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文部科学省が実施した「令和2年度 家庭教育の総合的推進に関する調査研究」によると、子育ての悩みは「しつけの仕方が分からない」「生活習慣の乱れが不安」と回答した人が4割近く。そのようななか「親の価値観が、子どもの価値観の土台になる」と話すのは、学校法人洗足学園小学校前校長、現理事の吉田英也さん。今回は、吉田さんの初の著書『心を育てる中学受験-全員が中学受験する洗足学園小学校が大切にしていること』から、子どもの心を育てるヒントを一部ご紹介します。

【書影】名門小学校・前校長が明かす「人生の役に立つ」受験のすすめ。吉田英也『心を育てる中学受験-全員が中学受験する洗足学園小学校が大切にしていること』

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親の価値観が、子どもの価値観の土台になる

中学高校から小学校に異動して、小学生はまだまだ家庭の影響が大きいことを実感しました。

中高生も家庭環境の影響は大きいのですが、親と少しずつ距離をとるようになり、親を客観的に眺め、上手な振る舞い方も身につけます。

一方で小学生は、親の価値観をそのまま備えていると言ってよいでしょう。

子どもはおかあさんが大好きですから、おかあさんが喜ぶことをしたがります。親はそこをもっと理解して、気をつけなければならないのです。

例えば、おかあさんが子どもの作った作品をいつも大事にしているのであれば、絵や作文、習字を嬉々としてプレゼントしてくれるでしょう。

おかあさんが噂好きであれば、子どもはおかあさんが喜ぶ噂話を流します。子どもなりにサービスして、やや「盛って」話すこともあるでしょう。おかあさんがうれしそうに聞いてくれるから話すのです。

おかあさんが試験の点数に敏感であれば、悪い点数をとった結果を隠すようになるか、できなかった言い訳を先に考えてしまうかもしれません。

このように価値観がつくられつつある小学生の時の母親の言動はその後のわが子の価値観にとてつもなく大きな影響をもたらすことを、ぜひ忘れないでいただきたいと思います。

しつけとは、良い習慣をつけること

毎日、子育てをしている中では、ついつい小言が多くなります。親は子どもが社会に出たときに、きちんと周りと協調してやっていけるように、しつけなければならないと強く思っているからです。

しつけはもちろん必要です。幼少期に基本的生活習慣をしっかり身につけさせることは何よりも大切だと考えます。

良い習慣をつけるか悪い習慣をつけるかで、人間は全く変わってしまいますが、まさに良い習慣をつけることがしつけであり、教育なのです。

良い習慣とは、毎晩決まった時間に寝て、毎朝決まった時間に起きる。いただきます、ごちそうさま、ありがとうをきちんと言う。本をよく読む。遊んだものを片付ける。きれいなものをきれいだと認める。家族で同じものを見て同じ話題で話をするといったことです。

これはすべてあたりまえのことばかりです。

言い換えれば、日々、淡々と同じペースで動くことができる、つまり、基本的な生活のスタイルをきちんと確立しているということでもあります。

あたりまえのことは、わかっているけれど、それを淡々とどんな状況でも続ける、習慣化するのが、大変難しいのです。

それでも、毎日、やるべきことをお互いにやってみてください。

この「お互いに」ということが大切です。一方的に子どもに負担を強いるのではなく、親子がお互いに決まり事を淡々とこなすのです。

子どもに宿題をやらせるのであれば、おかあさんはごはんを作る、子どもが部屋を片付けるときにリビングの掃除をする、というように。

子どもの生き方のモデルは大人

言うのは簡単ですが「決まり事をこなす」というのは、生活する中で最も難題です。

時間を管理して、規則正しい生活をさせるのは、親として当然ですが、現代はおかあさんも仕事をもつ時代ですから、おかあさん自身がいつも規則的な生活ができるとは限りません。

