(イラスト:こやまもえ)

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内閣府が発表した「令和4年 高齢者の健康に関する調査結果」によると、65歳以上の男女において、現在の健康状態を「良い」と回答した割合が30.9%、「普通」が41.7%、「良くない」が24.6%だった。男女ともに年代が高くなるほど「良くない」の割合が高くなっていた。将来のために健康に気を遣っている人も多いのでは。神野早織さん(仮名・新潟県・パート・66歳)は、坐骨神経痛を治すためにたどり着いた健康法を機に、身体にいいことを取り入れるように。しかし、どうしても優等生になりきれない”弱点”があるそうで――

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藁にもすがる思いでたどり着いた健康法

災難は突然やってくる。が、よく考えてみると、そうなる原因はたいてい自分にあるものだ。

40代で子育てが一段落した頃、パートを始めた。隣の市にあるカントリークラブの厨房の仕事だ。毎日忙しく立ち働くなか、異変が起きたのは師走を迎えた頃。腰に時折痛みがあり、湿布を貼ってどうにかしのいでいた。

しかし、年が明けると左脚にしびれが走るようになる。日を追うごとに症状はひどくなり、我慢できず病院を訪れた。

診察の結果、坐骨神経痛だという。薬をもらって通院を始めたものの、1ヵ月経ってもいっこうによくならない。病院に見切りをつけ、今度は鍼灸院に頼るようになった。それでも体調ははかばかしくなく、治療費が無駄に消えていくばかりだ。

その頃には車も運転できなくなり、パートは休まざるをえない状況。どうにか立って歩けるものの、痛くてベッドに横になっている時間が増えていく。結局パートも辞めることになり、絶望のどん底へ落とされたような感覚だった。

悶々とする日々を送っていたとき、ふと思い出した。まだ20代の頃、東京の知人が通っていた、東洋医学をもとにストレッチなどの指導を行う教室に同行したときのことを。

その知人は、痛めた足を「導引術」という健康法で治していた。導引術は古代中国で生まれ、5000年の歴史を持つ。その手引き書を、私は今でも持っていた。隣県の本部に連絡を入れてみたところ、「すぐに来なさい」と言ってくれた。

夫に駅まで送ってもらい、1時間ほど電車に揺られて最寄り駅へ。歩いて本部に到着すると、畳敷きの広い部屋へ通された。しばらくして部屋に入ってきたインストラクターらしき人から、問診票を手渡される。本部の大先生は関西の教室へ指導に行っているそうで、ファクスで治療法を聞いてくれるとのこと。

酒風呂、足もみ、足湯のアドバイスを徹底

診断の結果、私の神経痛は「冷え」が大きな原因だという。治療のための酒風呂入浴、足もみの行、足湯の行を教えていただき、「これを徹底しなさい」とのアドバイス。私は家に帰るや、藁にもすがる思いで取りかかった。

まずは酒風呂。スーパーで何本か日本酒を購入して浴槽に入れると、すっかり酒臭くなったが、仕方ない。いざ入ってみると、酒のおかげか身体が今までになく温まる。布団に入ってもホカホカのままだった。

次は足もみの行だ。日中、暇を惜しんで足の指を1本ずつもみほぐし、足首をぐるぐると回す。これを毎日1時間ほどくり返した。そして最後は足湯。就寝前、バケツに風呂の湯を半分入れて両足を浸す。やかんから熱い湯を少しずつ足していき、足が十分温まったら終了。

この3つを日々徹底し、1ヵ月ほど経った頃であろうか。腰や脚の痛みは徐々に軽くなり、ついにちゃんと歩けるようになった。私にとっては奇跡のような出来事で、地獄を抜け出して天国へ昇ったような心地である。

私はお礼を伝えるため、再び本部を訪れた。インストラクターとあれこれ話をする。「不調の原因の多くは冷えにある」という話に、私は思い当たる節があった。

パートを始める半年前、義母が体調を崩して入院した。私は彼女に代わって畑仕事をすることに。真夏の炎天下での作業だったため、夕食の冷えたビールが欠かせず、つい多めに飲んでしまっていた。これが神経痛の一因になったようだ。

インストラクターは、「飲食物には身体を冷やすものと温めるものがあり、身体を冷やすものはできるだけ摂らないように」と教えてくれた。

私はこれを機に、東洋医学に興味を持ち、のめり込んでいった。年に何回かは本部で新たな行を教わり、目、耳、鼻、歯の健康を保つための行から顔のしわ取りの行まで、多くの種類を習得。酒も口にしなくなった。日頃から病気にかかりにくい身体にしておくことが、何より重要だと知ったからだ。

スイーツ断ちに失敗し続けて

しかし、ここまで健康に気を使うようになった私でも、どうしてもやめられないものが一つある。それは甘味。私は大の甘党であり、大のスイーツ好きなのだ。

私の一日は、起床後の1杯のモカコーヒーで始まる。そして朝食を摂り、その後に日本茶とスイーツを口にしなくては気がすまない。20代の頃は、スイーツの食べすぎで半病人の身体になってしまったほどだ。幾度となく禁酒ならぬ「スイーツ断ち」を試みるも、これだけはどうしようもなかった。

かつて夫にも、「甘いものを摂りすぎるなよ」と注意されたことがある。夫の祖母は私と同じく甘党で、糖尿病の末に亡くなったからだ。私は彼女の気持ちがよくわかる。美味というものは、人の本能に刻み込まれて忘れがたいのである。

この悩みを導引術の先生に相談すると、「自分の欲望を無理に抑えつけることはない。あるがままの自分を認め、上手にコントロールしなさい。メリハリをつければ大丈夫」とアドバイスしてくれた。

さて、どうにもならない欲望をどうコントロールしたらいいものか。思案の末に、一計を思いついた。朝食後は、日本茶とともに少量の甘味品を摂る。そして月に2回はファミレスへ行き、好きなものを好きなだけ食べることにした。あえて《不養生の日》をつくったのだ。このときだけは、日頃は我慢している大盛りのフルーツパフェも、心置きなく食べていい。

食生活にメリハリをつけることで、ストレスを溜めずに糖分の過剰摂取を避けることに成功した。飲食物は、人の身体にとって毒にも薬にもなる。要は自分の中でどうバランスを取るかが大切なのだろう。

あれから20年以上が経った。この年齢になると老いを意識してしまうが、私の日常はまずまずというところ。毎年受けている健康診断も、取り立てて気になる項目はない。あのとき坐骨神経痛にならなければ、私は今頃どうしていただろうか。導引術の習得、欲望のコントロール法……。私は、はるかに大きなものを手にしたような気がする。

日々の基本は、「食べ物は30回噛む」「就寝3時間前から飲食物は口にしない」「食べ物を粗末にしない」の三原則。平日は養生を第一とし、月に2回は羽目を外して好きなものを存分に口にする。私はこの方法で、どうにかこうにか健康を保つことができている。

自分にあった治療法は?統合医療で可能性を広げる

神野さん(仮名)は、40代で発祥した坐骨神経痛をきっかけに、自身の健康との向き合い方も変えることができました。

大病にかからないよう、できる限り予防をすることが一番です。

厚生労働省が運営する「統合医療」情報発信サイト「eJIM(イージム)」では、民間療法をはじめとする相補(補完)・代替療法( 近代西洋医学と組み合わせられる各種療法)と、どのように向き合うべきか、そして信頼できる情報をわかりやすく紹介しています。

●厚生労働省eJIM
https://www.ejim.ncgg.go.jp/public/index.html

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「情報を見極めるための10か条」
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