●企画者は非リアタイ視聴のスポーツ局員

8月11日に日本テレビの単発枠『サンバリュ』(毎週日曜14:00〜)で放送されたバラエティ番組『クイズタイムリープ』(TVerで配信中)が話題だ。

『クイズ世界はSHOW by ショーバイ!!』『マジカル頭脳パワー!!』『アメリカ横断ウルトラクイズ』という日テレ往年の名クイズ番組に、現代のタレントがCGを駆使して飛び込んで当時の解答者と対決し、AI技術で司会者とのトークも繰り広げるというもので、SNSでは大いに盛り上がり、TBS『水曜日のダウンタウン』演出の藤井健太郎氏もX(Twitter)で「とても良い企画。」とコメントするなど、業界内外で評価を集めている。

最先端技術とノスタルジーを融合させたこの画期的な番組を企画したのは、スポーツ局に所属して『news zero』のスポーツコーナーの企画演出を務める20代の生山太智氏。バラエティ制作のセクションではなく、当時のリアルタイム視聴世代でもない同氏が、なぜこの番組を発案したのか。制作の舞台裏や今後の展望なども含め、話を聞いた――。

シミュレーションで『マジカル頭脳パワー!!』の「あるなしクイズ」に挑む企画・演出の生山太智氏

○スタジオセットは全てCGで画作り

局のアーカイブ映像を活用した番組はこれまで数々放送されており、生山氏自身も、過去のオリンピックやワールドカップなどの名場面を紹介する番組に携わってきた。ただ、どれも「アーカイブ映像をスタジオの出演者が見てリアクションする」というフォーマットであったことから、ここから脱した番組作りを常日頃考えていた中で、「アーカイブ映像の中に飛び込んでみることができないか」と着想。

最初は「ウサイン・ボルトと100mで対決する」といったスポーツものを考えていたが、勝ち目がないため断念。そんな中で日テレのアーカイブ映像を検索しているとクイズ番組に出会い、「これなら同じ土俵で過去の出演者の方々と対決できる」と方向性が決まった。

合成技術については、「当時のクイズ番組のスタジオカメラが4〜5台体制だということに気付き、CGで4〜5つの画角を作れれば全部の画がカバーできる」と直感。これは、スポーツ中継番組を約5年間担当し、自分でスイッチングして画面を切り替えたり、技術スタッフと画角について日々ミーティングする中で養われた感覚が生きた。

タイムリープする解答者はクロマキーの中でクイズに挑むが、解答席も含めスタジオセットは全てCGで画作り。リアルな小道具は、日テレに残されていた『アメリカ横断ウルトラクイズ』の解答用帽子(ウルトラハット)と早押しボタン、『マジカル頭脳パワー!!』で他者の解答が聞こえないようにするためのヘッドホンのみだった。

『マジカル頭脳パワー!!』で正解すると脱出できる“檻(おり)”も、「過去の映像から1フレームずつ抜き取って檻の部分だけの素材を作り、それをはめていく作業をしました」と手間ひまをかけている。

クロマキーのスタジオ

『SHOW by ショーバイ!!』』の逸見政孝さん、『マジカル頭脳パワー!!』の板東英二、『ウルトラクイズ』の福留功男という名司会者たちの声はAIで生成。AI板東に「ヒコロヒーさん、いかがですか?」と呼ばれた本人は「板東に話しかけられた!」と、当時の視聴者気分になって感激していた。

タイムリープ先の解答者の画質は、当時に合わせて落とすことに。「今の撮影機材だと画質が良すぎるので、あえてそのままにして浮かせることでタイムリープ感を出そうかとも悩んだのですが、やはり当時の問題を解いて演者さんと一緒になって対決するので、当時の画質になってもらいました」と判断した。

○スポーツ中継の経験が生きた映像問題の早押しクイズ

映像問題の早押しクイズは、今回の中で苦労したポイントの一つ。出題映像だけの素材が残っていないため、放送された素材を使うことになるが、そうなると『マジカル頭脳パワー!!』の「早押しエラーを探せ!」では、タイムリープ解答者が正解を答えた後に、当時の解答者が同じ正解を言ってしまう可能性がある。この事態を避けるため、当時の解答部分をカットした出題映像のみの素材を作っておき、タイムリープ解答者の解答状況に応じて現場で流す素材を瞬時に変えていくという作業が行われていた。

