「管理職ヤダ」女子社員 裏切りか? やむなしか?

写真拡大

■出産も出世もできる環境だが、女性は「管理職ヤダ」

安倍政権は1億総活躍社会を推進するために、希望出生率1.8と女性の就業継続による活躍の同時実現を目指すと豪語している。

そして、その障害となるマタニティーハラスメント(マタハラ)の防止策を企業に義務づける男女雇用機会均等法と育児・介護休業法の改正案を今国会に提出する。

改正されると、マタハラに関する社員研修の実施や上司や同僚のマタハラ発言を告発する相談窓口の設置、就業規則による罰則規程の導入などが盛り込まれる予定だ。何もしなければ違反企業として社名の公表も予定されている。

一連の女性関連法の法改正の実務を担っているのが企業の人事部だが、その負担と制度設計に頭を痛めている人事担当者も少なくない。

住宅販売会社の人事課長は頭を抱えている。

「すでにセクハラ等の相談窓口は設置しているが、マタハラの相談はほとんどなく、マタハラといってもピントこない社員がまだ多いのだろう。マタハラ規制が強化されても、どんな言動がマタハラに当たるのか、まだ基準があるわけではない。曖昧なままだと管理職を含めて職場が混乱するかもしれない」

それにもまして人事部にとって頭の痛い課題は、今年4月1日に施行される女性活躍推進法の対策だ。昨年8月に国会で成立。政府目標である「2020年に指導的地位に占める女性の割合30%」の達成を後押しする施策の1つだ。同法によって、労働者301人以上の企業は4月1日までに女性の活躍推進に向けた行動計画を策定しなければならない(300人以下は努力義務)。

具体的には、

(1)自社の女性活躍に関する状況・課題分析
(2)それを踏まえた行動計画の策定、社内周知、公表
(3)行動計画の都道府県労働局への届出
(4)女性の活躍に関する状況の情報の公表
――の4つが義務づけられる。

■入社当初は管理職になりたい女性も多いが……

女性活躍に関する状況把握には女性採用比率、勤続年数男女差、労働時間の状況、女性管理職比率などが含まれる。さらに行動計画には目指すべき女性管理職比率など数値目標をどれか1つを定めなければならない。

取り組みを促進するため、行動計画の策定・届出を行った企業のうち、取組実施状況等が優良な企業に対する認定も実施する。認定企業については公共入札での加点も検討されている。

数値目標を達成しなくても罰則はないが、次世代育成支援対策推進法に基づく「くるみんマーク」と同様に認定取得によって他社との差別化を図る企業も出てくるだろう。くるみんマークは子育てと仕事を両立できる企業としてリクルート効果もあるとされる。

取得するために男性社員の育児休業の取得を奨励する動きもあったが、同じように女性活躍認定マークを取得するために、女性の管理職登用に拍車がかかることを政府は期待している。

しかし、女性の管理職を増やすのは簡単ではない。

管理職に育成するには、まず一定採用数を確保し、入社後の教育や仕事の与え方を通じた地道な育成努力と長い時間をかけて達成されるものだ。電機メーカーの人事部長はこう打ち明ける。

「管理職の前に4つの等級があり、それぞれ4年の滞留期間を設けている。したがって課長になるのは38歳。トップに女性を早く管理職にする仕組みを作れと言われているが、さすがに飛び級の仕組みを作るわけにはいかない。等級ごとにマネジメント能力の資質を見極めて、能力を磨いていくことになる。しかし、今は最短の滞留年数を設けて11年で課長になれるようにした。とくに女性の場合は、管理職になりたいという志向の醸成も不可欠であり、課長に昇進させるのはハードルが高い」

実際に多くの企業が女性管理職を増やすために懸命に努力している。だが、それに水を差す調査結果もある。日本生産性本部が2015年の春に実施した新入社員教育プログラムの参加者を対象としたアンケート調査では、

「管理職になりたい」と回答した女性社員は53.5%。逆になりたいとは思わない女性は46.5%だった。なりたい女性が5割を超えるのは比較的高い数字だろう。研修参加期間が3月下旬〜4月と入社間もない時期であり、研修費用も2日間で3万円超と、送り出す会社の期待を背負っていることも背景にはあるだろう。

■管理職を拒否する4つの理由が暗示するもの

同様の調査を入社半年後の10月〜12月のフォローアップ・プログラム研修でも実施している。

ところが、「管理職になりたくない」女性社員が73.0%に増加しているのだ。逆になりたい女性は27.0%に減少している。わずか半年間でこれほど減るとは企業の人事関係者にとってはショックだろう。

そもそも近年の女性総合職採用においては当然、企業は全員が将来の管理職候補になることを想定して採用しているだろう。面接では「将来のキャリアアップをどのように考えていますか」と聞く。それに対して「自分のスキル・能力を磨き、キャリアを広げてより責任の重い立場に就いて職責を果たし、会社に貢献したい」と答える学生を採用しているはずである。

にもかかわらず入社半年後には「管理職になりたくない」女性が大多数を占めることになるのは、当てが外れたというだけではすまされない問題だろう。その原因は女性社員の側にあるのか、あるいは会社での働き方、働かせ方にあるのか。

調査では、管理職になりたくない理由として4つ挙がっている。

(1)自分の自由な時間を持ちたい(35.8%)
(2)重い責任のある仕事は避けたい(26.4%)
(3)組織に縛られたくない(20.8%)
(4)専門性の高い仕事がしたい(11.3%)
――の4つだ。

この結果をどう受け取るべきなのか。

職場の改善を進めていくことも重要になる。それにしても入社1年足らずで管理職になりたくない女性社員をいかにその気にさせるのか。そして女性管理職の目標を達成するのか、至難の業といえるかもしれない。

(溝上憲文=文)