Photo by Laurence Griffiths/Getty Images

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14日、ロシアワールドカップがロシアvsサウジアラビアの開幕戦でスタートした。前回のブラジル大会で導入された、複数のカメラによるゴール判定「ゴールライン・テクノロジー」に加え、この大会からはビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)と呼ばれる、ピッチ外で映像を確認し、ピッチ上のレフェリーに情報を送る「アシスタント・レフェリー」がプレーを観察している。

開幕戦がヨーロッパとアジアという対戦だったため、中立ということで選ばれたアルゼンチンのネストル・ピターナ主審は、この試合ではピッチから離れてモニターを確認し、VARを活用するという場面がなくてすんだ。

ロシアの1点目はゴール直前にサウジアラビアの選手が倒れたが、これは滑ってしまったから。また4点目は得点の前のアルテム・ジュバのヘディングがオフサイドだったように見えたが、スローで確認するとDFと並んでいるためにオフサイドではない。

得点の度に一連の流れはVARにチェックされ、問題がありそうなときはレフェリーに連絡が行くということで、このときは連絡がなかったか、大丈夫だったと伝えたということだろう。

ところが、開幕戦からこのVARの運用を疑問視せざるを得ない場面があった。

前半15分、ロシアが右サイドを攻略したが最後に抜け出した選手は明らかにオフサイド。ところが目の前の副審がこの反則を見逃し、ゴールライン付近まで突破して折り返す。中央ではロシアの選手とサウジアラビアの選手が交錯し、ふたりが倒れた。

その時点でレフェリーは笛を吹き、負傷者の手当を行うと、次にサウジアラビアの間接FKとして再開したのだ。一連のプレーで間接FKに該当すると思われるのはオフサイドだけ。ところが副審はミスしており、主審もオフサイドを判定できる位置ではなかった。

これはVARからレフェリーたちに情報がいったと思われる。ところが、VARを使用すると言うことになっているのは「得点」「PK」「退場」「警告や退場の選手の特定」に限られると決まっていたはず。となると、この場面ではVARは役割の範囲を超えている。

一番の問題は副審のオフサイドの見逃しだが、VARがさまざまな範囲で使われるようになると、ピッチに立つレフェリーたちへの信頼度は低下する。どんな微妙なプレーでも選手はVARの判断を仰ぐようになり、レフェリーたちのジャッジを当てにしなくなるのだ。

このまま進めば、もしかすると、ワールドカップではピッチ上にレフェリーがいなくなるかもしれない。そんな未来すら予想させる開幕戦だった。

【森雅史/日本蹴球合同会社】