頭が良くなる食事とはどのようなものか。健康・科学専門のジャーナリストであるマックス・ルガヴェア氏と、医師のポール・グレワル氏は「人間の脳はほとんど脂肪でできていて、どんな脂肪を摂取するかで頭の働きが変わる。なかでも一価不飽和脂肪酸には、認知機能が向上するなど、さまざまな効果があることがわかってきた」という――。

※本稿は、マックス・ルガヴェア、ポール・グレワル『脳が強くなる食事 GENIUS FOODS』(かんき出版)の一部を再編集したものです。

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■摂取する脂肪の種類で脳の働きは変わる

人間の脳は、ほとんど脂肪でできている。この繊細でダメージを受けやすい臓器の60パーセントは脂肪酸でできている。そして、あなたが摂る脂質の種類が、その時々の脳の機能と、どんな病気が起きやすくなるかを決めるのだ。

脂質は、生活のあらゆる側面で主役級の役割を演じている。意思決定のプロセスや減量、ガンなどの疾患のリスク、老化の速度までも左右する。あなたがこの記事を読み終える頃には、認知機能や実行機能、心の状態を改善し、脳の健康を長期的に保ち、身体全体の健康を促してくれる脂質を含む食品を選ぶことができるだろう。

そして、この記事であなたに伝えたいことは、脂肪の摂取量に関することではない。脂肪の種類だ。

食事から摂取するオメガ3系脂肪酸とオメガ6系脂肪酸などの多価不飽和脂肪酸は、脳をはじめ体内のいたるところに存在している。同じように、脳には一価不飽和脂肪酸も豊富にある。主にこの脂質で構成される油は人体にとって安全である上、たくさんの好ましい影響をもたらすようだ。

一価不飽和脂肪酸を含む食品には、アボカドやアボカドオイル、マカダミアナッツなどがある。また天然のサケや牛肉の脂肪には、この一価不飽和脂肪酸が5割近くも含まれている。だが、一価不飽和脂肪酸を含むものとして最も有名なのは、エクストラバージンオリーブオイル(EVOO)だろう。

ギリシャや南イタリア、スペインなどの地中海沿岸の地域は、パーキンソン病やアルツハイマー病などの神経変性疾患の発症率が低いといわれている。そして、この地域ではエクストラバージンオリーブオイルが究極のソースとして、ステーキや豆、野菜、パン、ピッツァ、パスタ、魚介類、スープ、果てはデザートにまで、たっぷりと使われる。

■「一価不飽和脂肪酸」は認知機能を向上させる

この地中海食を続けると、長期的に健康を維持できるだけでなく(認知症の発症リスクを大幅に減らす効果を含む)、脳も大きくなるといわれている。

一価不飽和脂肪酸が豊富に含まれる食品が認知機能に与える効果を確認するため、バルセロナの研究チームが低脂肪の食事(今も広く推奨されている)を、2種類の高脂肪の地中海食と闘わせる実験を行った。

2種類の地中海食の1つは、一価不飽和脂肪酸が豊富に含まれるアーモンドやヘーゼルナッツ、クルミなどの木の実が加えられたものだった。もう1つは、EVOOが、さらにたくさん加えられたものだった。オリーブオイルの多い食事をとる被験者たちは、週に1リットルも摂取した。具体的な数字として、オリーブオイル1リットルのカロリー量は8000カロリー以上──つまり、成人男性に必要なカロリー摂取量の3日分以上だった!

