「恋愛が苦手」という女性が増えている。脳科学者の中野信子さんは「生物の生殖本能から考えると、恋をするのがふつうの状態だが、ここで脳がブレーキをかけてしまう人は知能が高い傾向がある」という――。

※本稿は、中野信子『感情に振り回されないレッスン』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

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■恋愛下手な女性は知能が高い?

「わたし、本気で人を好きになれないんです」
「恋愛スキル、むちゃくちゃ低いんです」

こんな女性が増えています。

まず確認しておきたいのは、ひとくちに「人を好きになれない」といっても、「恋愛ができない」のと「人を愛せない」のとは違います。

たいていの場合、前者の「恋愛ができない」というケースです。実は、こういう人は知能が高い傾向があり、知能の高さの指標になる前頭前皮質の「DLPFC(背外側前頭前野)」という部分が、「この人とつきあってもいいことないかも」などと考えをめぐらせ、恋愛に発展することにブレーキをかけてしまうのです。

こういう人は、気になる人と会うときには、あえてお酒を飲んだりして、DLPFCの働きを鈍くしておくことをおすすめします。恋愛には、ちょっと、頭のネジを緩めておくくらいがいいのです。

■オキシトシンを分泌させると愛情が生まれる

一方、「人を愛せない」ケースは生まれつき脳にプログラミングされています。

脳下垂体で分泌される愛情形成に深くかかわる物質である、「アルギニンバソプレッシン(AVP)」の受容体が少ない人は、愛情の形成がうまくできないといわれています。

とはいえ、AVPが少なくても、愛情を形成する方法がないわけではありません。AVPと同様に愛情形成をうながす、「オキシトシン」を分泌させることです。

例えば、映画や小説を見て擬似恋愛をする。ぬいぐるみに愛着を持って触れ合う、人とたくさん過ごすなどで、オキシトシンが分泌されることがわかっています。

■恋愛できないのは、脳が合理的にブレーキをかけているから

最近は社会的、経済的事情から結婚をしなかったり、子どもを産まない選択をしたりする人が増えています。仕事が忙しいことや、生活するのに精いっぱいで、恋愛自体が二の次になっている事情もあることでしょう。

もちろん、そうした選択は尊重すべきものです。ただ、生物の生殖本能という観点から考えると、気になる相手に恋をしてしまうのがふつうの状態ともいえます。そうなっていないのは、脳が本能にブレーキをかけているわけです。

この働きを担うのが、先ほど説明した脳の前頭前皮質にある「DLPFC(背外側前頭前野)」という部分です。この部分は、計画性、論理性、合理性などを司り、いわゆる「知能」が高い人ほど、この部分が働きやすくなります。

つまり、冷静に相手を見極めるのはいいのですが、DLPFCの働きが過剰になると、せっかく相手に愛情を感じても、すぐその気持ちを否定しかねないのです。

「好きなタイプだけど、フリーランスは将来が心配」
「気が合うけれど、彼は社交的だから遊ばれるかもな」

そうして自分では賢明な判断をしているつもりでも、結果的に出会いの機会を逃していることがあります。

最近では、将来産む子どもを優秀にするために優秀な遺伝子を選ぶなど、結婚や出産をより戦略的に考える人も増えました。

繰り返しますが、そうした選択は尊重すべきです。ただ、そうした振る舞いによって、かえって愛情を共有する機会が減っていることが、現在の少子化の背景のひとつにあると思うのです。

■恋愛できないもうひとつの理由

恋愛に対して脳がブレーキをかけていることに加えて、もうひとつ恋愛できない理由があります。

それは、「あえて恋愛しない」と決めているからで、要は「いまのままで幸せだから、別に恋人がいなくても、結婚しなくてもいいかな」と考える場合です。

これもひとつの選択ですが、こうした考え方をするタイプが、日本人には特徴的に多いと見られます。

人間が恋愛などで行動を起こすときに大きな動機となるのが、快楽物質と呼ばれる「ドーパミン」の働きです。なんらかの刺激を受けると、このドーパミンが脳に分泌されることで快感や幸福感が得られます。

そして、脳のなかには、ドーパミンを受け取るための「DRD4」という受容体があります。

■日本人は、熱しにくく冷めにくい

この「DRD4」にはいくつかのバリエーションがあり、簡単にいうと、「DRD4」のサイズが長ければ、快楽を得るためにドーパミンを大量に必要とします。これが、いわゆる「熱しやすく冷めやすい」タイプです。

ただ、このタイプは日本人には100人あたり1%程度しかいないといわれており、残り99%のうち、約6割が「DRD4」のサイズが短く、約4割が中程度の長さになります。

ちなみに、「DRD4」のサイズが長い人は、スペインで18%、スウェーデンで16%、デンマークで14%というデータがあります。

つまり、日本人の大多数はほかの国々と比べて、少しの刺激で満足しやすい「熱しにくく冷めにくい」タイプだということ。こうしたことからも、「恋愛できない」人がかなりの割合でいると推察できるのです。

