開湯1200年以上の肘折温泉 朝市の伝統を守り続ける人たちの思い シリーズ「時を越えて」 山形・大蔵村
シリーズ「時を越えて」です。開湯から1200年以上の歴史を持つ大蔵村の肘折温泉では毎朝、朝市が開かれています。110年目の伝統を守り続ける人たちの思いに迫ります。
7月14日、肘折温泉で温泉が掘り出されたとされる日に合わせて、開湯祭が行われました。2体の地蔵神輿めがけて沿道から温泉がかけられます。
沿道の参加者「最高。人にお湯をかけるのははじめてだから。自分もびしょびしょ」
「もち米を茹でたの。きなこをつけて食べるんです。ご飯自体に味はついてないんだ。 ご飯自体に味はついてないの」
千葉県から「実はどのくらいの規模でやってるか予想もできていなかったので、でも人がたくさんいて地のものが多くて良かった。お餅とかきのこのおこわとか私たちはそういうのに興味があるので」
毎朝、温泉客でにぎわう肘折朝市。伝統を守り続ける人たちの思いに迫ります。
開湯から1200年以上の歴史を持つ肘折温泉。山間の集落には18軒の温泉宿が軒を連ねます。
肘折温泉は、かつての豊後の国・いまの大分県から来た老人が山中で道に迷っていたところ、老僧と出会い温泉の効能を伝え聞いたことから発見されたと言われています。その後は、地元の住民が農作業の疲れを癒す場所として賑わい、1391年に初めて温泉場として開業しました。
岩手から「3度目くらいです。10年前、20年前と10年ずつぐらいに来ているが変わらずにいいなと思って見ていた」
かつては行商人らが温泉宿に物を売り歩いていましたが、1917年からは現在の形での朝市が始まり、2026年で110年目を迎えます。
店頭には山菜や畑で採れた野菜などが並びます。しかし近年は、震災や県道の崩落といった度重なる災害に見舞われるなど客足は減少。
それに追い打ちをかけたのが新型コロナウイルスの蔓延です。
新型コロナの影響を受け周辺の旅館は営業を自粛。県境をまたぐ移動も制限され、客足は例年の10分の1にまで落ち込みました。
肘折朝市組合・柿崎優子さん(2020年)「こういう状況で人は少ないが、早く皆さんから来てもらいたい」
コロナ禍の影響はいまも続いていると言います。
肘折朝市組合・五十嵐恵美子さん「コロナ渦までが境でいろんな生活が変わってきた。団体で来られるお年寄りが来なくなった。若い人がこれまでは来なかったけどいまは若い人がどんどん来てくれる(コロナ前に戻りましたか?)戻らない。あの時代はもう終わり」
客足は回復しつつありますが、ピーク時には21万人余りだった観光客は現在、5万6000人ほどです。
肘折朝市組合柿崎優子さん(72)「若い人が多くなってきた。前は年配の人が来てたけど皆体の具合が悪いとかで来られなくなった人が多い。売れる量も減ってるし野菜も肥料が高くてコストがかかってる。それに野菜もあまり売れないし新鮮なのにね」
朝市に出店しておよそ45年の五十嵐恵美子さん(77)。朝市の準備は前日から始まります。
肘折朝市組合・五十嵐恵美子さん「葉ものとか野菜は(前日の)夕方に涼しくなってから取って、次の日の朝に持ってくる。次の日の朝は起きて車に積んで持ってくるだけ。畑のものは取っていられない」
この時期には並ぶのは乾燥させたニンニクや唐辛子を麹などと混ぜて作るなんばみそ、全て自家製です。
五十嵐さん「(ニンニクは)6月の末から掘り始める。天気を見ながら。雨が降るとどんどん悪くなってくるから」
そんな五十嵐さん、突然売り場を離れました。
五十嵐さん(今からどちらに?)「いまから旅館に配達」
注文を受け旅館に向かいます。
五十嵐さん(よく旅館に配達するんですか?)「たまにときどき」(きょうは何を?)「ツルムラサキ。ツルムラサキの初取り」
旬がきた野菜は宿まで届けているといいます。
五十嵐さん「ずっと花買ってもらったり野菜買ってもらったりありがたい。だから少し早く出たものはまずお届けしたいなと思ってききにいく。こういうの出たからいらないかって」
一方、こちらは40年以上出店している長南喜美子さん(75)です。商品の目玉は大蔵村の保存食・じゃばら大根です。
長南さんがじゃばら大根を作り始めたのは32年前。旅館の食事に出されるじゃばらキュウリからヒントを得ました。
長南喜美子さん「完全に堅くなって折れるような感じの乾燥になれば(出荷できる)」
じゃばら大根は、冬場の大切な仕事だと言います。
長南さん「冬仕事がないから冬仕事で朝市のために準備している。(じゃばら大根を)作り続けていきます」
長年出店を続ける人がいる一方、店舗数は減少しています。かつては、30店舗ほどが軒を連ねた肘折朝市は今、13店舗に減少しました。
五十嵐恵美子さん「売り手も歳とともに辞めるのできのうまで勤めていてあしたから商いすることは難しい。畑のこともできないし山にも行けないしだから衰退していくんじゃないかと心配してる。朝、皆買物に来ることでだいぶ活性化になっているから、(朝市を)続けられるなら続けてもらいたいけど朝市もなくなるんじゃないかと心配してる」
肘折朝市組合・八鍬和彦組合長「いま来ている朝市の人たちは20年から30年毎日のように来ている人たちです。その世代世代の家で畑や山菜といったものを次の時代の人たちに引き継ぐことが一番大事。後継者がどれだけ肘折を中心にやっていけるかがこれからの課題」
100年を越える歴史の中で形を変えつつある肘折朝市。温泉街には、きょうも客を呼び込む元気な声が響きます。

