英語学習の題材としておすすめしたいのは、新聞・雑誌・テレビに触れることです(写真:masa/PIXTA)

新型コロナウイルスの流行にともなう在宅勤務の増加、外出自粛などによって、本格的に英語学習を始める人が増えています。英語学習の題材としておすすめしたいのが、新聞・雑誌・テレビで使われる「ニュース英語」を読むことです。ニュース英語を読むメリットは、今まさに大人のネイティブ・スピーカーが使っている、“生きた語彙・英語表現”を学ぶことができることです。

三輪裕範さんの著書『今度こそすらすら読めるようになる 「ニュース英語」の読み方』では、ニュース英語をスラスラ読むためのコツについて、実際のニュース英語記事を引用しながら、それぞれの英文の構造や記事の背景を詳しく解説していきます。本稿では同書より一部を抜粋のうえ、ニュース英語の最も大きな特徴の1つである「比喩表現」についてお届けします。

“弾道弾”のような大谷選手の大活躍

ここではニュース英語の最も大きな特徴の1つである「比喩表現」について見ていきたいと思います。

もちろん、日本の新聞や雑誌の記事にも比喩表現は出てきます。しかし、ニュース英語記事に出てくる比喩表現の多彩さと頻度は、日本の新聞や雑誌のそれとは比べものになりません。

比喩表現というのは、今起こっている事件や出来事、言い換えれば現実というものを人はどのような視点から見ているのかを示してくれるものです。換言すれば、世界をどのように切り取っているのかということを、鮮やかに示してくれるわけです。

その意味では、ニュース英語に出てくる比喩表現を知ることは、ネイティブ・スピーカーの頭や心のうちをのぞかせてくれることになり、日本人と彼らの物事に対する見方や考え方の違いにも気づかせてくれます。

私自身、これまで40年以上ニュース英語を読み続けてきて、そうしたニュース英語に出てくる比喩表現の魅力に取り憑かれてきました。本稿では、そうしたニュース英語の比喩表現の魅力の一部でもみなさんにお伝えできれば幸いです。

さて、ニュース英語の比喩表現のトップバッターとしてご紹介したいのは、大谷翔平選手の活躍についてのスポーツ・イラストレイティッド誌の記事です。

ここでご紹介するのは、2022年6月に大谷選手がカンザスシティ・ロイヤルズとの連戦で、最初の試合ではバッターとして2本塁打、8打点の大活躍をし、翌日の試合でも投手として13三振を奪う快投をしたことを伝えた記事です。

Ohtani struck out 13 batters in a 5-0 win over the Royals on Wednesday night, establishing a career-high in his 47th MLB start. He allowed just two hits in eight innings of work while retiring 23 of the last 24 hitters he faced.
That performance came one day after Ohtani went ballistic at the plate, hitting a pair of three-run homers and tallying a career-high eight RBIs in an extra-inning loss to Kansas City.
(Sports Illustrated, 2022/6/23)

[語注]
retire(動)打ちとる、退ける
tally(動)(得点などを)記録する
RBI(名)打点(Runs Batted In)

前記のとおり、記事ではまず、“大谷が水曜日のロイヤルズとのナイターで13三振を奪って5対0で勝利した”(Ohtani struck out 13 batters in a 5-0 win over the Royals on Wednesday night)こと、そしてそれは、“大谷のMLB 47回目の先発投手としての登板で最高の記録であった”(establishing a career-high in his 47th MLB start)ことを書いています。

さらに、その次の文章では、“大谷はその試合で8イニング投げて2本のヒットしか許さず、試合の最後に対決した24人のバッターのうち23人を打ちとった”(He allowed just two hits in eight innings of work while retiring 23 of the last 24 hitters he faced)ことも追加情報として提供してくれています。

“went ballistic at the plate”

これだけでも投手として大活躍したと言えるのですが、大谷選手はその前日の試合でも打者として大活躍したのでした。

具体的には、“大谷はスリーラン本塁打2本を打つなど、これまでで最高の8打点を記録した”(hitting a pair of three-run homers and tallying a career-high eight RBIs)のですが、そうした大谷選手の打者としての大活躍を、この記事は“went ballistic at the plate”という、読者をうならせる比喩表現をしています。

この表現のうち、“at the plate”というのは、“バッターボックスに立って”という意味であることは多くの方がお分かりかとは思いますが、その前にある“went ballistic”については少し説明が必要かもしれません。

“ballistic”については、“ballistic missile”という成句として知られていますが、これは“弾道ミサイル”という意味です。つまり、“ballistic”は兵器などが弾道のように、超高速で動く強い力を暗示しています。そこから、“go ballistic”という表現が生まれ、“急に怒り出す”とか、“急に力が増して爆発する”という意味になりました。

