ドローンは空中からの撮影や医薬品の開発、戦争などさまざまな用途に用いられています。そんなドローンを大量に使用した「ドローンショー」が、近年世界各地で開催されるようになりました。しかしドローンショーの発展によって、従来の花火業界が苦境に立たされていることが報じられています。

Fireworks have a new competitor: drones | The Seattle Times

https://www.seattletimes.com/business/fireworks-have-a-new-competitor-drones/



Fireworks Have a New Competitor: Drones - The New York Times

https://www.nytimes.com/2023/07/01/business/dealbook/fourth-of-july-fireworks-drones.html

ドローンの大群が空を飛ぶドローンショーは、近年その開催数を増加させており、東京2020オリンピックの開会式や、2023年のチャールズ3世の戴冠式に至るまで、あらゆる場所でさまざまなショーを行ってきました。

市場調査を専門とするアライド・マーケット・リサーチの調査では、2010年にはほとんど存在しなかったドローンショーの世界市場規模は、2021年の時点で約10億ドル(約1440億円)にまで達するとのこと。

「夜空を彩るショー」という観点では、花火大会とドローンショーは非常に良く似ています。しかし、従来の花火大会に比べ、ドローンショーはより静かで安全、また環境にも優しいとされています。そのため、多くの花火業界が「高額な設備と規制への適応に投資して、ドローンビジネスに参入するか」「ドローンショーが今後さらに普及しても花火の需要は安定していると信じ製造を続けるか」という難しい決断を迫られています。

アメリカでは一般的に、7月4日の独立記念日を祝した花火大会が各地で開かれ、花火業界はその前後に1年の収益の大半を上げるとされています。しかし、ユタ州ソルトレイクシティやコロラド州ボルダーにおいて、2023年の独立記念日では花火大会を開かずドローンショーを実施する予定です。花火大会からドローンショーに切り替えることで森林火災や公害のリスクが低減されると考えられています。



ドローンショーのプロデュースなどを行う「スターフライト・ドローンショー」の共同経営者のクリス・ホプキンス氏は「ドローンショーは花火大会よりももっと洗練されています」と語っています。スターフライト・ドローンショーでは、2022年に1機1500ドル(約21万円)以上のドローンを少なくとも75機購入し、連邦航空局に対して数多くの申請書を提出し、規制当局からの許可を得ました。また、ドローンの操縦に熟練した人材の確保を進めました。ホプキンス氏は、この投資に見合うだけの価値がドローンショーにはあることを示唆しています。

一方で、誰もが夜空を彩るショーとしてのドローンショーを望んでいるわけではなく、従来の花火大会を望む声もあります。テキサス州ガルベストンでは、2022年の独立記念日にドローンショーを行いましたが、2023年の開催時には従来の花火大会に戻すことを検討しています。また、「ドローンショーには花火大会の爆発音がないことから、迫力に欠ける」との意見も上がっているとのこと。



ドローンショーが拡大するにつれて、ドローン分野に参入する花火会社もある一方、一部の花火会社は従来の体制を維持することを明らかにしています。オレゴン州の花火会社「ウエスタン・ディスプレイ・ファイヤーワーク」のヘザー・ゴベット氏は、「ドローンショーを開催するための専門知識や資格、費用に対処するのは無理だ」と判断しています。一方で、顧客の要望に応じてドローンショーを提供する企業と提携して開催することを明らかにしています。

The NewYork Timesは、「2020年の大統領選挙の結果を祝した民主党の祝賀会で行われたドローンと花火を両立したショーのように、ドローンショー業界と花火業界が調和することで、両方の業界に希望が見えます」と述べています。



ドローンショーを手がけるスカイ・エレメンツの経営者であるリック・ボス氏は「従来の大手花火会社は、ドローンショーのような新しい領域への進出や拡大を検討することができますが、小規模な花火会社は苦境に立たされています。しかし、競争の激化がビジネスチャンスを広げています」と述べています。また、ボス氏は「事業を縮小している花火会社もあれば、完全に花火事業から撤退してしまった花火会社もあるようです。ドローンショーの拡大に伴って、事業の変革を進めるには良い時期です」と語っています。