異動先や転職先での初顔合わせ。相手の記憶に残る挨拶をするためには、どうすればいいのか。リーダー育成家でプロコーチの林健太郎氏は「聞き手にとって、挨拶の内容は記憶に残りづらい。話し手は『印象の演出』に力を入れるべきだ」という――。

※本稿は、林健太郎『できる上司は会話が9割』(三笠書房)の一部を再編集したものです。

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/filadendron

■あなたの「初日の挨拶」は誰も記憶していない

「異動初日の挨拶で何を言うか」

12月や3月など、新年や新年度がスタートする前月のコーチングセッションでよく取り上げられるテーマです。そして、ほとんどの上司がセッションの途中で「あること」に気がつきます。

それは皮肉にも、「自分がいくら気合を入れて挨拶したところで、大多数の部下がたいして聞いていない」ということです。

残念ではありますが、現実はその通りでしょう。人間は相手が話した内容の25パーセントくらいしか記憶していないというデータがありますが、実際、あなたが部下だったころのことを思い出してください。異動してきた新しい上司の初日の挨拶に対して、どんな感想を持ちましたか? この質問をすると、「あれ? ほとんど覚えていない……」と答える人が大半です。

着任した上司が「最初が肝心」とばかりに、インパクトのある挨拶をしようとがんばったところで、結局、部下はたいして聞いてくれず記憶にも残らないのです。

だからといって、「どうせ誰も聞いていないから、『初日の挨拶』はなし」というわけにもいきませんね。部下としては、前の上司と新しく着任した上司とどう違うのかは知りたいところでしょうし、どういう人柄なのかは多少ともつかんでおきたいところでしょう。

「初日の挨拶」の内容を考えるうえで大事なのは、まさにここです。

つまり、「部下たちが新しい上司からどんな話を聞きたいのか」という相手目線で、「初日の挨拶」を考えていくのです。

「初日の挨拶」でポイントとなるのは次の2つです。

ポイント 部下たちに「こう見てもらいたいという印象」が残るように演出する
ポイント 部下たちに「覚えておいてもらいたいこと」だけを話す

■記憶しているのは「話の内容」より「印象」

部下たちに「こう見てもらいたいという印象」が残るように演出する

これは、自分が他者からどう見えているかを自主的に管理する「印象マネジメント」に関係します。

私たちは日々、さまざまな人たちとコミュニケーションをとります。その中で相手の話の内容はあまり覚えていなくても、相手の「印象」については意外と記憶しているものです。例えば「厳しそうな人だな」「いつもニコニコしている人だな」……というものです。

あなたは部下たちに、どのような印象を残したいかを考えたことがありますか?

初日の挨拶の前に、自分は部下から「こう見てもらいたい」という印象を固めておくことが重要です。

印象マネジメントは、「非言語」と「言語」の両面から組み立てていきます。

非言語とは、表情や声のトーン、話す態度、見た目や聞こえ方などから伝わる印象です。こうした非言語による印象づくりは、頭で考えているだけでは身につきません。鏡の前に立って、実際に挨拶のリハーサルを繰り返して、体に覚え込ませていきましょう。リハーサルの動画をスマホなどで録画しておいて、見直すのもいいでしょう。

■オバマ元大統領が「チェンジ」と話した理由

コーチングセッションでも、上司に「堂々とした態度で、笑顔を浮かべたまま話してみてください」と、事前に練習をしてもらうことがあります。普段は対話を重ねるために使うコーチングセッションの時間を費やしてまで練習してもらうわけですから、「相手にどう見えているか」という非言語の要素がいかに重要か、おわかりいただけると思います。

写真=iStock.com/Jorge Duarte Estevao
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Jorge Duarte Estevao

一方、言語での印象づくりでは、「どういう内容を話すか」もさることながら、「どういう言葉を使うか」、特にキーワードの選定が鍵を握ります。

アメリカの元大統領バラク・オバマ氏を思い出してください。彼のキーワードは「チェンジ」でした。他の言葉は覚えていなくても、それだけは覚えているという方も多いのではないでしょうか。このように後々まで記憶に残るキーワードを選ぶことは大切です。

例えばあなたが、「信用できる上司」という印象を与えたいとします。それならば「信用」というキーワードを挨拶の要所要所に入れ込んでいくのです。

■聞き手にとって「自己紹介」や「決意表明」は退屈

部下たちに「覚えておいてもらいたいこと」だけを話す

初日の挨拶では、あれもこれもとたくさん伝えたいことをつい盛り込んでしまいがちです。しかし、伝えたいことはとことん絞り込むのが正解です。部下たちに「覚えていてもらいたいこと」だけを話す、というポイントを忘れてはいけません。

林健太郎『できる上司は会話が9割』(三笠書房)

部下たちが、新しい上司から聞きたいことって何だろう? そんな問いかけに答えるような内容を厳選するのです。「相手目線」に立った発言内容にチューニングしていくイメージです。上司の心情としては、初日の挨拶の中でつい「自己紹介」や「決意表明」をしたくなるものですが、聞き手のメンバーにとっては意外と退屈だったりします。

もし部下たちの「新しい上司に聞きたいこと」ランキングがあったら、これらの項目はおそらく下位に埋もれるでしょう。

それでは、部下が新しい上司にもっとも聞きたい話は何でしょうか。それを知るには、自分が部下だったときの経験を思い出したり、他の人にインタビューするなどして探っていく必要があります。一方的に自分の主張をするのではなく、相手が聞きたいと思うことを察知して伝える。そのための事前準備は怠らない。そんな姿勢が求められているのです。

■部下から評判がいいのは「未来志向」の話

私がコーチングした上司によると、部下から評判がいいのは「未来志向」の話だそうです。つまり「これから自分は『どんなチームをつくろうとしているか』」が伝わる話をする。

新しい上司が何を目指しているのかがわからないままでは、部下たちはどこに進んでいいかがわからず、不安を感じます。その不安を初日の挨拶で解消するのです。

上司の最初の仕事として、これ以上に重要度の高い仕事はないかもしれません。

Answer:「自分が言いたいこと」よりも「部下が聞きたいこと」を話す

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林 健太郎(はやし・けんたろう)
リーダー育成家
合同会社ナンバーツー エグゼクティブ・コーチ。一般社団法人 国際コーチ連盟日本支部(当時)創設者。1973年、東京都生まれ。バンダイ、NTTコミュニケーションズなどに勤務後、日本におけるエグゼクティブ・コーチングの草分け的存在であるアンソニー・クルカス氏との出会いを契機に、プロコーチを目指して海外修行に出る。帰国後、2010年にコーチとして独立。リーダーのための対話術を磨くスクール「DELIC」を主宰。2020年、オンラインでの新しいコーチングの形態「10分コーチング」(商標出願中)を開発。
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(リーダー育成家 林 健太郎)