インターネットの普及によって、マスメディアにおいても「SNSからのネタ探し」が定着している(写真:metamorworks/PIXTA)

TBSの報道番組「サンデーモーニング」が、番組内で紹介した「生成AIで作られた画像」について、その確証が得られなかったとして謝罪した。断定した表現を用いたことで、結果的に「誤報」となってしまった形となる。

筆者は、ネットメディア編集者として、10年以上にわたって「ネタ探し」を続けてきた。経験から感じるのは、ネットメディアのみならず、テレビなどのマスメディアですらも、インターネット上、とくにSNSで情報収集するようになった影響が大きいのではないか、ということだ。

リアルタイムに情報が流れ、共有されるSNSの普及によって、「世界各地でいま何が起きているか」が容易に可視化される時代となった。一方で、その情報を信じすぎるがあまり、ファクトチェックが疎かになったり、「ネタに釣られる」ケースも珍しくない。

そこで今回は、SNS時代における「ネタ探し」の功罪について、考えてみようと思う。

公式サイトに「お詫びと訂正」が掲載

「サンデーモーニング」は、俳優の関口宏さんが司会を務める、日曜朝の報道・情報番組だ。1987年に放送開始され、近年でも「御意見番」張本勲さんらの発言で、毎週のようにネットニュースを騒がせている。また、つい先日には、関口さんが来春で降板し、元NHKアナウンサーの膳場貴子さんが司会になるとも発表された。

そんな老舗番組の2023年11月5日放送をめぐり、番組公式サイトに「お詫びと訂正」が掲載された。この日の番組では、生成AI(人工知能)に関するVTRで、イスラエルと対立し、パレスチナのガザ地区を実効支配するイスラム組織「ハマス」の幹部に関する画像を紹介していた。これについてVTRでは「生成AIでつくられたフェイク画像」としたが、「2014年以前から海外のネットニュースなどに出回っていた可能性が非常に高いこと」がわかったという。

生成AIとは、文章や画像などを、文字通り「生成」するAI技術を指す。その代表例である「ChatGPT」ですら、ようやく公開から丸1年。件の画像もなんらかの技術を使った可能性はあるかもしれないが、10年近く前となれば、「生成AIでつくられた」と呼ぶのは難しいだろう。

あわせて番組側は、「灰にまみれたパレスチナの子どもたち」とされる画像も、「『生成AIが作ったもの』とお伝えしましたが、現段階で『生成AIが作った』と断定できる根拠はなく、断定した表現は誤り」だとした。

すっかり定着したネット・SNSからのネタ探し

イスラエル・パレスチナをはじめとする中東情勢は、人命や国際問題にかかわる、きわめてセンシティブな話題だ。あくまで話の主題が「生成AI」だったとしても、最低限の裏取り(事実確認)は必要だろう。もとより、サンデーモーニングはリベラル的なイメージが強い番組とあって、結果的に、SNSでは「意図的に行われたのでは」のように疑う声が出てしまっている。

AIによる画像生成は、まさに日進月歩のスピードで、精度が高まっている。その技術革新は数カ月前と比較しても、雲泥の差と言えるだろう。先日も、岸田文雄首相が卑猥な発言をするようなフェイク動画が、日本テレビのロゴ入りで投稿されて、話題になっている。

そんな現状もあって、「AI時代のマスメディア」も興味深いが、今回は「情報の精査」について考えてみよう。

サンデーモーニングは、誤報に至った経緯を明かしていないため、なぜ起きてしまったかは不明だ。ただ昨今の事情から、ひとつ考えられるのは、インターネットの普及によって、マスメディアにおいても「SNSからのネタ探し」が定着していることだろう。

筆者はネットメディアの編集者として、10年以上働いてきた経験がある。私がこの業界に入った10年前には、まだ「バズる」という表現は一般的ではなかったが、そうしたジャンルの話題は、ほとんどネット専業メディアの独擅場だった。しかし、スポーツ紙をはじめとする紙メディアの参入を経て、テレビ各社も取り入れるようになっていった。

いまや多くの情報番組に「バズりネタ」紹介コーナーがあり、ほんわかと癒やされる動物モノから、いわゆる「世界の衝撃映像」系まで、幅広く取り扱っている。それだけ数字(視聴率)が取れるということなのだろう。あるいは、効率よくコンテンツを作ることができるのかもしれない。

こうしたネット主体の情報収集のメリットとしては、まず「少ないタイムラグで発信できる」ことが挙げられる。海外の放送局から買い付けたり、現地に撮影スタッフを向かわせたりしなくても、容易に「世界の今」を伝えられる。しかし、この特性は反面、「賞味期限が早く、スピードを重視するあまり、十分に精査する時間的余裕がない」ことにもつながる。