毎日綱渡りのような時間との闘いの中で、子育てをしていらっしゃる方もたくさんいるでしょう。

しかし、そんな中でも良い生活習慣を身につけるべく、努力している親御さんはたくさんいることも、また事実です。

幼少期から良い習慣をつけてもらっている子どもは、小学校生活を楽に送ることができます。

ごはんを作るのが面倒になった時に、気軽にファミレスに行き、子どもは待つ間にゲーム、親はずっとスマホの画面に釘付け……というのは率直に言って良い習慣とは言えません。

良い習慣がついていると、毎朝起きるのが苦にならないので、機嫌よくいられます。きちんと挨拶ができるので、コミュニケーションがスムーズになります。片付ける習慣がついているので、ものをなくさなくなります。

このような良い習慣をつけるには、大人の姿勢が大事ということをわかっていただけるでしょうか。日々の大人の「暮らしぶり」が、そのまま子どもの生き方のモデルなのだということです。

「幸せ」を感じにくい子は、しつけが行き届いていない?

しつけとは、人としての“根を養う”ことだと思います。

植物でも、根を養えば木は自ら育ちます。人でも同じだということです。根がしっかり育つことで徳性が身につき、知識や技能という枝葉が育っていくのです。


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とはいっても、目先の楽しみから目をそらして、やりたくないことをやらなければならないのは、子どもなりにエネルギーが必要です。子どもは楽なほうに流れるものです。

だから親御さんは、日々、口をすっぱくして同じことを言い続けなければならないのです。

「とても言い切れない」としつけを放棄してしまうのは、一見、楽かもしれません。うるさいことを言わない親を、子どもは歓迎するでしょう。

親のほうも「子どもの自主性を重んじる」とか「うちの子は個性的」という言葉でまとめてしまえば、その場の無用な争いを避けられます。

子どもだって叱られるのは苦痛ですから、叱られないで済むのであればそのほうがご機嫌でいられます。

しかし、しつけの行き届いていない子どもは、小学校という社会はなんて不自由な環境なのだろうと、家に帰りたくなるかもしれません。前日に夜更かしをしているので、眠いし、集中力もありません。

気が向いたときだけ勉強をするのはいいけれど、気分が乗らなければ、自由にさせてくれない学校がいやになってしまいます。順番を守って遊ぶことも苦手です。

それは子どもにとって、果たして幸せなことでしょうか? しつけが行き届いていればとても楽しい場所であるはずの学校が、しつけが行き届いていないばかりに居心地の悪い場所になってしまうのです。

小学生であればまだ取り返しはつきます。しかし思春期に入る中学生となると、夜更かしもひどくなり、朝起きるのはますます困難になります。

また、何かと注意してくる教師をうざいと感じたり、周りの友人たちとうまくコミュニケーションがとれなかったり、ということが続くうちに、自分の殻に閉じこもるしかなくなってしまいます。

一見、「自分の世界をもっている」という言葉にすると、個性的な人生を歩んでいるようになりますが、どんどん世界を狭くするしか居場所がなくなっているのです。

正しいことは小声でよいのです

親が子どもと接するうえで気をつけなければいけないのは、正しいことは大きな声で注意をしないということ。「正論であればあるほどゆっくりと落ち着いて伝える」ことが大事です。

正しいことなのですから大声で威圧する必要はありませんし、強く言う必要もないのです。

このことを勘違いすると、正しいことでも相手の心に届きません。

言い方や態度に反発して素直になれず、内容も納得できなくなることはよくあるものです。正しいことほど穏やかに話しましょう。

子どもの教育は勝ち負けではありませんから、子どもと論争して打ち負かす必要はありません。

言うことを聞かせようとすると、ついつい、理屈の応酬となり、相手を言い負かす、または言い負かされるという、まるで勝負のような状況ができあがってしまいます。

このような相手の弱点を突くようなやり方は、子どもを相手とする教育の現場では考えものです。

子どもは弱点だらけです。論破しようと思えば簡単に勝てるでしょう。子どもの正しい成長を導くためには、気持ちに寄り添うことです。

子育てに勝つも負けるもないのです。

親のほうが勝ち負けの目線で考えるのは、もってのほかです。

※本稿は、『心を育てる中学受験-全員が中学受験する洗足学園小学校が大切にしていること』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。