男性体臭問題が紛糾したが…じつは女性は「ほぼ100%」男性の体臭が嫌いだという「衝撃的な事実」

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残暑が続く中、流れる汗はいまだ止まらず、何かと気になる体臭である。今夏、元フリーアナウンサーの川口ゆりさんが「男性の匂いや体臭が苦手で……」と発言、所属事務所を解雇されるという事件があった。ジェンダーの問題として取り上げられたが、多くの日本の男性は「女性は男性の匂いをほぼ100パーセント嫌い」というデータがある事実を知らない。

じつはメーカーの調査で女性は男性の匂いが嫌いだという結論が出ているのだ。川口さんの炎上騒ぎは、本来はジェンダーうんぬんの社会問題以前の、生物的な話である。

女性は男の匂いが大嫌い

8月8日に川口ゆりさんがSNSに書いたことで、所属事務所をクビになったという発言は以下の通り(川口ゆり公式Xより転載)。

「ご事情があるなら本当にごめんなさいなんだけど、夏場の男性の匂いや不摂生をしている方特有の体臭が苦手すぎる。常に清潔な状態でいたいので1日数回シャワー、汗拭きシート、制汗剤においては一年中使うのだけど、多くの男性がそれぐらいであってほしい…」

この書き込みのどこが差別なのかは置いておく。社会学の詳しい人たちでいろいろ考察してほしい。男は臭いか臭くないかも、また別の話だ。臭気の強度と不快感は必ずしも比例しない。ここで取り上げたいのは、「女性は男の体臭が大嫌い」だという、生物的な理由だ。

今から20年も前、2004年11月17日、洗剤や芳香剤で有名な株式会社ライオンが衝撃的な研究結果を発表した。同社が20〜30代の男女104人を対象に行った「体臭に関する意識調査」で、男性50人のうち、「女性の体臭」を不快に感じたことのある人はわずか15パーセント、85パーセントの男性は女性の体臭に不快感を感じない。

一方で女性54人のうち、「男性の体臭」を不快に感じたことのある人は100パーセント、男性の体臭を不快に感じなかった人は皆無なのだ。

なぜ同社がこのような調査を行ったのかと言えば、「洗濯物を分けて洗う」問題があったからだ。ご存じの通り、ライオンと言えば洗濯洗剤の大手メーカーだ(もちろん歯磨き粉や石鹸も当然ラインナップにある)。夫婦仲が悪く洗濯物を分けるのは仕方ないかもしれないが、そうではなく、何らかの臭気物質のせいで洗濯物を分けざる得ないのなら、それは同社の得意分野だ。いっしょに洗ってもきれいに臭いが落ちる洗剤を開発する必要があるのでは? とまずはアンケートを取ったら、「女性は男性の体臭が100パーセント嫌い」なのだという。取りつくしまもない。

当時の私はリリースを読んで衝撃を受け、同社に話を聞きに行った。私の場合、洗濯物を干していた嫁が、手を止めるとしかめっ面でハンガーにかけた私のTシャツの匂いを嗅いだのだ。ペットショップのような臭いが取れないらしい。

そりゃ詳しく話を聞きたくもなるだろう。

男の体臭の正体はアンドロステノン

ライオンの研究で、男の体臭の正体は判明した。アンドロステノンという(これは2004年当時の話。現在、さらに知見は広がっているので、後述する)。

少年の汗はさわやかだが、中年の汗は淀んでいる。これはたとえ話ではなく、事実だ。10代と40代では汗の組成が違う。10代の汗はただの塩水だが、中年の汗には男性ホルモンの一種、アンドロステロンの量が急増する。

アンドロステロンが皮膚の表面にいる細菌に代謝され、アンドロステノンとなる。このアンドロステノンが男の臭いの原因だ。アンドロステロンは男女共に分泌されるが、分泌量は男性が女性の数十倍である。

アンドロステノンは単独でも臭うが、他の物質から発生する体臭=分解臭を増強する働きもすることがわかっている。分解臭とは、皮膚常在菌が垢や皮脂を分解して作る低級脂肪酸やアミン類の臭いのことだ。低級脂肪酸は酸っぱい臭い、アミン類は尿のような生ぐさい臭いだという。

しかもアンドロステノンを男性が臭いを判別できる濃度の10分の1、まったく臭わない濃度で汗の分解臭に加えたところ、男性は気がつかなかったが、女性は過敏に反応したという。

川口ゆりさんには同情する。この事実がもっと世間に広く知られていれば、あのような炎上騒ぎにはならなかったかもしれない。

アンドロステノンの匂いは嫌われる?

男性特有の体臭、アンドロステノンの匂いを女性は嫌う。

ところがだ。1980年1月の古い論文(※1)に、歯科センターの待ち合わせ室で行われた実験が掲載されていた。待合室の椅子にアンドロステノンを噴霧したイスと何もしなかったイスを用意、訪れた患者のイスの座り方にどのような違いがあるのかを調べたのだ。

対象となったのは540人で、もちろん何も知らずに歯の治療に来た患者ばかりである。記録した受付嬢も、何のための実験を知らされておらず、座席表を機械的にチェックしただけだ。論文によれば、「女性がスプレーされた座席に座る頻度が増加」した一方、「男性はこの場所に座る頻度が減少した」という。

この実験から、男性の匂いを嫌う一方で、無自覚でなら男性の匂い=アンドロステノンを好む女性は多いことになる。

また論文「女性と男性の性交経験によるアンドロステノンの香りの心地よさ」(※2)によれば、若い男女にアンドロステノンの匂いを嗅がせ、アンドロステノンの匂いを判別できた女性のうち、性交経験者は、未経験者よりも匂いを不快に感じなかったという。

性的体験が男性の匂い成分の好悪を変化させる?

