意した。

「ルイ・ヴィトンはWeb3に関してつねに長いビジョンを持っている」とロジャーズ氏は言う。「ルイ・ヴィトンは5年前からその技術を持っているが、今年になるまで、消費者向けの製品(ヴィアトランクNFT/Via Trunk NFT)を発表しなかった。ルイ・ヴィトンは長期的なアプローチをとっており、派手な事柄に気を取られてはいないのだ」。

[原文:Fashion Briefing: The social commerce and digital strategies brands launched for Paris Fashion Week]

DANNY PARISI(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)