(左から)佐野勇斗、小池栄子、松村北斗

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低視聴率でも出色

 夏ドラマはTBS「日曜劇場 VIVANT シーズン2」(日曜午後9時、26日スタート)だけじゃない。ほかにも面白そうな作品がいくつもある。その中から特に気になる3作品を取り上げる。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】

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【写真】グラビアアイドル時代、まだあどけなさの残る「小池栄子」

 フジテレビ「さよならノワール」(火曜午後9時)は出色の作品だ。刑事ドラマの一種だが、既存作品とは全く異なる。観る側を事件の推理の妙味に浸らせながら、犯罪被害者が立ち直る過程を細やかに描いている。

 おそらく最後に再生するのは、犯罪被害者支援室に所属する主人公・黒木夏海(小池栄子)自身だろう。娘を失い、上司が失踪したことで、心に深い傷を抱えている。なぜ娘を失ったのかは、まだ不明だ。

(左から)佐野勇斗、小池栄子、松村北斗

 夏海は警視庁西池袋署の暴力団対策係の班長だったが、犯罪被害者支援室に異動させられた。それでも腐ることなく、犯罪被害者に寄り添い続けている。

 異動の理由は、上司だった山崎創(渡部篤郎)の失踪と関係があるらしい。失踪の背後には暴力団の影がちらつく。物語の主軸に据えられているのは犯罪被害者の精神的サポートだが、山崎が消えた謎を解明するというテーマが常に根底に横たわっている。

 第1回で夏海は「ラーメン屋店主放火殺人事件」を担当し、被害者の妻(北乃きい)を支援する。妻は店主の浮気を疑っていたため、ショックと怒りで錯乱する。捜査陣に疑われると、「自分がやった」と言い出す。しかし夏海は店主が結婚指輪を贈ろうとしていた事実を突き止め、妻を落ち着かせた。

 被害者を救うのは慰めの言葉ではなく、真実を伝えることだ。結局、犯人は妻が浮気相手と疑っていたキッチンカーの女性経営者だった。店主は善意から経営者の相談に乗っていたが、裏切られた。

 夏海が第2回で支援したのは、不動産投資詐欺の被害に遭った女性(今泉佑唯)。必死に貯めた2800万円を奪われた。金銭的被害より深刻だったのは、女性が詐欺師を愛していたこと。夏海は、女性が急に殊勝になったことから、自死を図ろうとしていることに気づき、体を張って止める。

 夏海は際立って強い。犯罪被害者から事情を聞こうとする捜査員をはね除け、暴力団の脅威にも怯まない。一方で、被害者の痛みを分かち合おうとする心優しさも持つ。

 夏海に扮する小池のキャラクターは包容力と温かみを感じさせるから、まさに適役だ。当て書き(誰が演じるかを意識して脚本を書くこと)なのではないか。

 夏海とコンビを組んでいるのは、大学から派遣された心理学者・白石絵梨子(北香那)。学問としての心理学には通じているが、人間をよく知らないため、夏海としばしば衝突する。見応えのあるバディものとしての側面も兼ね備えている。

 脚本を手がけるのは井上由美子氏(65)。天海祐希(58)が事情聴取のエキスパートに扮したテレビ朝日「緊急取調室シリーズ」(2014〜25年)などを書いてきた。専門職の女性を描くことを得意とする。構成もいつもながら巧み。事件の真相を最後の局面まで読ませない。それでいてアクロバティックな展開にしない。

 数々の名作を撮ってきたベテラン・河毛俊作氏(73)による演出も冴える。感傷に流れない。被害者の涙で観る側の情緒をいたずらに煽ることをしない。それがリアリティを生んでいる。映像は全体的にノワール・トーン(暗鬱で物悲しい)で統一されている。

 個人視聴率は苦戦している。連続ドラマの合格ラインとされる2%に届いていない。第1回が1.8%、第2回が1.5%。同じ枠で6月まで放送されていた「夫婦別姓刑事」のトラブルも影響しているだろう。枠のイメージが落ちたうえ、トラブルの余波で十分な番組宣伝もできていなかったように見えた。

M!LKの佐野に注目

 打って変わって次はラブコメ。TBS「火曜ドラマ 君の好きは無敵」(火曜午後10時)である。時代性がよく表れている作品だ。主人公は草壁杏奈(松本若菜)。明るく行動力がある。花形の大手コンサルティング会社に勤務していたが、突如としてFIRE(早期リタイア)した。退職後の当ては何もなかった。

 杏奈に限らず、近年は大手企業に勤務することに価値を感じない人が増えた。定年まで会社に縛られるのを嫌がり、資産を蓄えてFIREする人も珍しくなくなった。もっとも、杏奈は貯蓄が十分だったわけではないので、日銭を稼ぐためにスキマバイトに精を出し始める。

 バイト先で出会ったのが、相手役の瀬尾深月(佐野勇斗)である。売れないキャラクターデザイナーだ。ぬいぐるみやグッズに使われるキャラクターを考える仕事だ。「かわいい」を極めたキャラクターの造型を目指している。

