5Gスマートフォン時代の新用語! 新機種を購入する前に覚えておきたい基礎知識

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●5G時代に登場する新用語を分かりやすく解説
NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの移動体通信事業者(MNO)3社から、一斉に第5世代移動通信システム「5G」の正式サービスが開始されて約1ヶ月。
テレビCMやネット広告などでその話題を目にする機会も増えてきました。

5G対応スマートフォンも各社がラインナップし、5月からはいよいよ発売ラッシュへと突入します。しかし、それらの端末のレビューサイトや商品説明には、今までなかった言葉が多く登場しています。

そんな、5G時代の新しい用語やキーワードとなる技術について、簡単に解説したいと思います。


5G時代に覚えておくと便利な用語をまとめて解説



●5G NR
5G NR(ファイブジー・エヌアール)とは、「5G New Radio」(ファイブジー・ニューレディオ)の略称です。
通信規格の国際的な標準化プロジェクトである「3GPP」(スリージーピーピー)が策定した新しい通信システム技術で、世界の5Gサービスの標準仕様として期待されているものです。

NTTドコモは、この5G NRを「5G New RAT」(5G New Radio Access Technology=ファイブジー・ニュー・レディオアクセステクノロジー、の略)と表記しています。

日本のMNO各社が採用している技術もこの5G NRで、各社間の相互運用や基地局設備の共有、端末および基地局設備の部品調達などを共通化できるため、コスト的なメリットがあります。

しかし、一般に呼ばれる5Gと、この5G NRはイコールではありません。
例えばNTTドコモは、既存のLTEを高度化したeLTE(用語解説は後述)も5G回線として定義されており、スマートフォンなどでeLTEの電波を利用している際も、画面のステータスバーには「5G」と表示されます。


通信会社によっては、5Gと表示されていても5G NRの電波を掴んでいるとは限らない



●eLTE
5G NRの項目でも登場したeLTE(イー・エルティーイー)ですが、「enhanced LTE」(エンハンスド・エルティーイー)の略称です。
厳密には5Gの技術ではなく、3.5G世代である「LTE」、そして3.9G世代の「LTE-Advanced」(エルティーイー・アドバンスド)を、さらに高速化させた技術です。

※LTEおよびLTE-Advancedは、それぞれ商慣習的に4G世代の通信規格として利用されているため、その電波を利用している際はスマートフォンの画面に「4G」と表示されます。

eLTEは、上記の通り従来の4G回線をさらに高速化しただけのものですが、
・4Gと同じ周波数帯を使うために1つの基地局がカバーするエリアが広い
・基地局設備の多くが従来の4Gから流用できる
・新たなアンテナなどを敷設する必要がない
こういったメリットから早期にエリア展開を行うことが容易なため、NTTドコモなどが積極的に採用している方式です。

5Gは、そもそも4GやWi-Fiなど、複数の技術および規格を並行してシームレスに利用することを前提としているため、こういった柔軟な対応が可能なのです。


NTTドコモの5Gエリア展開計画。まずは広域をカバーしやすいeLTEを広げ、その後5G NR(5G New RAT)でスポット的にエリアをカバーしていく予定だ



●Sub6
「Sub6」(サブシックス)とは「6GHz未満」という意味で、5G NRで利用される3.7GHz帯や、4.5GHz帯の周波数の電波を指します。

5Gでは、このSub6と呼ばれる周波数帯の電波を、100MHzという非常に広い幅(帯域)で束にして利用することで、超高速通信を可能にしています。
NTTドコモとKDDIは、このSub6の周波数帯域を2つ(100MHz幅を2つ)、ソフトバンクと楽天モバイルは1つ、総務省によって割り当てられています。

従来の4Gでは、10MHzや20MHzといった帯域幅が使われていました。これでも十分に広い帯域幅ですが、Sub6ではさらに5倍から10倍もの広さの電波を扱えることになり、圧倒的な高速性が実現したのです。

道路に例えるなら、4Gが片側2車線の高速道路だとするなら、5Gは片側20車線の高速道路になるようなイメージです。

ただし、Sub6はメリットばかりではありません。

電波は基本的に周波数が高くなるほど、
・直進性が高くなり回折性が悪くなる(建物の裏側などに電波が届きづらくなる)
・遮蔽物浸透性が低くなる(建物の中へ電波が届きづらくなる)
・出力の距離減衰が大きくなる(遠くまで電波が届かなくなる)
こういったデメリットが増えてきます。

そのため、Sub6の中でも3.7GHz帯を使えるのか、それとも4.5GHz帯を使えるのかでもエリア展開に僅かな差が生まれます。


周波数帯の獲得でも各社間で見えない戦いがあった



●ミリ波
「ミリ波」(ミリハ)とは、5G NRで利用される30GHzから300GHzまでの周波数帯を指した名称(呼称)です。
この周波数帯の電波の波長が1mmから10mm程度であることから、ミリ波と呼ばれます。
日本では、27GHzから29GHz帯の電波がMNO各社に割り当てられました。