■人類の文明が進むに従い、恋愛はただの遊びになった

人間はなぜ婚姻をするのでしょうか? それは自分のリソースを維持し、資産の散逸を防ぐためです。

そして、もうひとつのミッションが、出産と子育てをするためです。

写真=iStock.com/minianne
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でも、考えてみれば、恋愛はこのふたつのミッションに必須ではありません。人類の文明が進むに従って、恋愛は生殖活動の枠を飛び越え、ただの「遊び」になってきたのです。

たしかに恋愛には、先のふたつのミッションをうながす役割はあります。恋愛関係が発展し、婚姻へと進むイメージです。しかし、恋愛の快楽にハマり過ぎると、むしろミッションから遠ざかるほうへと進みます。

なぜなら、恋愛で悩んだり、楽しんだりしているときは、ドーパミンによる快楽が強く、脳の前頭葉の機能が落ちるからです。すると、恋愛相手の言動の矛盾に気づかなくなったり、仕事中も上の空になったりして、少し考えればわかるような計算や知的作業もできなくなってしまいます。

もっと行き過ぎると、結婚詐欺などにも遭いやすくなってしまう。不倫をしている著名人なら、ふたりで歩くと写真に撮られることがわからなくなってしまう。むしろ、まわりに匂わせるような言動をするなど、行動の水準がどんどん下がっていきます。

そんな快楽を得る手段としての恋愛にハマると、本来のミッションである資産の散逸を防ぐことや、出産や子育てを置き去りにして、壊す方向に働いていきます。

恋愛はただの遊び。恋愛を楽しんでいるときは、お酒に依存しているときと変わらないのかもしれません。

■「恋に夢中」は3年ほど

女性が自分の遺伝子を、子どもを通じてばらまくためには、まずもって出産をする必要があります。

ただし、出産は女性の心身にかなりの負担を与えるもの。合理的かつ理性的に考えれば、そんな危ない行為を進んで行おうとは考えないのがふつうです。

それでも、たくさんの女性が「子どもがほしい」と思います。それは、人間が後世に子孫を残すために、脳に備わっている「論理や理性にもとづいて慎重に判断を下すシステム」を麻痺させるからです。そうして、直感力ともいうべき、「ものごとをすばやく判断するシステム」のほうを優先させるのです。

ただし、いつまでも前者のシステムを使わないわけにはいきません。直感力だけでは、人間は生き残るのが難しいからです。

だいたい3年ほど経てば、次第に直感で決めた恋も冷めはじめます。期間には個人差がありますが、恋愛や結婚生活を長く続けたいのなら、この3年という期間のあとをイメージしておくことが大切。

「3年後もこの人と一緒にいたいだろうか?」
「3年後もわたしを大切に扱ってくれるだろうか?」

恋が冷めていく3年後を考えておくことが、恋愛や結婚生活を長く続けていくひとつの方法です。

■理想の相手を求めていたら、脳はいつまでも決断できない

どんなことでも、「決める」というのは難しい作業ではないでしょうか。ましてや恋愛となると、悩んで、考え過ぎて、肝心のチャンスを逃してしまうことも。

脳はなるべく消費エネルギーを節約しようとするため、本来怠け者であり、複数の選択肢から選んで決めるのも苦手です。

複数の相手から候補を絞って、「理想の相手」を決めさせる婚活サイトや婚活パーティーなどは、実は脳にとっては苦行でしかないのです。

中野信子『感情に振り回されないレッスン』(プレジデント社)

あまりに出会いのチャンスが少ない状況なら、婚活関連のサービスを積極的に使うのはありでしょう。しかし、選択の幅を広げようといくつものサイトに登録し、パーティーへ出かけていても、脳はいつまでも決断できません。

逆に、選択肢の数が減ると、脳の認知負荷が軽くなります。たくさんの選択肢から選んだほうが、結果の質は高まるように思えますが、例えば二者択一のほうが貴重な人生の時間を無駄にせず、スムーズに正しい決断ができます。

もちろん、二者択一にこだわる必要はありませんが、恋愛相手を探し求めれば求めるほど、いつまでも見つからない(=決断できない)ことになりかねないのは、知っておきたいところです。

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中野 信子(なかの・のぶこ)
脳科学者、医学博士、認知科学者
東日本国際大学特任教授。京都芸術大学客員教授。1975年、東京都生まれ。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。2008年から10年まで、フランス国立研究所ニューロスピン(高磁場MRI研究センター)に勤務。著書に『サイコパス』『不倫』、ヤマザキマリとの共著『パンデミックの文明論』(すべて文春新書)、『ペルソナ』、熊澤弘との共著『脳から見るミュージアム』(ともに講談社現代新書)、『脳の闇』(新潮新書)などがある。
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脳科学者、医学博士、認知科学者 中野 信子)