 瀬尾には実力があるものの、自己PR力がゼロなので、埋もれている。それをコンサルだった杏奈が世に送り出そうとする。女性が男性を応援する物語はよくあるが、元プロのコンサルがバックアップするという設定は新しい。

 瀬尾はかつて業界最大手のキャラクター会社・MERRYに勤務していた。だが、自分がデザインした「まんぷくもる子」を会社が勝手に「シニカルモルコ」に改変したことに憤り、退職した。不器用で一本気な男なのだ。杏奈が瀬尾をどう変えていくのかが見ものである。

 瀬尾を演じる佐野は、人気沸騰中のボーカル&ダンスグループ「M!LK」の一員。これも時代性を表す作品とする理由である。佐野は5本の主演作を含めて、過去に20本以上のドラマ出演歴があるが、人気作の多い「火曜ドラマ」枠への出演は初めてとなる。

 佐野は並外れた美形であるものの、最近のドラマではそれを前面に出すことが少なかった。パソコンオタク役を演じたTBS「トリリオンゲーム」(2023年)ではおかっぱ頭に黒眼鏡。エリート国税庁調査官役だったテレ朝「おコメの女−国税局資料調査課・雑国室−」(26年)も眼鏡姿。誘拐犯に扮した日本テレビの主演作「ESCAPE それは誘拐のはずだった」(25年)ではヤンキー風だった。瀬尾役では美形を隠さない。観る側には新鮮に映るに違いない。

 佐野本人にとっては俳優として1段上に上るチャンス。演技に不自然さや嫌味がないと評判高いが、ラブコメでもそれができると広く見せつけられたら、支持層が拡大するはずだ。

 顔芸の第一人者である松本の新技も見どころ。第1回ではホラー映画「シャイニング」(1980年)でのジャック・ニコルソンを真似てみせた。ドアの隙間から狂気に満ちた顔をのぞかせるあの場面である。この作品での顔芸はこれで終わりではないだろう。

 松本の顔芸はフジ「やんごとなき一族」(2022年)から始まった。その後、主演女優の仲間入りを果たしたものの、顔芸を封印しなかったのは立派である。

究極の純愛劇?

 最後に取り上げるのは日本テレビ「告白−25年目の秘密−」(土曜午後9時)。放送前の印象は正直あまり良くなかった。主人公・雪村爽太(SixTONESの松村北斗)が、初恋の人である野瀬麻里子(岡崎紗絵)を25年も一方的に想い続け、見守る物語と聞いていたからだ。「ヤバイ男の物語か」と思った。

 しかし、実際に始まってみると様相が異なった。爽太の愛情は純粋ゆえに、観ていて不快な気分にならない。爽太は小学生の時、麻里子が誘拐されそうになる事件を目の当たりにしたことから、「一生、彼女を守る」と決意した。

 爽太は麻里子を追って同じ学校、同じ会社へ進み、彼女が危険な目に遭わぬよう影のように寄り添い続けた。ここまで徹底すると、ある種、見上げたものである。

 就職先も同じ「野瀬化粧品」。ただし、麻里子は社長の野瀬銀次郎(石黒賢)の娘ということもあり、役員で第2ブランド事業部部長の地位にある。対する爽太はヒラの総務部員。それでも爽太の見守りは続いた。

 麻里子は新規事業を立ち上げるチャンスを掴むが、彼女の追い落としを図るライバル役員・立岩剛志(丸山智己)に妨害されてしまう。ここで爽太の出番となる。

 爽太は立岩に土下座して麻里子への協力を頼んだ。立岩は拒絶し、爽太を蹴り飛ばすが、それでも爽太は土下座を続ける。爽太は、立岩を屈服させる材料を握っていた。立岩の経費流用の証拠だ。

 その直後に立岩が殺されてしまうため、物語は一気にミステリーに傾く。麻里子を守るために爽太が手を下したのだろうか。

 全体的に韓流ドラマの色を強く漂わせている。愛する人との幼少期からのつながり、社内での立場の違い、野瀬家の確執。ドロドロとした展開が続く。計算ずくに違いない。

 このドラマを一番に支えているのは松村にほかならない。爽太は一歩間違えればただの危ない男だが、松村が理知的でシャイな部分を演技で強調するため、視聴者とかけ離れた存在に思わせない。

 松村の巧みな演技によって、爽太が麻里子にとっての「救世主」なのか「悪魔」なのか、最後まで目が離せないだろう。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社。放送担当記者・専門委員として、1994年のNHK連続テレビ小説「春よ、来い」のヒロイン途中交代や、1999年のフジテレビ「愛する二人別れる二人」のやらせ問題などを特報する。2015年に毎日新聞出版へ入社し、サンデー毎日編集次長を務める。編集者としては「小池百合子都知事の真実」などを担当した。2019年に独立。元・放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部