ネット上で流通している「真偽の確証が取れない情報」を、そのままテレビで流してしまう。そうした失敗例として思い出すのは、2017年5月に「ワイドナショー」(フジテレビ系)で起きた一件だ。

スタジオジブリの宮崎駿監督が、名作を発表するたびに「人生で最高に引退したい気分」(天空の城ラピュタ)、「100年に1度の決意。これを最後に引退」(もののけ姫)などと発言していたと紹介したところ、X(当時はツイッター)に投稿された、創作の「ネタツイート(現ポスト)」の内容ではないかとの指摘が相次ぎ、番組は「実際には宮崎駿氏の発言ではなかった」と謝罪した。ネットには以前から、人気ワインのキャッチコピーになぞらえ、毎年の完成度を評価する「ボジョレーヌーヴォー構文」がある。おそらく「引退宣言」も、それを意識して書かれたと思われるが、番組スタッフは真に受けてしまったのだろう。

ちなみに、その翌月にも、同じくフジテレビで「釣られた」事例があった。情報番組「ノンストップ」で、赤城乳業のアイス「ガリガリ君」を扱った際に、実在しない「火星ヤシ味」をあわせて紹介し、翌日に謝罪。ネットユーザーが作成した画像を信じてしまったと話題になった。

ネット経由での取材は「コスパ良好」

それから6年、AIをはじめとする技術の進歩は著しいが、ネットを活用した取材や「裏取り」の手段は(恥ずかしながら筆者自身も含めて)、革新的とまで言える変化はないように感じられる。

天災や事件が起こると、現地からのSNS投稿に、取材依頼が殺到する。「○○テレビです。詳細をDM(ダイレクトメッセージ)でやりとりできませんか?」などと各社からの依頼がぶら下がり、マスコミによるSNSでの情報収集に嫌悪感を持つ、第三者のユーザーが「ダメです」と代返する伝統芸は、いまもネットの様式美となっている。

取材依頼そのものは人力だとしても、「ネタ」の早期発見にAI技術を用いることはある。ニュースアプリ「NewsDigest」などを展開する、IT報道ベンチャーのJX通信社は、ビジネス向けの「FASTALERT」を提供している。速報性と情報量、正確性を売りとしており、公式サイトによると、民放キー局の採用シェア100%だという。こうしたサービスを活用することで、より効率的に「旬の話題」を探せるようになった。

反対に、視聴者みずからが、放送局に素材提供するパターンもある。NHKや民放キー局各社は、写真や映像の投稿サイトを設置し、そこへのアップロードを呼びかけている。スマートフォンやパケット定額サービスの普及で、誰しもが「報道カメラマン」になれるという位置づけだ。

ただ、いずれの投稿サイトも、規約を見る限り、対価は金銭ではなく「自分の写真・映像がテレビに採用された」という体験ベースが主なようだ。SNSでの依頼ともども、ネット経由での取材が、テレビ局にとって「コスパ良好」なのは間違いないだろう。

日増しに「うそを見抜く力」が求められている

ここまで紹介してきたように、SNSを中心としたネタ探しには、メリットもデメリットもある。なるべく失敗しないためには、情報の精査を怠らず、「釣られない」ように制作側が意識し続けることが必要だ。

ネット掲示板「2ちゃんねる」(現5ちゃんねる)創設者の西村博之(ひろゆき)氏が、「うそはうそであると見抜ける人でないと(掲示板を使うのは)難しい」と評したのは、2000年のことだった。それから四半世紀近くの時がたち、テレビがネット化していく昨今を鑑みるに、日増しにテレビの視聴者にも「うそを見抜く力」が求められているのではないか。

朝から晩まで疑心暗鬼になる必要はないが、ふとした違和感に気づけるアンテナは必要だ。今をときめく生成AIですら「ハルシネーション(幻覚)」と呼ばれる課題を持っている。事実に基づかない「知ったかぶり」をしてしまうのだ。どれだけのビッグデータを根拠にしていても、完全に信用できるとは言えない。

取材対象者の言うことを、うのみにしない。さかのぼれば、「取材は足で稼ぐ」の時代においても、ネタ元が信頼できる人物かを見極め、情報の裏にある「真意」を探る必要はあった。それがSNSの登場で揺らぎ、AI普及でトドメを刺されるとしたら--。自戒の念も込めて、私たちは「人間だからこその強み」を見つめ直す岐路に立たされているのかもしれない。

(城戸 譲 : ネットメディア研究家・コラムニスト・炎上ウォッチャー)