韓流オカルトホラー「哭声/コクソン」ふんどし一丁で鹿の死体にかぶりつく國村隼凄い

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デビューからの2作をもって韓国映画界で確固たる地位を築いたナ・ホンジン監督。その3作目となるのがこの「哭声/コクソン」である。田舎町に唐突に現れた謎の男を巡って頻発する怪事件を描いた、正統派のオカルトスリラーだ。


舞台は韓国の鄙びた寒村。村では陰惨な殺人事件が多発しており、いずれの事件も犯人は被害者の身内。さらに犯人の皮膚は湿疹のように爛れ、まともに話せなくなっているという共通点があった。事件を捜査する警官ジョングは犯行現場に現れてはフィルム式カメラで写真を撮っていく、最近近所の山に住み着いたよそ者に着目。捜査の中で次々によそ者の奇行が明らかになり疑念を深めるジョングだったが、自らの愛娘にも事件の犯人たちと同様の湿疹が浮かび、言動がおかしくなり始めたことから状況は一変。祈祷師を雇って娘の憑き物を落とそうとするのだが……というお話。

國村隼、韓国の田舎にあらわる


兎にも角にも強烈なのが村に現れたよそ者を演じる國村隼の怪演である。ふんどし一丁で鹿の死体にかぶりつく國村隼、目を赤く光らせつつ岩の上からヌ〜ッと現れる國村隼、半裸で滝に打たれる國村隼、犬に懐かれる國村隼、祈祷師っぽい服装で呪文を唱えつつ太鼓を叩く國村隼、『ブレードランナー』のデッカードみたいな感じで崖にぶら下がる國村隼など、隼マニア(多分世の中には確実にいると思います)なら必見の、今まで誰も見ることのできなかった國村隼が満載だ。

昨年の『ちはやふる』や『シン・ゴジラ』など、ここしばらくは「頼れる年長者」的な役柄が続いたけど、本来國村隼は『アウトレイジ』のセコいヤクザや『進撃の巨人』のよくわからない悪役など、ワルい役柄だってこなせる役者。そして本作の謎めいたよそ者役は間違いなくダークな國村の頂点と言える役所なのである。詳細はネタバレになるので避けるが、とにかく「変なことをやってる國村さんを見たい!」という動機で見に行っても充分お釣りが返ってくる内容なのは保証する。

頼れる祈祷師ファン・ジョンミンのすごすぎる嘔吐


加えて、祈祷師役のファン・ジョンミンも素晴らしい。直近で公開された作品では『アシュラ』(こちらも最高の映画です)の極悪市長役が記憶に新しいけども、本作ではポニーテールで高額な料金をふっかけ、しかも腕は抜群にいい、という祈祷師界のブラックジャックのような役を得意のヘラヘラ感を出しつつ好演。一歩間違えるとマンガチックになってしまいそうな役をグルーヴィーな韓国式祈祷(後ろでドラや太鼓がテクノやトランスのようにジャンジャン鳴り、それに乗ってクルクル踊りながら呪文を唱えたり生肉に包丁を突き刺したりする)と人懐っこい笑顔で見事に乗り切っていた。

加えて、彼が劇中でものすごい嘔吐をするのだが、その嘔吐の放物線が本当に素晴らしいので是非とも見ていただきたい。本当に美しいゲロだった……。「ゲロを吐くシーンがある映画は名作」という説があるが(いや、あるんですよマジで)、本作も見事な嘔吐シーンを見せてくれた。このゲロだけでも名作の風情である。

>『哭声/コクソン』は是非2人以上で鑑賞を


前述のファン・ジョンミン演じる祈祷師が重要で、彼がいることにより本作は『エクソシスト』に連なる悪魔祓い系ホラーに接続されている。さらに祈祷師、そして相手となる絶対悪が互いに呪術を駆使して戦う異能者バトル的な質感には『カルト』や『コワすぎ!』などの白石晃士監督作品の匂いも。さらに加えて韓国の田舎ならではのアイテムやギミックが続々登場するので、悪魔祓い系ホラーのあるある的なネタもひとひねりされており、本作はそういったジャンルに食傷気味のホラーマニアも膝を打つ内容となっている。

見た後には確実に「あそこはああいう意味だよね!?」「ここってこういう意味のシーンだよね!?」と感想戦を開きたくなるのが必至の内容なので、是非2人以上のチームで見にいくことをオススメする。スレたホラーマニアから枯れたおっさんの奇行が見たいだけの趣味人まで、『哭声/コクソン』は幅広い(?)人にオススメできるスリリングな一作なのだ。
(しげる)