ということで、ここでは大谷選手が2本塁打、8打点という打者として途方もない大爆発をしたことを“went ballistic”と表現したわけです。

なお、投手として13三振を奪い、打者として8打点をあげたのはMLB史上、大谷選手が初めてのことでした。

訳:
水曜日のロイヤルズとのナイターの試合で大谷は13三振を奪い、5対0で勝利したが、これはMLBで47回の先発投手としての登板の中で最高の成績であった。大谷はその試合で8イニング投げて2本のヒットしか許さなかっただけでなく、対戦した最後の24人の打者のうち23人を打ちとったのであった。
しかも、そのように大活躍した前日の試合は延長戦でカンザスシティ・ロイヤルズに負けはしたが、大谷自身はスリーラン本塁打2本を打つなど、これまでで最高の8打点を記録するなど打者として大爆発した。

“昏睡状態”に陥った経済

次にご紹介するのは、経済に関して使われている比喩表現です。経済というのは調子の良いときもあれば悪いときもあります。特に調子が良いときとか悪いときというのはニュースになりやすく、そんなときにはニュース英語でも多少の誇張を交えた比喩表現が大活躍します。

そんな経済関係のニュース英語記事としてまずご紹介したいのは、“coma”という相当誇張された比喩表現が使われた記事です。“coma”というのは“昏睡状態”という意味で、経済状況などが非常に悪いことを表現するときによく使われます。

ご紹介するのはワシントン・ポストの社説記事で、アメリカの中央銀行にあたるFedに関するものです。FedにはFOMC(連邦公開市場委員会)と呼ばれるアメリカの金融政策を決定する重要会合があり、年8回開催されることになっています。

この社説が出た2月は開催月ではなく、翌月に開催される予定になっていたのですが、インフレが高騰する状況を受けて、アメリカ国内では3月を待たずに利上げの決定をすべきだとの声が高まっており、この社説もFedがそのように早く行動することを望んでいます。

A small move now would remind the world that the Fed is capable of acting whenever it wants, not just at the eight prescheduled meetings a year.(中略)
Since Mr. Powell joined the Fed in 2012, the central bank has taken action between meetings only during emergency times such as the early days of the pandemic, when financial markets were panicking and the economy was rapidly going into coma.
(Washington Post, 2022/2/17)

[語注]
prescheduled(形) 事前に決まった
emergency(名) 緊急事態

先述のとおり、この社説はFedが3月の定例FOMCを待たずに利上げに向けての行動を起こすべきだと説いたもので、“それが小さな動きであったとしても今動くことは、Fedが事前に決められた年8回の定例会合のときだけでなく、必要と判断したときにはいつでも素早く動くことができることを世界に再認識させることになるだろう”(A small move now would remind the world that the Fed is capable of acting whenever it wants, not just at the eight prescheduled meetings a year)として、その効用を説いています。

そんな要請があることはパウエル議長もよく認識しているのですが、この社説も認めているように、“パウエル氏が2012年にFed入りして以来、Fedは緊急時だけ定例のFOMC会合の合間に動きをとってきた”(Since Mr. Powell joined the Fed in 2012, the central bank has taken action between meetings only during emergency times)のでした。

つまり、よほどのことがない限り、Fedは定例のFOMC会合以外では行動を起こさなかったということです。

では、Fedが何らかの動きをとった緊急時とはどのようなときだったのでしょうか。それは、“such as”の後に書いてあります。

日本人にはなかなか発想できない


すなわち、“パンデミックの初期に見られたように、金融市場がパニック状態になり、経済が急速に昏睡状態に陥っていたとき”(the early days of the pandemic, when financial markets were panicking and the economy was rapidly going into coma)のような緊急時には、Fedも定例のFOMC会合以外にも緊急会合を開いて行動をとったことがあったのでした。

このように、金融市場などが暴落するなど大混乱してパニック状態に陥っていることを“coma”(昏睡状態)と比喩を使って表現するレトリックは、日本人にはなかなか発想できないものです。

かつてフランスのマクロン大統領は、トランプ大統領がNATOを無視するような言動をしたためNATOが機能停止に陥ってしまったとして、NATOのことを“脳死状態”と形容したことがありましたが、“coma”もそれとほぼ同じ意味で使われていると言ってもいいでしょう。

訳:
どんなに小さな動きであったとしてもFedが今動けば、Fedは年に8回開催される定例会合のときだけでなく、自らが必要と判断したときにはいつでも素早く動くことができるということを世界に再認識させることができるだろう。
パウエル氏が2012年にFed入りして以来、Fedはパンデミックの初期のように金融市場がパニックになり経済が急速に昏睡状態に陥ったような緊急時にしか定例会合の合間に行動をとったことはなかった。

(三輪 裕範 : 経済評論家)