痛くも痒くもない糖尿病の何が怖いのか。医師「透析は1回5時間を週3回と過酷。しかも4割くらいの患者さんは…」
「とくに病気はないのに体がだる重い」「午後になるとどっと疲れが」「睡眠時間を確保しているのに眠気がひどい」…。原因がよくわからないながら、こうした心身ともに冴えない症状を訴える人が増えていると糖尿病をはじめとする生活習慣病・肥満治療のためのクリニックを東京・銀座で開業する牧田善二先生は言います。一方で多忙な名医ほど「食事」を活用して疲労回復しているそうで――。今回、先生の著書『疲れない体をつくる最高の食事術』から一部引用・再編集してお届けします。
【書影】医学的データと臨床経験から導きだしたミラクルフードとは!『疲れない体をつくる最高の食事術』
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痛くも痒くもない糖尿病
糖質過多の食生活を送っていれば、血糖値が上がり「糖尿病」になりやすいというのは想像がつくでしょう。現在、日本には約1000万人の糖尿病患者がおり、その予備群も含めると2000万人を突破すると言われています。
予備群の段階で適切な手を打てば健康体に戻ることも可能ですが、多くの人が「血糖値が高い」と指摘されても放置します。
それどころか、明らかな糖尿病で「今すぐ治療が必要ですよ」と言われても、病院に行かない人がたくさんいるのです。
というのも、糖尿病自体は痛くも痒くもないからです。
血糖値が300を超えるくらいから喉の渇きなどを感じ、500を超えてしまうと意識障害などを起こして命に関わります。しかし、200くらいまでならなんの自覚症状もありません。
怖いのは、糖尿病自体ではなく合併症
だからといって治療しないでいると、糖尿病は確実に進行し、やがて合併症を起こします。糖尿病が怖いのは、糖尿病自体ではなく合併症です。
主な糖尿病合併症として、網膜症、神経障害、腎症などがあります。
網膜症がひどくなれば失明してしまいます。
神経障害によって痛みを感じなくなれば、壊疽(えそ)や心筋梗塞などが起きていても気づかず悪化させてしまいます。
透析はとても過酷な治療
しかし、それらに増して腎症は深刻です。網膜症や神経障害は予防対策も進んでいて、重症になる患者さんは減っていますが、逆に腎症は重症者が激増しています。
今、日本では透析を必要とする慢性腎臓病の患者さんが30万人を超えていて、そのうち約4割が糖尿病の合併症によるものです。
透析とは、腎臓がまったく働かなくなってしまった患者さんの血液を専門の器機に通すことで、老廃物や毒素を排出する治療です。糖尿病の合併症などで慢性腎臓病が進行すると、透析が不可欠となります。さもなければ、老廃物や毒素が溜まって、即、命に関わるからです。
しかしながら、透析はとても過酷な治療です。1回5時間ほどかかり、その間ずっと腕に針を刺し、横になっていなくてはなりません。以前は1回4時間ほどで終えていたものの、少しでも長く時間をかけたほうが患者さんの体にとっていいことがわかり、今は5時間がスタンダードになっています。
ひとたび発症すれば健康体には戻らない
しかも、そうした治療を1日おきに週に3回受けねばなりません。かつ、この治療は、一度始めたらやめることはできません。
当然、仕事や家事を今までのようにやるのは不可能だし、旅行にもほとんど行けません。それほど大変な思いをしても、透析に入ると4割くらいの患者さんが5年以内に亡くなってしまいます。
こうした事態につながりかねない糖尿病は、みなさんが想像しているよりもずっとやっかいな病気です。
糖尿病をひとたび発症すると、糖質への感受性コントロールがきかなくなります。少し糖質を摂っただけで血糖値が急激に上がってしまい、もう健康な状態には戻りません。
糖質制限をすれば、そのときの血糖値は正常に保たれますが、それは糖尿病が治ったのではありません。糖尿病は一度罹ったら、ずっとつきあっていかなければなりません。
糖尿病には罹らないのが一番
また、前述した3つの合併症だけでなく、糖尿病があるとがんや心筋梗塞、脳卒中、認知症、骨粗鬆症、歯周病などのリスクが上がることがわかっています。
ですから、糖尿病には罹らないのが一番。そのために、自分の血糖値の状態と、そこからくる疲労について無関心でいてはなりません。
血糖値の乱高下が理由の慢性疲労があるのに、その根本原因に気づかずにいたらどうでしょう。「疲れを取るため」と、さらに甘い物を食べたり、エナジードリンクを飲んだりすることでしょう。
その結果、本格的な糖尿病になり、やがてそれをひどくして腎臓をダメにしかねません。
慢性疲労の原因を正しく理解し、対処することが絶対に必要なのです。
※本稿は、『疲れない体をつくる最高の食事術』(小学館)の一部を再編集したものです。