これも、「例えば、国際大会のスポーツ中継では、世界に発信される国際映像からその場の状況に合わせて即座に自前の映像に切り替えるということをやっているので、今回の収録もそんな“生もの”の感じがありました」と経験が生きている。クロマキーセットの技術スタッフには、スポーツ中継の熟練のチームが参加していたそうだ。

このように、様々な編集が必要になるため、収録から放送まで通常の番組が2週間程度のところ、この番組は7月16日に収録して8月11日に放送と、約1か月の期間を設けてクオリティを上げる作業を実施。スポーツ局所属の生山氏は、『news zero』で放送する、パリオリンピック(7月26日〜8月11日)注目選手の事前企画を手がけながら、『クイズタイムリープ』の演出を行っていた。

●時空を超えた対決の妙が見られる出題

タイムリープするクイズ番組は、日本テレビを代表する番組であることに加え、編集作業を考慮して解答者が座って固定の画になっている前述の3番組に決定。

問題の選定にあたっては、『全国高等学校クイズ選手権(高校生クイズ)』を長年担当し、『クイズ!あなたは小学5年生より賢いの?』を立ち上げた河野雄平氏がプロデューサーとして入ってアドバイス。構成にはデーブ八坂氏、林田晋一氏、そして普段はクイズを作問する矢野了平氏も参加し、「解答者と面白いハレーションの起きるクイズの順番」などを考えていった。

さらに、『SHOW by ショーバイ!!』『マジカル頭脳パワー!!』の企画・総合演出だった五味一男氏(元・日本テレビ上席執行役員、元・日テレアックスオン副社長)と、チーフプロデューサーだった小杉善信氏(元・日本テレビ社長、現・顧問)にも話を聞いて「こんな問題をやったら面白いよ」とヒントをもらったそうで、「歴代のレジェンドの皆さんにお知恵をお借りできたので、本当にありがたいです」と感謝する。

工場見学VTRのパイオニアである『SHOW by ショーバイ!!』の「何を作っているのでしょうか?」では、90年代のゴツい携帯電話など、当時ならではのアイテムが見られる面白さがあるが、「挑戦を見守る現代の出演者の皆さんが懐かしがりながら、当時の時代背景などの補足情報を入れてくれるように編集でも意識しました」とのこと。ただ、「当時にしかないものばかりになると、若い視聴者が離れてしまうかもしれないと思ったので、今でもあるものとのバランスを考えました」との意識も持ったという。

5人が1人ずつクイズ王に挑む『アメリカ横断ウルトラクイズ』の決勝早押しクイズはさすがに難問続きだったが、「日本が初めてオリンピックに参加した第5回ストックホルム大会での参加種目は、陸上競技の100m、200m、400mとあと1つは?」という問題は、スタッフでのシミュレーションで正答率が高かったことから、勝てる期待を持たせることを狙って採用。これは、同大会も描かれたNHK大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』が2019年に放送された後の現代人に有利なクイズで、まさに時空を超えた対決の妙が見られる出題だった。

ちなみに、『SHOW by ショーバイ!!』と言えば、正解した際の得点をルーレットで決める「ミリオンスロット」が名物なだけに、当初はこれも入れる予定だったが、今回は放送を見送った。その理由については、「『ミリオンスロット』は“横取り40萬”など正解してライバルから何点取るかといったストーリー性を持たせるための装置じゃないですか。今回は1問ずつタイムリープするという構成で、得点の結果を見せることなく終わってしまうので、あえなく落としました」と明かすが、「次の機会があれば挑戦したいなと思います」と語っている。

『クイズ世界はSHOW by ショーバイ!!』にタイムリープ

○現代人のキャスティングで意識した「企画自体を楽しんでくれる人」

アーカイブ映像を使用するにあたっては、当時の出演者の許諾が必要になるが、プロデューサー陣が丁寧に作業し、一人もボカシを入れることなく放送。「小杉さんや五味さんも含め、皆さんが快諾してくださったので、当時の出演者やクリエイターの方々に本当に助けられました」と改めて感謝する。

