偶然が生んだ偉大な発明と、科学的方法の関係

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イギリス人はこれをセレンディピティと呼ぶ。この言葉を最初に用いたのは、ホレス・ウォルポールで、発見の偶然性を示すために新しい言葉をつくったのだ(昔のペルシャ語でスリランカのことを示すセレンディップに由来する)。これは、科学が生み出してきた発明の多くが、しばしば、まったく異なるものを探しているとき、あるいは完全に何も期待していないときに生まれたことをうまく言い表している言葉のひとつだ。



10月25日から11月4日まで、イタリアのジェノヴァで開催された科学フェスティヴァルでは、ふたりの若いエジプト人研究者、マフムード・アブー・ケデルとナダ・エル・マンシーが、科学における偶然性について語った。「ニュートンのリンゴ」のような伝説や、実際に証言の残されている逸話など、彼らの話は楽しくて興味深いものだった。



特に、重要な発見を成し遂げるもとになった偶然の出来事を語っていくなかで、彼らがほとんど格言か何かのように、ひとつの忠告を強調していたことが印象的だった。偶然は、非常に重要な役割を担っているけれど、それだけでは十分ではなく、注意力と、偶然見つけた新しい道筋をたどっていくための科学的方法が必要だというのだ。



彼らの話は、たくさんの真珠を集めて作ったネックレスのように素晴らしいエピソードで彩られていて、いくつかは本当に興味深いものだった。



例えばフランス人科学者、エドゥアール・ベネディクテュスが、研究室で棚からビーカーを落とした話だ。ビーカーは粉々になったけれど、破片は互いにくっついたままだった。助手のひとりが彼に、ビーカーの中にはニトロセルロースの溶液があったけれど、その後蒸発して、目に見える痕跡はなくなっていたことを告げた。



しかしベネディクテュスは、まだこの偶然が示唆することに耳を傾ける準備が十分にできていなかった。



ところが数日後、自動車事故において、ある少女に飛び散ったガラスがぶつかって命を失ったという記事を読むにあたり、ビーカーが粉々になったけれど破片がバラバラにならなかったという、思いがけず光明をもたらしてくれるこの出来事を、もっと探求する必要があることを理解した。



彼は走って研究室に行き、24時間ずっと、さまざまな種類のプラスチックをガラスの強化ために実験して、史上初の破片が飛び散らないガラス、Triplexを発明した。これによって多くの人が命を救われたのだ。



おそらくもっとよく知られているのが、ビッグバン理論をもたらした発見だ。研究者たちは、天の川からやってくる信号を聴いていたときに、その奥でずっと聞こえている騒音に煩わされていた。しかしノーベル賞ものの直感によって、まさにこの騒音に注意を向けて、これが宇宙を生み出した爆発のなごりの放射線であることを発見したのだ。



これに対して電子レンジは、パーシー・スペンサーがポケットの中にチョコレートの棒菓子を忘れていたことから誕生した。彼はレーダーに使うための熱電子管を触っていた。チョコレートは溶けてしまったが、スペンサーは単に不快に思って捨ててしまうのではなく、この偶然を意図的に再現できるのではないかと考えた。研究室でしばらく実験を行って、最初の電子レンジを開発した。もっとも、冷蔵庫のようにかさばるものだったが。



コカ・コーラもまた、二重の間違いの産物だ。ジョン・ペンバートンは、痛み止めのシロップをつくろうとしていたけれど、はかばかしい成果を挙げられなかった。しかし、失敗した実験成果のひとつが非常にいい味だったので、助手に冷たい水を加えるように指示した。助手は間違いを重ねて、炭酸水を加えた。これによって、世界で最も普及した炭酸飲料が誕生したのだ。



さらに、マッチや、モーブという紫に近い色の合成染料や、指紋を検出する方法も。ヴァイアグラだって、これを研究室で合成した化学者たちの考えでは、リラックス効果をもつはずだった。



要するに、偶然が、観察力と科学的方法と結びついて人類の進歩に大いに貢献した例は非常に多い。この考えは、アルバート・ホフマンの次のような一言でまとめることができる。たくさんのセレンディピティによって、強心剤をつくろうとしていたときにLSDを発見した人物だ。「LSDは偶然に生まれたのではなく、ひとりの化学者によって研究室で行われた科学的方法を用いた実験の成果でした」。



一見間違いのように見えて、探していたものとは異なるために、最初は人が注意を払わなかったようなデータを取り出して、それに意味を与えるのは、科学的方法なのだ。




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