ミリ波はSub6よりもさらに高周波な上に、MNO各社に割り当てられた帯域幅も400MHz幅ずつと非常に広いのが特徴です。

こちらも道路で例えるなら、片側2車線の4G高速道路に対し、片側80車線の高速道路のようなものです。

Sub6よりもさらに高速通信が行えることから「5Gの本命」と呼ばれるミリ波ですが、Sub6の項目で解説した周波数特性はさらに顕著になり、メリットとデメリットのバランスが極端になってきます。

電波の到達距離はSub6よりもさらに短くなり、電波の拡散範囲も非常に狭く直線的になります。
障害物の回折性や浸透性も著しく低くなるため、見通しの良い通路や障害物のない室内などでの利用がメインとなります。
例えば室内の天井などに設置し、利用者が滞留する場所や座席付近へ向けて、スポット的に電波を飛ばすなどの利用方法が想定されます。

5G NRでの広範囲なエリア展開が難しいとされるのは、こういったSub6やミリ波の電波特性からなのです。


5G NRは「高速大容量通信が得意だが扱いづらい電波」だと言える



●NSA
「NSA」とは、「Non-StandAlone」(ノン・スタンドアローン)の略です。
5Gでも、5G NRの電波のみを使う方式を「SA」(StandAlone、スタンドアローン)と呼びますが、それに対して4Gや4Gの周波数帯を用いる方式を指してNSAと呼びます。
前述したNTTドコモによるeLTEの利用などがNSAの代表的なものです。

NSAでは、4Gのコアネットワークと、5G用の基地局を組み合わせて利用します。これまで解説してきたように、4Gネットワークを使って5Gエリアを構築できることからエリア展開が早いことが最大のメリットです。

一方で、通信速度や遅延性などが4Gネットワークに依存するため、5G NRの特性として謳われている「高速大容量」や「低遅延」は実現できません(eLTEでも5G NRほどの速度は出ない)。
そのため、MNO各社ともにサービス開始当初はNSAでエリア展開を急ぎ、いずれは全てをSAに置き換えていく、という計画を立てています。


KDDIは2022年3月期までにSAへの接続完了を目指す



●ネットワークスライシング
5Gの通信ネットワークがSA化されることで、大きな恩恵を受ける技術の1つが「ネットワークスライシング」です。

これまでの通信は、どのような利用方法でも同じ通信環境が提供されてきました。
例えば映画のストリーミング配信でも、IoT機器のデータ送信も、全て同じ回線を利用していたわけです。

しかしこれでは、映画のストリーミング配信が増加して回線が逼迫した場合などに、IoT機器のデータ送信にまで影響が及んでしまいます。
また、間断なく大量のデータを送るストリーミング配信と、非常に小さなデータを定期的かつ大量に分散送信するIoT機器を同じ回線で利用することは、リソースの利用に大きなムダが生じます。

5Gが持つ高速大容量や低遅延といった特性は、基本的に同時に実現することが難しい技術でもあります。
例えば高速大容量に特化すると低遅延性は下がり、低遅延性を追求すると高速大容量を実現しづらくなるのです。

そこで、5Gでは1つの基地局内で回線を仮想化し、利用する機器に合わせて最も効率の良いネットワークを分割構築します。これがネットワークスライシングの概念です。
仮想化された回線はそれぞれ干渉しないため、ストリーミング配信が急激に増加して回線が逼迫しても、IoT機器のデータ送信には影響を及ぼしません。

ふたたび道路に例えるなら、片側80車線もある高速道路を目的に合わせて「ストリーミング専用車線」、「IoT専用車線」のように分け、それぞれが違う速さで走れるように整備するのです。

このネットワークスライシングによって、5Gネットワークでは非常に効率の良い電波利用が可能となります。

電波は限られた周波数帯域を用いる「有限資源」です。利用者が無差別に利用すればすぐに帯域は枯渇し、ネットワークトラフィックは大渋滞を起こします。
ネットワークスライシングは、そういった大渋滞の影響を極限まで分散させるための技術なのです。

またこの技術によって、必要なサービスに必要なだけの帯域を確保するといった柔軟なサービスが可能になります。
商業的にはこちらのメリットが大きく、MNO各社がストリーミングサービスやIoTサービスに対し、最適な帯域のみを低コストで販売する、といったソリューションビジネスも可能となります。


1つの物理的な基地局を、まるで複数の基地局であるかのように仮想化する



●5G対応スマートフォン購入時の予備知識として
以上が、5Gに関連する主な新用語の簡単な解説となります。
私たちがスマートフォンなどで利用する範囲ではあまり知る必要のない知識も多くあります。

ですが、例えば5G対応スマートフォンのスペック表には、「Sub6のみ対応」や「Sub6・ミリ波両対応」などといった表記がされている場合があり、スマートフォン購入時の判断基準として活用できます。
またeLTEやNSAといった仕組みを知っておくことで、「スマートフォンには5Gと表示されているのに通信速度が遅い!」といった誤解を生みづらくなります。

ぜひとも各用語を覚えていただき、今後の5G活用や5G対応スマートフォンを購入する際に思い出していただければ幸いです。


執筆 秋吉 健