【兵庫県知事】大河ドラマに一般視聴者レベルの苦言を呈して何になる?

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NHKの大河ドラマ「平清盛」が1月8日に始まった。数日後に、一般視聴者によるクレームのごとき発言を兵庫県の井戸敏三知事がしたことは、読者の記憶に新しいと思われる。まず、知事の発言を確認しておこう。

1月11日付の産経新聞によると、知事は定例会見で「『平清盛』の初回平均視聴率が関西地区で18.8%と低調だったことについて、『画面(映像)が汚く、兵庫の観光も影響を受ける」と言った。さらに、「薄汚れた画面を流さなくてもいい。もっと華やかで生き生きとした清盛らしさを強調してほしい」とした上で、「NHKに対しドラマ映像・演出の再考を申し入れる」と述べた。

これに対し、NHKの広報は「テレビの映像が進化し、貴族と武士の対比をリアリティーをもって追求した表現。1話だけみると、画面が汚いと指摘されるかもしれないが、これから平家が貴族化するなかで、きらびやかな場面も出てくるので期待してほしい」とコメントを出した。そして、1月18日付の共同通信は、NHK放送総局長による「話題になることは良いことだ」とのコメントを紹介し、「画面の明るさなど演出を変更する予定はないことを明らかにした」ことを報じている。

そもそも、NHKに対する知事の発言が一般視聴者のクレームのごときものである。本来ならば、茶の間でテレビを見ているおじちゃんやおばちゃんと同様に、同局の「みなさまの声にお応えします」というクレーム処理を担当する部署に、電話やメール、ファックスなどで送っておけばいい程度の稚拙な内容だ。

また、産経新聞の記事は、「兵庫県では平清盛が築いた福原京が現在の神戸市兵庫区にあったことなどから、大河ドラマに合わせて同県や神戸市が観光キャンペーンを展開しており、ドラマの人気で兵庫の観光活性化に弾みがつくと期待していた」と報じているが、大河ドラマが地域観光の活性化を促進しなければならないという決まりなどない。いちいち取りあげる地域の太鼓を持つような「ちょうちん演出」をしていたら、ドラマの内容が劣化してしまうことであろう。

ただし、知事に対するNHKの対応にも、うなずけない部分がある。共同通信の記事にはチーフプロデューサーの「平安時代をよりリアルに映像体験できるように努めている」という発言が取りあげられているが、「リアリティー」やら「リアル」という言葉を安易に使いすぎているような気がする。

平安時代のリアルなんて、どこの誰にもわからない。あくまでも、残された史料にもとづいて当時を再現し、想像することしかできない。リアルなどと言いだせば、各方面からさらなる突っ込みがはいることは確実である。例えば、第2話で平清盛が元服するという話になったが、元服というのは「11〜16歳の間に行われ」るものである(『大辞泉』)にもかかわらず、役を演じる松山ケンイチは26歳。毎度ながら、大河ドラマでは役の上での年齢と出演者の実年齢とがズレまくっている。

大河ドラマはドキュメンタリーではないのだから、リアルかどうかなどはどうでもよく、内容におもしろみや深みがあればいいと筆者は思う。そして、民放ではありえない豪華なキャスティングを活かし、ドラマをきっかけにして日本の平安時代に関心を持つ人が増えることに期待する。そんなことを言いながら、やはり役の上での年齢と演じる出演者の実年齢の差が気になって仕方がないのだが(笑)。

(谷川 茂)