●各局で共通しているテーマ「視聴者層の若返り」

GWに入って今春スタートの新番組がようやくそろい、全体の傾向が見えてきた。

ゴールデン・プライム帯でレギュラー放送される主な新番組をあげていくと、日本テレビが『世界頂グルメ』『with MUSIC』、TBSが『いくらかわかる金(かね)? 〜世の中なんでもHOWマッチ〜』、テレビ東京が『何を隠そう…ソレが!』、フジテレビが『ミュージックジェネレーション』『街グルメをマジ探索!かまいまち』の6つ。

ジャンルとしては、グルメと音楽が重なっているが、番組の構成・演出なども含めて、どんな傾向があるのか。テレビ解説者の木村隆志が掘り下げていく。

ハライチ(左から岩井勇気、澤部佑)は『世界頂グルメ』でMCを務め、澤部は『いくらかわかる金(かね)? 〜世の中なんでもHOWマッチ〜』でもMCに起用されている

○前番組からの思い切った入れ換え

まず象徴的なのは、前番組のカラーや視聴者層をほぼ踏襲しようとせず、思い切って新たなものに入れ換えるような新番組が目立つこと。

特に日テレは約33年にわたって放送された『水曜ドラマ』からグルメの『世界頂グルメ!』、約19年にわたって放送された教養バラエティの『世界一受けたい授業』から音楽の『with MUSIC』と、まったく異なるジャンルの番組に変更した。

TBSも約38年にわたって放送された教養バラエティ『世界ふしぎ発見!』から、生活にまつわるお金を扱う『いくらかわかる金?』に変更。フジも木曜19時・20時台をアイドルバラエティの『木7○×部』とトークバラエティの『オドオド×ハラハラ』から、音楽の『ミュージックジェネレーション』とグルメの『かまいまち』に変更、テレ東もニュースバラエティの『60秒で学べるNews』からトークバラエティの『何を隠そう…ソレが!』に変更した。

これほどの変更は「前番組が獲得していた視聴者の数と層に問題があった」ということだろう。各局で共通しているのは、視聴者層の若返りを図ろうという姿勢。特にグルメはファミリー層狙いの最たるところだが、お金がテーマの『いくらかわかる金?』も、初回放送で、くら寿司、ニトリ、スーパーの袋詰めをフィーチャーしたほか、芸能人ファミリーを次々に登場させ、クイズ形式を採用するなど、随所にファミリー層狙いの仕掛けが見られた。

その制作スタンスは、上白石萌音が番組最後に語った「私、もっと現金な番組だと思ってました。凄くハートフルで楽しかったです」というコメントからもうかがえる。同様に改編テーマを「一緒に笑えるだけで、しあわせ」に設定したフジも、グルメの『かまいまち』、3世代家族視聴を意識した『ミュージックジェネレーション』とファミリー層狙いの方針は明確。

また、出演者に目を向けても、視聴者目線で進行するハライチ・澤部佑が2つの新番組でMCを務めることも、それを裏付けている。

●日テレとテレビ朝日の動きに明らかな違い

○「グルメ」「音楽」への信頼か依存か

さらに、より若年層重視の方針が見えるのは音楽番組。「音源やネット動画にはないライブならではの臨場感を前面に押し出した『CDTVライブ!ライブ!』(TBS)の成功が民放各局の意識を変えた」という感がある。

実際、『CDTVライブ!ライブ!』は今春に「放送時間を1時間拡大」という強気の編成を実行。新番組の『with MUSIC』も「できるだけ生放送のパートを組み込もう」という傾向が見て取れるし、どの音楽番組も視聴者がSNSにつぶやきたくなるようなリアルタイム視聴をうながす構成・演出が目立つ。

また、『with MUSIC』を除く4番組は、「すでにゴールデン・プライム特番として放送されていた」という手堅い編成だった。なかでも『ミュージックジェネレーション』は通算13回、昨年だけでも4回も放送されるなど、「満を持してレギュラー化」というより「苦境を救うべく特番の中から選ばれた」という印象が強い。

一方、『世界頂グルメ』は昨年2月の日曜午後パイロット版から、7月と12月のゴールデン・プライム特番を経て早くもレギュラー化。『いくらかわかる金?』は昨年12月のゴールデン特番からいきなりレギュラー化と、どちらも「長寿番組の後継番組」、しかも「まったくの別ジャンル」にしては急仕上げという感もある。

パイロット版がなくいきなり“土曜20時”という重要枠でスタートした『with MUSIC』も含め、良く言えばグルメ、音楽というジャンルへの信頼、悪く言えば依存が強いのではないか。

ちなみに『いくらかわかる金?』はお金というジャンルの番組だが、初回の最初にくら寿司とニトリを扱い、大量の商品を紹介するなど、チェーン店をフィーチャーする構成は、ほぼ隔週ペースで2時間特番を放送している「『ジョブチューン』の続き」と感じた人は少なくないだろう。その内容は『ウワサのお客さま』(フジ)、『坂上&指原のつぶれない店』(TBS)などでも見られるものであり、“チェーン店”というジャンルへの信頼と依存なのかもしれない。

いずれにしても本来、新番組は注目度が高いはずだが、ここまで大きな話題にはつながっていないところに寂しさを感じさせられる。

さまぁ〜ず(左から大竹一樹、三村マサカズ)は『ミュージックジェネレーション』のMCを務め、大竹は『ミュージックジェネレーション』に“リアクター代表”として出演している


○「配信も重視」と「無改編」の明確な差

最後に注目しておきたいのは、日テレとテレビ朝日の動き。ともに視聴率獲得に対するシビアなスタンスを見せ、トップ争いを続けてきたが、今春の編成では明らかな違いが見られた。

日テレは視聴率と配信再生数の両方でトップを目指すことを明言。配信で人気のコンテンツは特にコア層(主に13〜49歳)への訴求力が高く、個人視聴率獲得への還元も期待できることから、「今春以降は注力していく」ことを世間に向けて発表した形になる。「時代と人々の変化に対応していく」ということだろう。

ただ、「『with MUSIC』『世界頂グルメ』は本当に配信で数字が期待できそうなコンテンツなのか」と言えば危うさは否めない。『with MUSIC』は事前収録したパートも多く、良くも悪くも日テレらしいこまめな編集を施した番組だった。『CDTVライブ!ライブ!』ほどのライブ感はなく、数字・評判ともに期待したレベルに達していないのではないか。

そしてテレビ朝日。ここまで読んできて同局の番組が出てこないことに気づいただろうか。今春スタートの新番組はなく、「バラエティの無改編は8年半ぶり」という。つまり現状維持の方針なのだが、同局にはCM収入を得ていく上で他局が重視するコア層の支持を得たバラエティはほぼ見当たらない。

“オールターゲット”という方針を打ち出しているが、「視聴率獲得は相変わらずの中高年層頼りで、配信再生数の獲得も難しい」という課題解決は先送りされた。同局の春ドラマ『Destiny』『Believe』は視聴率・配信数の両方を狙う野心的な作品で「変わろう」とする姿勢が見えるだけに、バラエティの無改編が気になってしまう。

木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。 この著者の記事一覧はこちら