「今度こそ、幸せになりたい」

“離婚”という苦い経験を経て、また恋をして結婚がしたいと願う人たちがいる。

そんな彼らの再婚の条件は、実に明確だ。

「一度目よりも、幸せな結婚!」

それ以上でも、それ以下でもない。

幸せになることを、諦めないバツイチたちの物語。

4話からは、バツイチ子持ちの未央の物語がスタートした。

◆これまでのあらすじ
バツイチで子持ちの未央(36)は、友人から紹介されたオリバーとデートを重ねていた。

未央はオリバーと付き合っているつもりでいたが、彼から今はお試し期間中だと言われる。ショックで彼の家を飛び出した帰り道でバーに立ち寄ったが…。

▶️前回:再婚するなら外国人!?1度目の結婚にトラウマがあるアラフォー女が、陥りがちな罠



「別に変な意味はないので、よかったらご一緒しませんか?」

オリバーの家を飛び出した帰り、立ち寄った恵比寿のバーで、未央は突然男性に声をかけられた。

“変な意味はないので”と前置きがあるだけで、不思議と未央の警戒心はほぐれていく。

― 一人で飲んでも気が滅入るだけよね。どうせだったら、二人で飲んだほうが気晴らしになるわ。

「ええ、じゃあ、少しだけ」

未央がそう答え、グラスを持ち上げると、彼は自分のグラスを寄せ、“チン”と小さく乾杯した。

目の前の男性をよく見ると、短髪に日に焼けた肌をしていて40代前半くらい。端正な顔立ちをしている。

社内にいれば、きっとモテるタイプだ。

それに、未央の顔を覗き込むように聞いてくる仕草は、いかにも女慣れしているそれだけど、左手の薬指に指輪はない。

カジュアルなジャケットから覗く手首には、オレンジ色のアップルウォッチ エルメスが見える。  

― なかなかいい感じの人ね。

初対面の男性をこっそり観察していたとき、突然、名前を聞かれた。

「下のお名前は?」

― えっ? いきなり名前?

苗字ではなく名前を聞いてくるのは、距離を縮めたいからだと、以前会社で20代女子が話していたのを思い出し、未央は身構えた。

だが、悪い気はしない。自分自身にまだ市場価値があるという証拠でもある。

「僕は、岡 正明といいます。友達からは“マサ”とか“正明”って呼ばれるかな」

「私は、未央っていいます」

聞けば未央と同じ渋谷区在住で、住まいは神南の方らしい。外資のコンサルティング会社に勤めていて、週の半分は虎ノ門に通勤しているという。

お互い自己紹介を兼ねてたわいもない話をしている途中、正明がさりげなく尋ねてきた。

「ところで、彼氏はいるの?」


バーで偶然知り合った男にときめいた未央。だが、その男は…


ここは、なんと答えるのが正解なのか、一瞬の間で様々な想定をしてみた未央だったが、結局、正直に答えることにした。

それに、バツイチ子持ちと伝えておくのは、強引に誘われたときに断る時の理由にもなると考えた。

「実はバツイチなんです。子どもも一人いますし、彼氏は…」

彼氏は…と口ごもる未央のグラスに、彼は追加オーダーしたボトルワインを継ぎ足しながら優しく言った。

「僕にも子どもが一人いるんです。一緒に暮らしていないけど。一人で育てるのは大変でしょう?」

その一言を聞いて、未央は心のなかにジワッと温かなものが広がるのを感じた。この手のいたわりの言葉は、弱っているシングルマザーの心に染みる。

― もしかして、正明さんもバツイチ?

未央は、急に彼に対して親近感がわいてきた。心を開き始めた未央は、自分の話を聞いてもらいたくなった。

「さっき、彼氏がいるか即答できなかったのには理由があって…」

オリバーとの出来事を、未央は順序立てて話した。

息子に父親を作ってあげたいという気持ちから再婚活を始めたこと、オリバーのことを自分は恋人だと思っていたが、相手はそう思ってなかったこと、ショックでついさっき彼の家を飛び出してきたこと…。

正明は「うんうん」と相槌を打ちながら、聞いている。




「なんか愚痴っぽくなっちゃったけど、すっきりしました」

未央は正明の方に向き直り、ぺこりと頭を下げた。

「こんなこと言っては失礼だけど、未央さんはとても綺麗だし素敵だ。もっと自信を持った方がいいですよ」

その言葉に、胸の奥にドクンドクンと脈を打つような鼓動を未央は感じた。

「もし妻があなたみたいな人だったら、僕は結婚に失敗していなかったのかもしれない。ずっと恋人のような関係でいられたと思うよ」

正明の後悔は、同じバツイチの未央にはよく理解できた。

結婚当初のお互いを思いやる気持ちを忘れずに持ち続けることができたならば、未央だって離婚はしなかったと思う。  

元夫は結婚した途端、家事も一切せず、ただの同居人と化した。まったく妻を労うことができなかった男との結婚生活は、未央の傷だ。

もし再婚できるなら…子どもを可愛がってくれることは未央にとっての最優先したい条件だ。だが、それ以前に、いつまでも労り合うことのできる人と再婚したい、と思っている。

