主張するときに何を意識するとよいのでしょうか(写真:: msv / PIXTA)

自分の意見や主張をきちんと伝えたい。大学受験や就職活動で志望理由を考えるとき、仕事でプレゼンをしなければならないときに、このような悩みを抱える人も多いのではないでしょうか。全国屈指の名門校である西大和学園の現役国語教師、辻孝宗氏の新著『一度読んだら絶対に忘れない国語の教科書』を一部抜粋・再構成し、意見をうまく言うコツを紹介します。

国語の先生をしていると、こんなことをよく聞かれます。

「どうすれば、自分の意見をうまく相手に伝えられますか?」

「自分の主張を相手に伝えやすくするためには、どうすればいいですか?」と。

そんなときに、私はよくこんなふうに言います。

「そういうときは、『否定』を意識するといいよ」と。
そうなのです、相手に対して自分の意見を伝えやすくするためには、「否定」を意識するとうまくいくのです。今回はそのメカニズムについてお話ししたいと思います。


どちらの意見が心に残る?

例えばみなさんは、「転売屋についてどう思いますか?」と聞かれたときに、どちらの意見のほうが心に残りますか?

A 転売は、法的に規制したほうがいいと思います。

B 転売は、絶対に許されない行為だと思います。

おそらくですが、Bのほうがなんとなく、「意見として聞く価値があるかもしれない」と感じるものがあるのではないでしょうか。

言っていることの内容自体にはあまり差はありません。そうであるにもかかわらず、なぜか、Bのほうが「強い意見」「印象に残る文章」になっています。

それはなぜかと言えば、Aが肯定文であるのに対して、Bは否定文だからです。
実はこのように、否定文の意見のほうが相手に伝わりやすくなるのです。

会議などで、ずっと「いいですね!」と言っているだけの人って、「本当に会議に参加しているのかな? 適当に答えたんじゃないかな」と思ってしまいますよね。一方で、「これ違うんじゃないですか?」と否定している人って、きちんと自分の意見を言っているように感じますよね。

例えば、X(旧Twitter)とかでも、基本的にバズる投稿は否定文です。「日本っていい国ですね」よりも「日本ってここがダメだよね!」のほうが、「いいね」が付く傾向があると思います。

何かを否定する投稿に対しては、リポストやコメントにも、肯定的な意見だけが届くわけではなく、「そんなことはない!これは間違っている!」などと否定的な意見もあると思います。そして、そのほうが拡散されやすいですよね。

意見をするうえで、否定は外せない要素なのです。

なぜ否定の意見のほうが強く感じる?

さて、おそらくみなさんは、こんな疑問が頭に浮かんだのではないでしょうか?

「なんで否定の意見のほうが、強く感じるんだろうか?」と。

たしかにおかしいですよね。肯定の文と否定の文で、なぜ我々は否定のほうに目がいくのでしょうか?

この疑問に対しては、「実はそもそもの前提が間違っている」というのが答えです。

人は、否定の意見のほうを強く感じるのではありません。

そもそも意見とは、否定なのです。既存の何かに対して否定をするのが意見なので、意見の本質である「否定」が強調された文だと、自分の意見を言っていると、より強く感じるのです。

人間は、何かを否定するときにこそ、その人の意見が顔を出します。なぜなら、もし肯定したいだけなのであれば、その意見を言う必要がないからです。現状に対して何か「NO」を突き付けたいから、その意見を言っているのです。だからどんな文章とにも、否定のニュアンスが含まれています。

「みんなこう思っているけれど、そうじゃないんだ!」

「知られていないけれど、これって重要なんだ!」と、世間一般の常識に対して「NO」を突きつけるのが、意見の本質なのです。

「え?ただ何かを賛美したり、賛成するような意見もあるじゃないか」と思う人もいるかもしれませんが、それはそれで、否定が含まれています。

「Aという政策に対して、間違っていると思う人もいるでしょう。でも、私はAという政策、いいと思うんです!」と、否定に対して否定しているから、マイナス×マイナスで、一見すると肯定になっていることが多いわけです。

なので、意見とは結局、何かを否定するものなのです。そして、否定のほうが「意見」の本質に近い。だからこそ、強い意見を言いたければ「否定文」で語るといいのです。

逆に、相手の意見を知りたければ、「相手が否定したいもの」を理解するとよいでしょう。

「しかし」の後に言いたいことが書かれている?

よく現代文の読解テクニックとして使われていることですが、「『しかし』という接続詞の後ろには、筆者の『言いたいこと』が書かれている場合が多い」という話があります。皆さんも聞いたことがあるのではないですか?

国語教師として言わせていただくと、たしかにその可能性は高いです。でも、多くの人はそれがなぜなのかわかっていないままで、あくまでテクニックとして使っています。

これは一種の表現技法なのです。あえて否定したい言説・普段多くの人がやっていることや常識として考えられていることを提示して、それに対する否定をぶつける、という表現方法を取ることで、そのギャップで相手に意見を伝えやすくしているのです。

例えば、「生まれつき読解力は決まっていると思っている人って多いですよね。しかし、実は読解力は後天的に鍛えられるんです!」というような、『Aは多いですが、しかしBです!』といった表現の文章を読んだことがある人も多いと思います。

これは実は、「読解力は後天的に鍛えられる」という主張をするために、あえて「否定」を挟んでいるんですよね。

「こう思っている人って多いですよね」「〜ってやりがちですよね」というのは、あくまでも前提条件の確認であり、なくてもいいようなもの。取り外してなくしてしまっても、別になんの意味もありません。

でも、あえて「否定する対象」を明確にすることで、話の本題・著者の意見を通しやすくしているわけです。そのため、この場合は「しかし」からの否定文に、言いたいことが隠されているわけですね。

まとめると、自分の意見をうまく相手に伝えられるようにするためには、「否定文」を使うことを意識してみましょう。「こうするべきだ」と伝えたいときも、「こうなってしまってはいけない、だからこうするべきだ」と、否定する対象を明確にした意見を作ってみましょう。

否定をうまく使ってプレゼンする


たとえば学生さんが志望理由をプレゼンするときでも、「医者になって多くの人を救いたい」というのではなく、「今、この病気で亡くなる人がとても多く、その現状はあってはならない。だから医者になってこの病気になってしまった多くの患者さんを救いたい」と否定したい現状を明示するのです。

仕事で商品のプレゼンをするときでも、「Aという商品がいい」というのではなく、「Bで悩んでいる人も多いと思うが、Aという商品を使えばBという悩みを解消することができる!使わない手はない!」と「Bで悩む現状」を明確にしましょう。

さらに、二重否定というテクニックも使えます。「使わない手はない!」のように、否定文を繰り返すことで強い肯定を作るのです。「〜しない人はいない」「〜でないわけがない」などと使うことで、意見は強くなっていきます。ぜひ意識してみてください。

(辻 孝宗 : 西大和学園中学校・高等学校教諭)