イングランド代表が抱える贅沢な悩み…ルーニー、ケイン、ヴァーディ同時起用の是非を問う

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 ユーロ2016に出場する24カ国の攻撃陣を見渡しても、イングランド代表ほどタレントに恵まれたチームはない。代表の歴代トップスコアラーであるウェイン・ルーニー、プレミアリーグの得点ランキングでワンツー・フィニッシュを飾ったハリー・ケインとジェイミー・ヴァーディがいて、ダニエル・スタリッジに、18歳の新星マーカス・ラッシュフォードも居並ぶ前線はもちろん、攻撃的MFにも、ラヒーム・スターリング、デレ・アリ、ロス・バークリーと俊英がズラリと並ぶ。

 ロイ・ホジソン監督は、この多士済々なアタッカー陣が機能する“最適解”を探し求めてきた。常に誰かが欠場してベストメンバーがそろわなかった不運もあり、人選は流動的で、布陣も4-3-3と中盤ダイヤモンドの4-4-2を行ったり来たり。トルコ、オーストラリア、ポルトガル相手に3連勝を飾った開幕前のテストマッチ3試合でも、試行錯誤は続いた。

 FAカップ決勝に出場したルーニーが不在だったトルコ戦(2-1)では、ケインを最前線、ヴァーディとスターリングを両翼に置く4-3-3でスタート。ケインが3分に先制点を決めるもその後は攻めあぐね、後半はケイン&ヴァーディの2トップをスターリングが補佐する4-4-2にシフト。攻撃が活性化し、ヴァーディが83分に決勝点を決めた。

 続くオーストラリア戦(2-1)は4-4-2。ケインが休養、スタリッジが負傷、ヴァーディが自身の結婚式で一時離脱したためスターリング&ラッシュフォードが前に並び、アダム・ララーナがトップ下で先発すると、開始早々にラッシュフォードが電光石火の代表初ゴールをゲット。後半開始からルーニーが最前線に送り出されて4-3-3にシフトすると、スターリングのお膳立てから、そのキャプテンが一部で囁かれていた“不要論”にノーを突きつけるように豪快なシュートを決めた。

 そして、本番前のラストゲームとなったポルトガル戦(1-0)である。この試合は、ケイン&ヴァーディの2トップに「10番」ルーニーという“ビッグ3”の同時起用が初めて実現。キックオフの瞬間までは「これぞベスト」と誰もが胸を躍らせたものだが、90分後には落胆に変わってしまった。クリス・スモーリングが終盤に決めた1点で辛勝したものの、この日の攻撃陣はまったく機能しなかったのだ。ポルトガルのDFブルーノ・アウヴェスが35分に退場し、多くの時間で数的優位に立っていたにも関わらず、である。

 ルーニーは、オン・ザ・ボールでは中盤深くまで下りてきてゲームメークに参加しつつゴール前への飛び出しも狙い、オフ・ザ・ボールでは先頭に立ってハイプレスをかけるなど、精力的に動き回った。だが、彼がセンターフォワードの位置を浸食することで、ケインとヴァーディが“スプリット”されてしまうという事象が起こってしまった。加えて、この献身的な2トップがワイドに追いやられてもその位置でプレスバックを怠らないことも災いし、結果、ボールを奪っても前にターゲットがなく、得意のショートカウンターも影を潜めてしまった。さらに言えば、得意のトップ下をルーニーに奪われ、三列目にあたる左のインサイドハーフに下がったアリまで、相棒ケインとの距離が離れたことで輝きを失ってしまった。

 結局、まずはシュート0本、ボールタッチわずか9回だったヴァーディが66分に交代を告げられた。続いて、各々1本ずつしかシュートを撃てなかったケインとルーニーも、78分でピッチを退いた。ホジソンが“最終型”と考えていたはずのシステムは、それぞれの持ち味を潰し合うばかりで機能しなかった。国内メディアはこぞって、この実験は「失敗だった」と断じている。

 ただ、ぶっつけ本番で恥をかかなかっただけ、よしとすべきかもしれない。ポルトガル戦後、ホジソンは「2トップ+セカンドストライカーの形は、サイドの守備が難しくなる。2トップにはワイドに広がる動きも必要だが、今日は2人がサイドに寄り過ぎてしまった。適切なタイミングと動きができるよう修正したい」と反省の弁を述べたが、大会初戦となる11日のロシア戦までに、果たしてどれほど改善策を見出せているか。