彬子女王殿下(左)と酒井順子さん(右)

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彬子女王殿下が『徹子の部屋』に出演。ご著書『赤と青のガウン』の大ヒットを語る。『婦人公論』2022年8月号の酒井順子さんとの対談を再配信します。********浮世絵や歌舞伎など、美術や伝統芸能だけが「日本文化」ではありません。皇族というお立場にあり、さまざまな文化に触れてこられた研究者の彬子女王殿下に、その真髄を酒井順子さんが伺います。(構成=山田真理 撮影=三浦憲治)

【写真】日本文化のすばらしさを笑顔で語る彬子女王殿下

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高尚な趣味ではなく、生活の中に息づくもの

酒井 お目にかかれて光栄です。

彬子女王殿下(以下敬称略) こちらこそ。『婦人公論』は、三笠宮妃殿下(百合子さま)がお読みになっていたと、父(故・寛仁親王殿下)がおっしゃっていました。

酒井 彬子さまは日本美術の研究者でいらっしゃいますが、私たちは日本に暮らしていても、自国の文化について、つい忘れがちです。

彬子女王 日本文化というと、「歌舞伎には着物で行かなくてはいけない」など、高尚な趣味のものと思っていらっしゃる方は多いのではないでしょうか。ですが、歌舞伎にしても浮世絵にしても、また焼き物、漆器、着物、茶道など、日本文化と呼ばれるものは、そもそも日常の中で楽しまれてきたもの。文化は生活の中に息づいてこそと、わたくしは思っております。

酒井 彬子さまが、子どもたちに日本の文化を伝える「心游舎(しんゆうしゃ)」の活動を10年前から続けていらっしゃるのは、そうした思いもあるからでしょうか。

彬子女王 はい。日本の未来を担う子どもたちに、日本文化のよさを感じてもらう機会を設けたいと、友人たちと始めました。「ご飯にお味噌汁ってほっとするよね」「床の間にお花が活けてあるって素敵だね」などと思う人が育つことが、文化を残すことに繋がりますから。

酒井 和菓子やお抹茶は、身近な日本文化ですね。ワークショップなど、子どもたちにさまざまな体験の場も作っていらっしゃいます。

彬子女王 落語の会などはたいへん好評でした。実はわたくしも落語をちゃんと拝見するのは初めてだったのですが、お腹を抱えて笑ってしまいました。

酒井 演目は何を。

彬子女王 「時そば」を、立川志の八師匠が江戸版と上方版の二通りで演じてくださって。江戸では落語はお座敷芸なので、来てくれたお客さまのために話す。でも上方では辻話といい、道端で通りかかった人を引き留めて話を聞いてもらう芸なので、動作を大きくしたり、見台と小拍子を使って音を出したりするそうなのです。二つを見比べることはなかなかないことですから、貴重な機会でした。

ほかに好評なのは、立命館小学校の校長だった深谷圭助先生が提唱された、自分が知っている言葉、調べた言葉すべてに付箋を貼っていくという「辞書引き学習」です。

酒井 辞書を読む習慣もつきますし、日本語の豊かさを知ることに繋がりますね。

彬子女王 心游舎で辞書引き学習を行うときは、付箋が100枚貼れたら手を挙げるようにしているのですが、わたくしが誰よりも早く手を挙げるので、「大人げない」といつも言われています。(笑)

自分に引き寄せ歴史や文化を身近に

酒井 『鬼滅の刃』など、昨今のアニメや漫画には、和風回帰の傾向があるようにも感じます。

彬子女王 そうですね。そこから、登場人物が身につけている麻の葉模様に興味を持って、家族や友だちと「魔除けなんだって」というような会話が生まれるといいなと思います。歴史上の話でも、自分のおばあさんのお母さんの時代のことなどと考えると、身近なことに感じられるのではないでしょうか。

酒井 皇族というお立場もあり、小さい頃から日本文化に親しんでいらしたかと存じます。

彬子女王 日本美術も工芸も伝統芸能も年中行事も、日常に溶け込んでいたものでしたので、それが特別なことだとは感じておりませんでした。それならば、わたくしが知っていることをみなさんにお伝えしていけるといいなと思い、執筆や講演などもお引き受けするようにしています。

酒井 女性皇族の方が団体を主宰されることは珍しいケースかと思いますが、ご苦労なさったことはございましたか。

彬子女王 女性だから苦労した、女性だからこうしようと思った、ということはありません。わたくしが男性でも、同じことをしたと思います。ですが、団体を創設するにあたって銀行口座を作ることには苦労しました。

わたくしは名字がないので印鑑が「彬子」ですし、「こんな子どものお使いみたいな資料で口座を作ろうとするなんて」と口座が作れず、2、3軒銀行を回ったことはありましたね。

酒井 そういったことも、ご自身でなさったのですね。

彬子女王 会を始めた当初、ワークショップへの参加者が関西に比べて東京ではなかなか集まらず、不思議に思っておりました。ワークショップのチラシを配りながら理由を尋ねてみると、東京の子どもは塾や習いごとで忙しいのだとか。

京都など関西では、お稽古ごとを休ませてでも文化的なことを経験させたいと思う親御さんが多いという発見もございました。

酒井 京都は特に、日常と文化の距離が近いように感じます。彬子さまは現在、京都の大学で教えていらっしゃいますが、皇室と深いかかわりを持つ京都でのお暮らしはいかがでしょうか。

彬子女王 「姫ちゃん」「姫ちゃま」などと呼んでくださったりする方が多く、ご近所の方から「姫さん、今朝はえらい早いですなあ」とお声がけいただくのが嬉しいですね。以前、友人がわたくしの誕生日ケーキを注文した際に、プレートに「お誕生日おめでとう 姫ちゃま」と書いてもらおうとしたら、「え?」と2回ほど聞き返されたそうですけれど。(笑)

天皇陵が住宅街の中にあるので、「陽成天皇さんのご陵を右に曲がって」というような会話が自然と出てくるのは、ありがたいことだと思っております。

<後編につづく>