次は2017年のマウスを使った実験(※3)だが、メスの嗅覚の反応はオスよりも明らかに速く、強い。メスはオスよりも鼻がいいのだ。そして興味深いことに、マウスの性腺を除去するとメスは嗅覚の反応が鈍くなり、オスは嗅覚が鋭くなり、互いが同じレベルになっていく。

性ホルモンと嗅覚の鋭敏さは密接に結びついているらしい。性ホルモンとは、言い換えれば生殖だ。メスがオスよりも嗅覚が鋭くなければならない理由は、生殖にあるのかもしれない。

※1「Effect of androstenone on choice of location in others' presence」(M.D.Kirk-Smith and D.A.Booth Department of Psychology, University of Birmingham)

※2「Pleasantness of the Odor of Androstenone as a Function of Sexual Intercourse Experience in Women and Men=女性と男性の性交経験によるアンドロステノンの香りの心地よさ」(Archives of Sexual Behavior Volume 41, pages 1403?1408, (2012))

※3「Differences in peripheral sensory input to the olfactory bulb between male and female mice」(Sci Rep. 2017 Apr 26:7:45851)

匂いと免疫の切っても切れない関係

人間には免疫に関係するHLA(ヒト白血球抗原)遺伝子がある。ある病気にかかやすいかどうか、寄生虫に寄生されやすいかどうかなど、免疫に関することはHLA遺伝子でおおよそ決まり、数万種類の組み合わせがあるHLA遺伝子の内容は、体臭に変化をもたらすという。体臭はその人のHLA遺伝子に合わせて変化するのだ。

1995年、男子学生が2日続けて着たシャツの匂いを女学生に嗅いでもらい、匂いの評価とHLA遺伝子(MHC遺伝子ともいう)の関係を調べる実験が行われた(※4)。その結果、シャツの匂いを心地よいと感じた女生徒とシャツを着ていた男子生徒のHLA遺伝子が大きく異なることがわかった。

HLA遺伝子の組み合わせが近ければ、それだけ同じ病気にかかる可能性は高くなる。免疫から見れば、HLA遺伝子が自分と違う相手と子どもを作った方が、病気のリスクを下げることができる。

体臭が妊娠に関わることなら、女性が経口避妊薬を飲んだらどうなるか? なんと女生徒はHLA遺伝子が近い相手のシャツを好ましく感じるという、真逆の結果になったのだ。

女性は免疫の違う相手を選ぶために、体臭を峻別する。HLA遺伝子が近い相手の体臭を嫌い、遠い相手を好む。これは近親相姦を避けるメカニズムだとも考えられる。思春期に入った娘が父親のことを「臭い」と言い出すのは、あれはイメージではなく、本当に臭く感じるようになるのだ。

この研究、世界中で継続的に行われており、2005年にブラジルで行われた研究でも同様の結果が出ており、ほぼ間違いないと考えていい。女性が体臭に敏感である理由は、生まれてくる子どもの健康に関係していたわけだ。

では男性は? 男性も女性を体臭で選ぶのか? 男性に女性の体臭を嗅がせた実験もあるが、HLA遺伝子との関係は見られなかったそうだ。男性は体臭で女性を選ばない。ライオンの調査でも、男性は女性の体臭を不快に思わないのだから、当然と言えば当然。

では男性は女性を何で選ぶかというと、出産可能かどうか、ウェストとヒップの差だと言われている。腰の締まった女性は妊娠可能で、太った腹囲は男性には魅力的に映らない。これもまた単なるルッキズムではなく、生物的な理由である。

男性特有の体臭成分は、その後、いくつも見つかり、たとえば中年の油っぽい匂い(使い古された食用油の匂いに近いそうだ)はジアセチルやペラルゴン酸であり、加齢臭は2-ノネナールである、

体臭成分以外にも、男性は皮脂の分泌が多く、皮脂の酸化や皮膚の表面にいる菌が皮脂を分解して発生する臭気が女性よりもはるかに強い。

いずれにせよ、体臭成分を強く含む汗は耳の裏から首筋にかけて分泌される。体臭を減らすには清潔にすることだが、特に耳裏から首筋を良く洗うことが、男性は必要だ。なお男性の体臭を消す物質として、ライオン株式会社はアンズの種から抽出した物質を発見しているし、ペラルゴン酸には抗酸化力の強いメマツヨイグサ抽出液が効くらしい。

性差別だ何だという前に、まずは清潔に、というのは男女ともにマナーだろうと思うのだが?

※4「MHC-dependent mate preferences in humans」( Biological sciences 1995Jun22 Vol. 260)

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