そして6年後、ナッツ類を補う食生活を続けたグループも、大量のオリーブオイルを補う食生活を続けたグループも、認知機能が低下していなかっただけでなく向上していた。

その傾向は、オリーブオイルをたくさん摂取したグループのほうが、わずかに高かった。一方、低脂肪の食生活を続けたグループは、明らかに認知機能が衰えていたという。

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良質のEVOO(オーガニックが望ましい)の植物性の芳香や、咽喉の奥に感じるピリッとした辛味と仲よくなり、それを頻繁に味わおう! キッチンにはEVOOをいつもストックしておこう。加熱するときは、弱火から中火で調理しよう。

そして卵や野菜、魚、また、あらゆるサラダにソースとして使おう。

■脂溶性ビタミンの摂取も促される

よい脂肪(卵、アボカド、脂質の多い魚、EVOOなどの高脂肪の食品)をもっと食事に加えた場合の、絶対に見逃せない利点に触れておこう。

このような脂質は、ビタミンAやビタミンE、ビタミンD、ビタミンKなど、脂溶性の必須のビタミンや、β-カロテンのような重要なカロテノイドの吸収を促してくれる。こうした栄養素はDNAの損傷を防いだり、体内にある脂肪を保護したり、脳を加齢から守ったりと、広範囲にわたる恩恵をもたらす。

カロテノイドは、ニンジンやサツマイモ、ルバーブ、またケールやホウレンソウなどの葉物野菜に豊富に含まれる黄色やオレンジや赤の色素で、脳の強力なブースターといわれている(濃い緑の葉物野菜のカロテノイドは、葉クロロフィル緑素の緑の色素によって隠れてしまうため目には見えないが、ちゃんとそこにある)。カロテノイドのうち、ルテインとゼアキサンチンは神経系の働きを改善し、「結晶性知能」、つまり人が一生のあいだに獲得していく技能や知識を適用する能力とも関連があるという。

カロテノイドを血液中に入れるには、脂肪と抱き合わせにする必要がある。

たとえばサラダを食べる場合、脂質を含む食品と一緒に食べないと、カロテノイドはごくわずかしか吸収できない。サラダにかけるものとして最高の選択肢は、EVOOだ。これを、たっぷりかけることをお勧めする。

あるいは、単に全卵をいくつか添えるだけでもいい。パデュー大学の研究では、サラダに全卵を3つ加えた被験者は、1つも加えなかった被験者と比べて、カロテノイドの吸収が3倍〜8倍に増えたという。もし卵を食べられないのなら、アボカドを加えてもいい。そうすればカロテノイドのような脂溶性の栄養素のすばらしい恩恵にあずかり、脳の働きがグンとよくなるだろう。

■EVOOに含まれる注目成分「オレオカンタール」

ここで改めて、EVOOが脳に良い理由を説明していこう。

EVOOをスプーンに注いで、ゆっくりすすってみてほしい。ちょうどスープを飲むときみたいに。行儀が悪いなんてことは気にしなくていいから(そう、油を飲めと言っているのだ。でも、その理由はすぐにわかる)。飲んだとたん、咽喉の奥に、ぴりっとした刺激を感じるはずだ。これは「オレオカンタール」という化合物によるものだ。

オレオカンタールはフェノールの一種で、体内に炎症が生じたとき、自力で修復する働きを強力に促してくれる植物性化合物だ(通常、フェノールは複数つながった形でポリフェノールのなかにある)。オレオカンタールには抗炎症効果があり、その作用は非常に強力で、非ステロイド性抗炎症薬のイブプロフェンを少量服用するのと同じ効果があるが、こちらは副作用の心配はまったくない。炎症は神経可塑(かそ)性(脳を変える機能で、一生涯続く)を無効にする力が強い。また研究では、気分の落ち込みを生じさせることがわかってきている。

EVOOをよく使う料理を食べている民族は、アルツハイマー病の発生率が低いことがわかっているが、オレオカンタールがその理由ではないかと考えられている。アルツハイマー病の患者の脳には、「アミロイド」斑と呼ばれる、粘り気のあるタンパク質が極度に沈着している。そして、脳がアミロイド斑を自力で除去する力を、オレオカンタールが促進しているかもしれないという。

