鈴木農水相

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 農林水産省は毎年「水田における作付意向」の調査を行っている。全国でどれくらい田植えが行われるのか、その面積を聞き取るというものだ。5月20日に結果が発表され、22日に鈴木憲和・農水相が定例会見に臨むと記者から質問が飛んだ。要約すれば「順調にコメが生育すると生産量は733万トンに達する見通しであり、これは需要予測を上回る供給量だ。コメの民間在庫も積み上がっており、供給過剰になる可能性がある」と記者は説明し、鈴木農水相の受け止めを訊いた。(全3回の第1回)

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 需要の予測は711万トン。もし実際に733万トンが収穫された場合、差し引き22万トンの余剰となる。さらに「コメの民間在庫の積み上がり」も大きな余剰分であることは言うまでもない。ではここで、なぜコメの在庫が積み上がってしまったのかを改めて確認しておこう。

鈴木農水相

 令和の米騒動は2024年8月、日向灘地震が発生したことで始まった。政府が南海トラフ地震に注意するよう呼びかけると、一部の消費者がコメの買い溜めに動いたのだ。

 タイミングの悪いことに8月は前年産のコメと今年の新米が入れ替わる“端境期”。スーパーなど小売店に在庫が少なく、あっという間に棚からコメが消えた。

 小売店にコメがないことに気づいた消費者は不安を感じ、さらに買い占めに走るという悪循環が発生した。また外国人観光客が増加し、和食の国内需要が急速に伸びたことも大きな影響を与えた。担当記者が言う。

「コメの販売価格は高騰が続き、止まらなくなります。都内のスーパーではブランド米が5キロ5000円台で売られるという異常事態に陥りました。そして昨秋に新米の争奪戦が繰り広げられたのです。JAや集荷業者、大手商社などが高値で買い集めましたが、これで消費者の意識も変わってしまいました」

コメ農家へ“死刑宣告”

 あまりに高いコメに困惑した消費者は、台湾、韓国、アメリカ・カリフォルニアといった外国産米を購入したり、主食をパンや麺類に切り替えたりすることで家計を“防衛”せざるを得なかった。

 結果、卸業者の倉庫には今も売れないコメが積み上がっている。業界では「このままではコメの暴落が起きる」と危機感を募らせている。

 冒頭の会見で鈴木農水相は主食用のコメが供給過剰になる可能性は認めた。だが、それ以上の言及は避けた。

「記者は価格に与える影響も質問しました。すると鈴木農水相は『いつも申し上げておりますが』と前置きした上で、『需給バランスなど、民間の取引環境の中で決まっていくものであるため、今後の価格の見通しについて、予断をもってお答えすることは困難であります』と回答したのです。ただし、その後に『コメの需要を上回る在庫量となれば、当然ながら価格は下がる』と、コメ販売価格が下落することはあり得ると認めました。確かに都内のスーパーでも、特売品が圧倒的に多いとはいえ、5キロ3000円を割る、2000円代後半のコメが店頭に並び始めています。しかもブレンド米ではなく単一原料米です」(同・担当記者)

 コメの販売価格が下落することは、消費者にとっては間違いなく朗報だ。しかしコメ農家にとっては“死刑宣告”に等しいという。

5キロ3500円が適正価格?

 コメの暴落が起きてしまうと、今年の新米も安く買い叩かれる可能性が高いからだ。

「米穀安定供給確保支援機構という公益社団法人があります。食糧法に基づく指定法人であり、コメの安定供給を実現するため様々な取り組みを行っています。農水省と関係が深いことは言うまでもありません。この米穀機構が3月、コメの生産コストを発表しました。3月時点でのデータを基に算出すると、『60キロで3万355円』となり、これが流通すると5キロで3500円前後の小売価格になる見通しだそうです」(同・担当記者)

 秋田県は日本有数の米どころとして知られている。地元紙の秋田魁新報は「コメ政策 秋田から問う」を連載しており、1月9日の朝刊に「第1部・令和の米騒動」の5回目として「米価、なぜ高止まり 背景に熾烈な集荷争い」を掲載した。

 記事によると、JA全農あきたは昨年7月、あきたこまちの新米を買い取る「概算金」を2万4000円前後と想定していたという。この価格ならコメ農家は営農を続けることが可能であり、店頭価格は5キロ3200円から3400円になる見通しだった。

 ところが“令和の米騒動”でコメの争奪戦は過熱する一方だった。集荷業者や外食産業が高値を提示したため、JA全農あきたが実際に支払った概算金は3万円と過去最高額を記録した。

このままならコメ農家は“倒産”

 こうした動きが都内のスーパーであきたこまちが5キロ5000円台で売られた理由の一つであることは間違いない。ただし、算定の時期が違うとはいえJA全農あきたが支払った過去最高額の概算金3万円でさえ、米穀機構が算出した適正コストの3万355円よりは、ほんのわずかではあるが安い。

 さらに秋田魁新報が昨年12月に掲載した「JA、コメ集荷3割届かず 25年産、目標未達見通し」の記事によると一昨年、2024年の概算金は新潟県産のコシヒカリで1万7000円、北海道産のななつぼしで1万6500円だった。

 コメどころで無農薬栽培に取り組んでいる54歳の男性は「もはや零細農家はジリ貧状態です。もし米価の下落が原因で新米の買取価格も下落することになれば、一気に大量のコメ農家が離農するのは間違いありません」と悲鳴を上げる。

「あくまでも全国平均の話ですが、現時点でコメ農家がギリギリ営農を続けられる販売価格は5キロ3000円だと考えています。2000円台に割り込んでしまうと採算が取れず、文字通りコメ農家は“倒産”します。ただし、これほどまでにコメ農家が追い詰められているのは、日本の経済力が低下しているのも大きいのではないでしょうか」

購買力を失った日本人

 例えば日本経済がデフレ化したのは1990年代半ばと言われている。では80年代後半から90年代初頭のコメ価格を調べてみると、コメは5キロ3500円から4000円で売られていたことが分かる。

 コメ農家の男性は「つまり、それだけの購買力を各家庭が持っていたとも言えます」と指摘する。

 消費者にとって嬉しい販売価格と、コメ栽培を持続可能なものにする買取価格を両立させる方法はないのか……。

 第2回【「安い新米が消費者を喜ばせることは賛成です。ただ…」 “コメ大暴落”を前に農家の男性が鈴木農水相に訴えたいこと 「5キロ2000円台を前提にコメを買い取られたら“倒産”するしかありません」】では、「コメ価格はマーケットに任せる」を繰り返すばかりの鈴木農水相に対し、コメ農家が“直訴”したいという秘策について詳しくお伝えする──。

デイリー新潮編集部