同じバツイチ同士、なかなか他人には言えない本音を話せたことで、未央はもっと彼と深く話をしてみたいと思っていた。

だが、母に預けている壮太のことも気になる。

携帯で時間を確認している未央の様子をみて、彼は察したようだ。

「お子さん、大丈夫ですか?そろそろ、帰ったほうがいいですよね。タクシーを呼びますから、今日はもう帰って、また改めてランチでもしましょう」

そう言うと、正明はアプリでタクシーを探し始めた。

「あと、5分ほどでタクシーが来ますよ。LINE聞いてもいいかな?」

正明に連絡先を聞かれ、LINEのアプリを起動したその時、オリバーからメッセージが届いた。

未央は通知を開かないまま、自分のQRコードを表示し、彼に差し出した。


紳士的な正明に心惹かれる未央。しかし、このあと彼の正体が明らかになる…




天気もよく、うららかな日曜日の午後。

未央は壮太の手を引き、原宿駅前を歩いていた。

今日はママ友に誘われ、フットサルチームの見学にやってきたのだ。

ほんの2ヶ月ほど前の、オリバーとランチを楽しんだ駅前のビルを横目に、代々木競技場の方へと向かう。

あれからオリバーとは、なんとなくLINEのやりとりが続いているが、会ったのは一度だけ。それも軽くお茶を飲んだ程度だ。

フットサル場につくと、多くの保護者と子どもたちで賑わっていた。壮太も友達とコーチに誘われ、練習の輪に加わる。

楽しそうにボールの蹴り方を教わっている息子を目で追っていると、壮太の向こう側に背の高い男性が見えた。

「え…?」

思わず声をだしてしまった未央に、ママ友が尋ねる。

「どうしたの?ぼーっとしちゃって。知り合いでもいた?」

向こうは気づいていないが、正明だった。

ジャケット姿しか見たことがなかった未央には、キャップにスウェットという休日スタイルが新鮮に映る。

実は、正明とは、バーで知り合ったあと2回会っている。1回目は前回と同じバーで、2回目は未央の会社がある銀座まで来てくれて、仕事の合間にランチをした。

まだ恋人未満の関係だが、2回目のランチの時に「次に会うときは、マンダリン オリエンタル 東京で食事でもどう?部屋とっておくからさ」と誘われていた。

オリバーとの関係もあやふやなまま、正明からの誘いにのってもよいものか迷っていた矢先だった。

― やっぱり正明さんだわ。お子さんに会いにきたのかしら?

未央の視線に彼も気が付いたようだ。未央は周囲を気遣って、小さく会釈をした。

ところが。

正明は会釈を返すこともせず、子どもたちのサッカーを見続けている。

― 明らかに目は合ったはずなのに。どうして……?

未央は正明から視線を外すことができないでいた。だが、彼は未央をまるで透明人間かのようにスルーしている。




と、その時。

グラウンドの外側から、ショートカットが似合う長身の女性が正明の隣にやってきて、親しそうに話し始めた。そして時折、子どもの名前を呼び、応援をしている。

― もしかして、……奥さんいたの?嘘つかれてた?

子どもの付き添いで来た場所だとはわかっているが、未央は心の動揺を抑えることができない。

『未央:結婚してたのね』

未央が手早く文字を打ち込み、正明にメッセージを送信した直後のことだ。

グラウンドがいきなりざわめき出した。

その様子に顔を上げてみると、コートの中央に壮太がうずくまり、コーチや子どもたちがその周りを取り囲んでいる。

「壮太!どうしたの?」

未央が駆け寄ると、瞳に涙をいっぱい溜め、痛みをこらえている壮太がいた。

きっとこういう時、父親がいれば壮太を背負い、車で病院に連れていくのだと思うと未央は切なくなる。

結局、フットサルチームに所属している子どもの親が開いている整形外科で手当てを受けることになった、



外が暗く沈んできた夕方。

未央は、整形外科クリニックからタクシーで壮太と家に帰ってきた。幸い大事には至らなかったが、壮太は疲れて夕飯も食べずに寝入ってしまった。

静かなリビングで一人、未央は、冷蔵庫からビールを取り出しグラスに注ぐ。

昼間、正明に送ったLINEは既読になっていない。

― 飲まないとやってられないわ。

勢いよくゴクゴクと泡を流し込み、小さくため息をつく。

未央だって相手が既婚者だとわかっていれば、真っ先に恋愛対象からは外していた。

なのに、遊び相手を探す既婚男性の罠にかかるとは、思ってもみなかった。

いや、正確に言えば、既婚男性が、わざわざバツイチ子持ちの女を罠にかけようとするなんて、思ってもみなかった。

だから、警戒心も薄れていた。

格好良くてモテそうな正明が、「会いたい」と言ってくれるだけで嬉しくて、その気持ちに応えたいと未央は思ってしまったのだ。

― シングルマザーなんて簡単に騙せるって、思われていたのかな…。

弱みにつけこまれた気がして、未央は惨めで悔しかった。

これまで自分は、バツイチ子持ちの恋愛は、独身女性のそれとは違うと思っていた。なんの根拠もないが、『バツイチ子持ち枠』という特別枠があり、優遇されるような気がしていた未央。

でも、当たり前だが、婚活市場がバツイチ用とバツなし用にくっきり分かれているわけではない。同じ市場で戦わなくては、いけないのだ。そのことを、今回のことで身を持って知った。

最初は、壮太にパパを作ってあげたいという気持ちから始めた再婚活。

でも、こうやって久しぶりに人を好きになったことで、つらいこともあるが、恋愛中のなんとも言えぬ充足感や高揚感といった特別な気持ちを、未央は思い出すことができたのも事実だ。

それは子育て一辺倒だった未央の生活に、女であることを思い出させてくれた光のようなものだった。

もう一度ちゃんと恋愛をして結婚がしたい、未央は決意を新たにした。

― バーで知り合うとか、偶然の出会いに期待を寄せては、ダメね。 やっぱ会社のみんながやっているみたいに、流行りのマッチンングアプリかなぁ。

思い立ったが吉日。

未央は、iPhoneを手に取り、アプリについて色々と調べ始めた。

▶️前回:再婚するなら外国人!?1度目の結婚にトラウマがあるアラフォー女が、陥りがちな罠

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恋は成就しなかったが恋愛の楽しさを知った未央は、マッチングアプリに登録したが…