一方、タイムリープしてクイズに挑む現代の出演者は、劇団ひとり、せいや(霜降り明星)、ヒコロヒー、ファーストサマーウイカ、宮近海斗(Travis Japan)の5人。このキャスティングで意識したのは、「“タイムリープして俺が話せるの!?”と、この企画自体を楽しんでくれる人です。収録が複雑だけど、実際の放送がどうなるんだろうとワクワクしてくれそうな皆さんにオファーさせていただきました」と明かす。

せいやは根っからのテレビっ子で知られるが、劇団ひとりについては「今の日本テレビのGP帯唯一のクイズ番組である『クイズ!あなたは小学5年生より賢いの?』のMCをされているので、その看板を背負ってリーダーとして活躍していただこう」という狙いもあった。

●令和のテレビにしかできないことが出せた

今回の制作にあたって、番組の放送が決定した4月から4か月間、1日3本アーカイブ番組を見るというルールを自分に課し、400〜500時間分は視聴したという生山氏。それでも、「いち視聴者になって本当に面白くて見入ってしまいました」と夢中になって楽しんだそうで、「“坂上忍さんやヒロミさんが若いなあ”とか、“安達祐実さんが小さいなあ”とか、自分たちの世代はそんなところも一つ一つ新鮮だったので、そこも勝算にありました」と手応えをつかんだ。

アーカイブ映像を見ている時から、「どの番組も今も楽しめて、『エラーを探せ!』のように子どもが親に勝てるようなクイズもあって、老若男女が楽しめるクオリティがすごい」と感じていたそうだが、「リアルタイムで見ていない世代の宮近さん(26歳)が、結構正解を出していましたし、当時のクイズを今の20代でも楽しめるということが改めて分かりました」と、偉大さを再確認する機会になったそうだ。

今回の番組を通して、「令和のテレビにしかできないことが、一つ出せたのではないかと思います。YouTubeではできない規模感や技術力がありますし、海外の動画配信サービスではこのアーカイブを持っていないわけですから、今のテレビ局にしかないこの切り口を、今後も追求していこうと思います」という生山氏。

SNSを中心に業界内外で大きな話題となっただけに、第2弾の放送にも意欲を示し、「今回は基本的に解答者が座っている固定の画の番組に絞ったのですが、またできるのであれば、規模感を大きくして『ウルトラクイズ』の『マラソンクイズ』とか『突撃○×どろんこクイズ』とかもやってみたいですね。ほかにも『高校生クイズ』で最強の開成高校にいた伊沢拓司さんと、現代のインテリ芸能人が対決するといったパターンもできるのかなと思います」と構想を語る。

また、クイズにとどまらず、「それこそ最初に考えたスポーツもそうですし、『伊東家の食卓』で一緒に裏ワザを試したり、『どっちの料理ショー』で試食したりといったことも、できなくはないと思います。可能性は無限大にあるので、70年分の資産を作ってくれた先輩たちに敬意を払いながら、次も挑戦させてもらえるとうれしいです」と力を込めた。

日本テレビの映像ライブラリーに眠る番組の“神回”を、伊集院光と佐久間宣行氏が見るTVerの番組『神回だけ見せます!』では、8月から局の垣根を越えた「特別編」を配信しているが、各局にはそれぞれ名クイズ番組が存在するだけに、『クイズタイムリープ』も同様に解放されたフォーマットとなって、テレビ全体を盛り上げる仕掛けとなることにも期待したいところだ。

生山太智氏


●生山太智1995年生まれ、東京都出身。明治大学で野球部に所属し、大学日本一に輝く。同大学卒業後、18年に日本テレビ放送網入社。スポーツ局に配属され、『Going! Sports&News』や、プロ野球・箱根駅伝・ラグビーといったスポーツ中継、巨人軍のYouTubeチャンネルも担当。現在は『news zero』のスポーツコーナーを担当する。これまで、『究極のスポーツ大戦! ブーストイ★スタジアム』『スポーツ漫画みてぇな話』『かまいたちのアイツが俺に火をつけた』『燃えろ!番狂わせスタジアム』『らば〜ず散歩』『加藤浩次&中居正広の歴代日本代表256人が選ぶ この日本代表がスゴい!ベスト20』など、スポーツをテーマにしたバラエティ番組も多数制作している。