日本では「貯金は善」「投資は悪」であるかのように思われていますが、これは本当でしょうか(写真:ニングル/PIXTA)

2024年に新NISAが始まるなど、資産形成熱が高まっている今日このごろ。しかし、お金に疎く、「投資が怖い」と思う人も少なくないでしょう。そんな人が、守るべきルールとは?

藤野英人さん監修の新著『どうしたら貯められますか? 将来の不安がなくなりますか?  お金の基本について藤野英人先生に聞いてみた』より、一部抜粋&再構成してお届けします。

日本人はなぜ投資をしたがらない?

株価は上がるときはじわじわ上がっていきますが、下がるときは一気に下がります。その逆は基本的にありません。

なぜそうなるかというと、人は得る喜びよりも、失う悲しみのほうがより大きいからです。つまり、10万円の臨時収入があったときの喜びよりも、10万円入りの財布を落としたときのショックのほうがより大きいわけです。

そのため、私たちは損をすることを避けようとする心理(損失回避)が働き、株価が少し下がると「さあ大変だ」と思います。

そして、損が大きくならないうちに売ってしまおうと、みんないっせいに売りに走る―。それで株価は急降下するわけです。

とくに日本人はリスクを恐れる傾向が顕著です。リスクとリターンは、基本的に「1対1」のイーブンですが、リスクのほうがより大きい「2対1」くらいに思ってしまう人が多いようです。

リスクがゼロでリターンだけ望むことはできません。リターンを得るには、リスクも受け入れなくてはなりません。ただし、そのリスクの大きさは「リターン1」と同等であり、2でも3でもないことを冷静に理解する必要があります。

タンス貯金は社会の活力を奪う

日本では「貯金は善」「投資は悪」であるかのように思われていますが、これは本当でしょうか。もちろんお金を蓄えるのは悪いことではありません。ただし、預貯金のなかでも「タンス預金」に関しては、善ではなく、むしろ悪であるといっていいでしょう。

金融機関に預けたお金なら、受け取る金利はわずかであっても、運用されて社会に回っていきます。しかし、家庭にしまいこまれているタンス預金は何の役にも立っていません。これでは「死んだお金」です。死んだお金が増えていけば、社会の活力は失われていきます。

現金を自分で抱え込むのは、お金が確実で間違いのない、リアル(実体のある)なものだと考えられているからでしょう。それに対して株式は、移ろいやすいバーチャル(実体のない仮想的)なものだと思われているのかもしれません。

しかし、これは逆です。株式は、会社がもつ有形・無形の資産と結びついています。つまり、会社というたしかに実体のあるものとひも付いているわけです。

一方、お金の実体はというと、紙幣は紙切れでしかありません。それを1万円の価値があるものにしましょうという約束のもとに成立しており、もとをただせば原価20円ほどの紙です。

ですから、じつはお金こそがバーチャルなものであり、株式のほうがずっとリアルなものなのです。

そもそも株価って、どうやって決まるのですか?

株価は日々変動していますが、買い手が多ければ株価は上がり、売り手が多ければ下がります。この買い手と売り手、すなわち需要と供給が一致したところで株価が決まるわけです。

需要と供給によって価格が決まるのは一般の商品と同じですが、株式の場合、その会社の人気と利益も株価変動の重要な要因になります。

株式投資でよく使われる用語にEPSとPERがあります。EPSは「1株当たり純利益」、PERは「株価収益率」を表しています。株価収益率とは、現在の株価が1株当たり純利益の何倍かを表した数字です。

一般に利益の高い会社ほど、将来の期待が株価に織り込まれるため、PERが高くなります。簡単にいえば、PERは投資家の人気を測る指標です。

この「EPS=利益」と「PER=人気」は、どちらも株価を左右しますが、長期スパンで見ると、株価はEPSに連動していきます。

『国富論』を著したアダム・スミスは、長期的に見ると、モノの価格はその価値におのずと収斂していくとし、市場経済におけるこの自動調節機能を「神の見えざる手」と呼んでいます。

このメカニズムは、株価においても同様に機能しているのです。

貯めてからではなく「貯めながら投資」をしよう

投資の世界では「卵をひとつのかごに盛るな」という格言があります。

たくさんの卵をひとつのかごに盛って、もしかごを落としたら、卵はぜんぶ割れてしまいます。だから、いくつかのかごに分けるべしと、分散投資の大切さを説いたものです。

この分散投資のメリットを手軽に得られるのが、投資信託です。

投資信託は、個人から集めたお金をプロのファンドマネジャーが代わりに株式や債券などに投資し、それぞれの個人にその運用益が還元されるというものです。運用するのはプロなので、特別な勉強や情報収集は必要ありません。

個人が株式投資でいくつかの銘柄に分散投資しようとすると、資金的に大変です。日本の株の売買単位は100株ですので、株価1000円の株だと最低でも10万円が必要。分散投資をしようとすると、さらに資金を要します。

でも、投資信託であれば、会社員の小遣い程度か、それ以下のお金で分散投資をすることが可能です。

よく「まとまったお金ができたら投資に回したい」という人がいますが、これは賛成できません。まとまったお金ができるのを待っていたらいつになるかわからないからです。

投資は貯めてからするものではなく、「貯めながらする」ことを私は提唱しています。投資信託の普及は、それを可能にしてくれたといえます。

日本人は気長に待つのが苦手?

私はこれから投資を始めようという人に、よく「桐の木」の話をします。

昔の日本では、女の子が生まれると、庭に桐の木を植えました。桐は少しずつ大きくなり、やがて女の子が成長して結婚するときに、桐の木を切ってタンスをつくり、嫁入り道具に持たせたという話です。


桐の木は一足飛びに大きくなりません。10年とか20年の時間をかけて大切に育てる。そうすることで、やがて桐のタンスという資産を手にすることができるわけです。

これは、投資を始めるにあたっての心構えにそっくり当てはまります。

「小さく・ゆっくり・長く」

これが私の考える初心者の3原則です。「小さく」とは、欲張らずに少額から始めましょうという意味です。投資信託の場合、以前は最低投資額が1万円でしたが、いまはネット証券の場合、100円からでもできるところがあります。

そして大切なのが「ゆっくり・長く」です。じつは日本人は長期に構えて結果を待つのが苦手で、投資信託の平均保有年数は2.8年。これはほかの先進国と比べてかなり短い数字です。日本人は投資をしたがらないのに、宝くじは人気があることからしても、短期で結果が出るものが好きなのでしょう。

しかし、宝くじと投資は違います。結果を急がず、ゆっくり構えてコツコツ増やす。これが私のすすめる投資スタイルの基本です。

(藤野 英人 : 投資家。レオス・キャピタルワークス代表取締役会長兼社長CEO&CIO)