【日銀会合目前!】なぜ植田総裁は「利上げ」にこだわるのか…!8月大暴落の「最大原因」と「3つの教訓」

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金融政策に「スケジュール」はない

今週の9月19日、20日と、日本銀行の政策決定会合が行われるが、そこで認識していただきたいのは、なぜ8月初に大幅な株価下落が起こったかだ。

前編記事『植田総裁がまねいた「8月大暴落」の最大の原因を解説――あのとき「決定的に間違っていたこと」、再暴落を防ぐために「教訓とすべきこと」』で、解説してきたが、下落の明確な要因がひとつある。

それは、植田和男日銀総裁が7月31日、金融政策決定会合後の記者会見で、今後も経済・物価情勢が見通し通りに推移していけば追加利上げしていく方針を示し、政策金利について2006年からの前回の利上げ局面のピークである0.5%が「壁」になるとは「認識していない」という発言である(東京31日ロイター)。

曖昧な言い方はしているが、ほとんど決められたスケジュールに則って、金利を引き上げていくと解釈されてしまったと考えられるのだ。

2017年5月12日、一橋大学主催のシンポジウムで元JPモルガンチェイス会長ジェイコブ・フレンケル氏(シカゴ大学教授、イスラエル中央銀行総裁などを歴任)は、金融政策運営について、あらかじめ金融政策の経路をカレンダーで決めてはならず、経済金融情勢のデータに基づかなければならない、データにおいて、失業率はあてにならないので物価が大事と述べた。

しかし、実体経済では、金利を継続的に上げていく状況にあるとは思えない。2024年1-3月期と4∸6月期の実質GDPの対前期増加率はマイナス0.6%と0.7%、消費はマイナス0.6%と0.9%である。特に、消費は2023年4−6月期からマイナス成長が続いていた。

日本は成長していないのだ。

では、なぜ、植田氏は、利上げを急ぐような発言をしたのだろうか。

なぜ、植田総裁は「金利の引き上げ」を急ぐのか

植田氏は、かつて「長期金利を0%に固定していることで、金融機関経営が厳しくなり、金融仲介機能を壊して経済を悪化させる」と述べたことがある(第3回カナダ銀行・日本銀行共催ワークショップ、2016年9月30日のレセプション)。

日本の銀行は、低金利は銀行の利益を圧縮し、銀行経営を不安定にすると度々発言し、それを日銀に対しても主張してきた。

銀行は短期で資金を調達して長期で貸し出し、長期と短期の金利差で利益を得るものだから、長期金利が低くなれば儲からない(私は、日本の銀行が儲からないのは、銀行が多すぎ、かつ、日本の事業会社が貯蓄超過で借りる必要がないからだと思うが、これについては別の機会に論じたい)。

しかし、金利を上げると銀行の利益が拡大するというのが正しいなら、金利の引上げで銀行株は上昇するはずだ。少なくとも他の業種の株価よりも下落しないはずだが、今回、日経平均およびTOPIX(東証株価指数)が20%下落した時、銀行株は30%近く下落した。

その後の戻りも遅く、全体がほぼ戻った9月初でも10%下落したままである。

金利を上げても上昇しない「銀行株」

これは、金利を上げても銀行の利益が拡大するとは限らないことが市場に浸透したからだと思う。

なぜなら、金利を上げて不況になれば借りる人もいなくなって長期金利は低下してしまうからだ。実際に、早すぎる金融引締めで長期金利が低下したことは多々ある。

例えば、2000年8月11日のゼロ金利解除、つまりゼロ%から0.25%への引き上げ後、短期金利の上昇に対して長期金利は一時的には上昇したもののすぐ低下してしまい、長短金利差は縮小した。

2006年8月11日のゼロ金利解除、つづく2007年2月21日の利上げ後には、むしろ長期金利は低下し、長短金利差は一段と縮小した(より詳細な説明は、原田泰「石川県金融経済懇談会における挨拶要旨」2018年7月4日)。

そもそも、今回も長期金利は低下している。

銀行株大幅下落のもう一つの要因として、銀行が単に貸出だけで儲ける存在ではなくなっていることもある。

例えば、銀行グループは株式投信も販売している。株価が下がれば投信は売れなくなる。もちろん、大きく下がった日本株ではなく、小さくしか下がらなかった外国株を売れば良いかもしれないが、下がったことには違いないのだから、そうは売れないだろう。

さすがに、金利上げ推しの日本経済新聞も、短期金利を上げれば銀行が儲かるという説に自信が持てなくなっている(「銀行株息切れが映す「迷い」 利上げ恩恵 確信持てず」日本経済新聞2024年9月16日)。

株価暴落の「3つの教訓」

そもそもブラックマンデーでは、その後深刻な不況にもならず、1年2か月後には元のピークを回復した。株価下落が必ず不況をもたらす訳でもない。こう考えると、8月の下落も不況をもたらさずにすむかもしれない。実際、9月初には、7月末のレベルに戻ったのだから。

今回の株価暴落の日本の金融政策への教訓は、次の3つだ。

(1)金融政策はデータベースで行うべきでカレンダーベースで行うべきではないこと

(2)拙速な金利引上げはむしろ金利を引き下げてしまうこと

(3)銀行は早期の金利引上げを求めてきたが、それは銀行の利益を縮小させる可能性があるということ

この3つのことを熟慮した金融政策運営を望みたい。

さらに連載記事『故・安倍晋三首相の決断は正しかった…たった1年でなんと45兆円!日本の「年金運用」が国民に与えた利益の「巨額すぎる中身」』では、日本の株高が与えた恩恵について考えていこう。

故・安倍晋三首相の決断は正しかった…たった1年でなんと45兆円!日本の「年金運用」が国民に与えた利益の「巨額すぎる中身」