この力は、アミロイド斑を除去する酵素が活発化することで生まれる。脳の衰えを防ぐ(そして認知機能を改善する)ための長期にわたる大規模な研究では、1週間で最大1リットル摂取した場合、このような効果があったという。また脳の保護作用だけでなく、炭水化物を過剰に摂ると脂肪をつくる「脂肪酸合成酵素」を、EVOOが阻害することもわかってきている。

オレオカンタールのほか、EVOOには一価不飽和脂肪酸も豊富に含まれていることを先にも述べた。一価不飽和脂肪酸は、血管と肝臓の健康を維持してくれる健康的な脂質だ。また、減量を促す作用もあるという。EVOOにはビタミンEも含まれ、大さじ1杯で1日に必要なビタミンEの10パーセントが摂れるという。ビタミンEは抗酸化物質で、脳も含めて体内の脂肪性の組織を老化による消耗から守ってくれる作用がある。

■良いオリーブオイルの見極め方

ニコラス・コールマンは、ウルトラ・プレミアム・エクストラバージンオリーブオイルの収穫を専門とする、世界で数少ない「オレオロジスト」のひとりだ。コールマンは、適切なオリーブオイルを探すための助言を、いくつか与えてくれた。

写真=iStock.com/LordHenriVoton
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まず、オイルの色は品質とは無関係だという。オイルを見極める一番いい方法は、それを味わうことだそうだ。植物の香りがして、油っぽさをまったく感じないものが、良いエクストラバージンオリーブオイルだという。

マックス・ルガヴェア、ポール・グレワル『脳が強くなる食事 GENIUS FOODS』(かんき出版)

バージンオイルのピリっとした辛みは、オレオカンタールの成分に由来するため、それがオイルに含まれるオレオカンタールの量を知る目安になる。濃厚なオイルは非常に辛味が強いので、あまりの辛さにむせてしまうかもしれない。とはいえ、それが良質なオイルであることの証明なのだ! 今度、あなたが「3回咳き込む」オイルを口にしたら、脳はきっと自分の守護者を見つけてくれたことに感謝するだろう。

これからあなたはエクストラバージンオリーブオイルをメインの油にすべきだ。サラダや卵に、ソースとして気前よくたっぷりと使おう。オイルは必ず光を通さないボトルで(黒っぽいガラスや缶が適している)、涼しく乾燥した場所に保管しよう。

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マックス・ルガヴェア健康・科学専門ジャーナリスト
映画製作者。「メドスケープ」「ヴァイス」「ファスト・カンパニー」「デイリー・ビースト」などのメディアに寄稿し、「NBCナイトリーニュース」や「ドクター・オズ・ショー」「ザ・ドクターズ」などのテレビ番組に出演、「ウォールストリートジャーナル」紙で紹介されるなど幅広く活動している。講演者としても人気を博し、ニューヨーク科学アカデミーや、ワイルコーネル医療センターなど権威ある学術機関に講師として招かれた。また、スウェーデンのストックホルムで開催されたバイオハッカーサミットでも講演を行った。2005年から2011年まで、アル・ゴアの「カレントTV」のジャーナリストを務める。主にニューヨークとロサンゼルスを拠点に活動を続けている。
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ポール・グレワル内科医
食生活とライフスタイルという視点から減量や代謝機能、不老長寿のための医療を実践し、講演も行っている内科医。彼自身45キロ近い減量に成功し、その体重を維持している。大きな誇りと情熱を持ちながら、患者が健康に生きるために楽しく続けられる、万人に適用できる療法を探る。ジョンズ・ホプキンズ大学で細胞・分子神経科学の学士号を取得。ラトガース大学メディカル・スクールで医学を学び、ノース・ショア・ロング・アイランド・ジューイッシュ・ホスピタルで研修課程を修了。MyMDメディカルグループを創設し、ニューヨークシティで開業、金融会社や健康管理会社のメディカルアドバイザーを務めている。
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(健康・科学専門ジャーナリスト マックス・ルガヴェア、内科医 ポール・グレワル)