久保助手とビザンチンドリーム

写真拡大

 「神戸新聞杯・G2」(22日、中京)

 最後の1冠・菊花賞へ向けたトライアル神戸新聞杯が今週末行われる。春の実績馬に、この夏力をつけてきた上がり馬など多士済々の顔ぶれだ。

 そのなかでも紹介したいのは、記者が個人的にダービーで本命にしていたビザンチンドリーム。と言っても、馬の方ではなく今回は人の方だ。担当するのは今年でトレセン歴21年目となる久保潤一郎助手(43)。祖父は厩務員、父は障害騎手で引退後は浜田(光正)厩舎でビワハヤヒデの調教パートナーを務めていた史郎さん。栗東の競馬一家で生まれ育った久保助手は「父の背中を見て自然と」競馬の道を志し、高校卒業後に牧場勤務などを経て栗東トレセンに入った。

 最初に所属したのは山内(研二)厩舎。「職人気質で見た目もいかつい人が多くて…。でもみんな仕事ができましたね」と当時を懐かしそうに振り返る。そんな新人時代に任されたのがコンゴウリキシオーだった。「体幹がしっかりしていてスピードとパワーが他より抜けていました」という素質馬は未勝利戦−くすのき賞を連勝し、初の重賞挑戦となったきさらぎ賞を見事にV。「新人に任せてもらえるような馬じゃなかったですから。責任もあったので、なおさらうれしかった」。2年目で担当馬が重賞初制覇を飾った。

 それから19年の月日が流れた。「何頭かチャンスのある馬もいたのですが、重賞を勝つのは簡単じゃないなと」。そんな折に久々のタイトルをもたらしてくれたのが、ビザンチンドリームだった。「本当にうれしかったですね。だって19年ぶりですよ。しかもなぜか同じきさらぎ賞。不思議な感じもしますね」と、とびきりの笑顔を見せる。

 ホースマンにとっては最高の栄誉と言えるダービーの舞台に、久保助手は2度立った。コンゴウリキシオーのダービーでは同世代に無敗の3冠馬ディープインパクトがいた。「最初は色気を持っていたんですけど、ディープの皐月賞の勝ち方を見て無理だと。ダービーでは後ろにつけていたんですが、池添騎手が『ディープが飛んでいった』と話していましたし、強さが違いましたね」と苦笑い。「それでも…」と続ける。「リキシオーは立派でした。僕が担当したのは3歳夏まででしたけど、その後もダートでも芝でも毎年のように重賞も勝ちましたから。あの馬にはいろいろなことを勉強させてもらいました」と感謝を口にする。

 そして2度目のダービーとなった今年。ビザンチンドリームは、持ち味の爆発的な瞬発力が鳴りを潜め、結果は17着に終わった。ただ久保助手は既に前を向いている。「(西村)淳也騎手も距離が長い方がいいと。無駄な筋肉がないから僕もそう思います。菊花賞に行けたら面白いですよね」。ひと夏を越した愛馬には「ピーピー鳴くようなさみしがりやなんですけど、少し大人になりましたね。リキシオーと同じく、もともと体幹がしっかりとしていたんですが、こっちは独特のバネがあります。楽しみですよ」と期待を込める。

 最後になったが、久保助手のモットーは「一頭一頭が力を発揮できるように尽くすこと」。週末に迫った神戸新聞杯。この秋の夢が広がる姿を必ず見せてくれるはずだ。(デイシースポーツ・島田敬将)