今季からフランスの名門、マルセイユに所属する長友。(C) Getty Images

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 ヨーロッパで長きに渡ってプレーし、日本代表では122試合に出場。自身4度目のワールドカップとなる2年後のカタール大会を目指し、長友佑都は今季からリーグ・アンのマルセイユでプレーしている。

「2年前のロシア大会が最後になると思っていたけど、あまりにもワールドカップが楽しすぎた。僕は完全にワールドカップ中毒なんです」

 長友にとって、“4年に1度の祭典”は特別なもの。後進に道を“譲る”つもりはなく、レギュラーとして檜舞台に挑むつもりでいる。一方でキャリアの終盤に差し掛かっているのも事実。9月12日に34歳を迎え、働き盛りのサッカー選手として残された時間はそう多くはない。もちろん、長友自身も現実を理解している。セカンドキャリアの準備を着々と進めてきたのも、そのためだ。やりたいことは現時点で無数にあり、絞ってはいない。ただ、引退後に取り組みたいことのひとつとしてスクール事業がある。

「自分はヨーロッパのリーグや日本代表で世界のサッカーを肌で感じさせてもらっていました。その経験を子どもたちに伝えていきたいし、世界で通用する選手を育てたい。日本のサッカーを下に見ているとかではないけど、ワールドカップなどで本当に上位を狙うためには、今の日本のレベルでは正直厳しい。積極的に海外へ出ていき、厳しい環境で外国人として扱われて、激しいプレッシャーの中で戦える選手が出てきてほしい。それは技術的な要素だけで成り立つわけではないので、ひとりの人間として世界で通用する選手を育てたいというのがあった。これは海外でいろんな経験をした人じゃないと伝えられないので、僕自身が発信をしないといけない」
 
 10年以上に渡って海外で戦った経験は何物にも代え難い。イタリアのセリエA、トルコのシュペル・リギ、フランスのリーグ・アン。チャンピオンズ・リーグやヨーロッパリーグにも出場し、ワールドカップの舞台にも3度立った。しかし、多くの試合を経験しても、海外の選手には驚かされてばかり。特に若手のスケール感は凄まじいものがあった。

「育成年代の練習を頻繁に見ていないので詳しい事情は分からないけど、若手がトップチームに上がってきたり、十代のプレーヤーがトップで練習している姿を見ると、日本と違ってスケール感のある選手が多いと感じていた。日本人は技術的に優れていてすごく上手い。でも、すぐにトップチームで勝負できるかと言われるとそうじゃない。フィジカル的なスケールがちょっと違うと感じる」

 では、なぜスケール感が違うのか。フィジカル面はある程度追いつけても、もともと持っている素養もある。鍛えるだけでは相手を上回れない。ただ、長友はそうした身体的な差を別の視点から見ている。

「フィジカル的な差はある。ただ、日本人はパスをつなぐ意識を持ち過ぎて、止まったプレーが多い。つまり、ゴールに向かうプレーが少ないんです。普段から足もとの技術だけを磨いている選手と、足もとの技術を磨きながらゴールへの意識を持って取り組んでいる選手ではフィジカルレベルも変わってくる。技術だけではなく、そういう意味でスケールが違うんです」
 
 自身の経験を日本の子どもたちに伝える方法として、長友は2015年に小学生を対象とした“YUTO NAGATOMO Football Academy”を立ち上げた。合言葉は“世界で通用する選手を輩出する”だ。自身が持つ世界基準のモノサシを軸にメソッドを構築し、子どもたちの成長を促す場としてスクールを立ち上げた。

 現在は横浜校、多摩校、幕張校で活動をしており、来年2月には4校目として矢板校が開校する。設立から5年の月日が経ち、スクールだけではなく、入校する子どもたちのレベルも上がっている。年に数回ほど顔を出す長友も、裾野が広がっていることを実感する。