INSIGHT NOW! 編集部 / インサイトナウ株式会社

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お相手
齋藤 秀樹様
株式会社アクションラーニングソリューションズ 代表取締役
一般社団法人日本チームビルディング協会 代表理事

道具の問題ではなく、「スピーカーの熱量と話術」

猪口 齋藤さんは著書『Good Team 成果を出し続けるチームの創り方』(日経BP)を2020年に出されましたが、コロナで方法やアプローチがかなり変わりませんでしたか。

齋藤 この本は、コロナ禍に入ってすぐの2020年6月に出しました。以前は体感的なアクティビティを研修プログラムに入れていたのですが、身体接触禁止やリアル研修ができない環境になったので、リモートだけで行う研修やチーム作りに切り替えました。当初、企業側もやる側も、「リモートでそんなことができるはずがない」と侃々諤々の議論になりましたが、私が提唱してきた考え方を信じ、それを押し切ってやった結果、「リモートだけで良いチームが作れる」ことを完全に実証しました。リモートをコミュニケーションの言い訳にする方が多くいますが、リモートはコミュニケーションの障害にはなりません。研修は今でも7割がリモートですが、研修評価も研修効果も全く変わらず、むしろ僕個人的にはいろいろな点でメリットが大きいと感じています。

猪口 研修を生業とされている方々にはコロナになって大変な思いをしている方も多く、リモートでの展開にすぐに対応できる方は非常に少なかったという印象があります。

齋藤 2020年の1年間は試行錯誤でした。企業の研修担当からは、集中できてせいぜい2〜3時間だと言われました。研修は2〜3時間ではできません。特に僕は合宿型をやっていたので長時間にわたります。最初は大型のディスプレイを置いたり、カメラを何台も使ったり、いろいろ実験しながら試行錯誤しましたが、最終的には、結局道具の問題ではなく「スピーカーの熱量と話術」だと気づきました。熱量は距離に関係なく届きます。リモートで特に良かったのが、受講者の皆さんの顔がしっかり見れることや海外に駐在している方にも繋がることで、今何が起こっているか直接聞くことができます。その意味でも研修の選択肢や物理的制約から解放されるといったメリットは大きいです。

猪口 今まで東京にいる人だけが参加できて、地方の人は参加できないという状況もありましたよね。

齋藤 今までは移動のコストも大きく、スケジュールを調整するのも大変でした。手軽に学びの機会を作るという意味では、リモート万々歳です。それに、リモートで数への対応がしやすくなりました。当然リアルでやりたい、アクティビティもやりたいというお客様もいます。リモートでも十分効果がありますが、どうしても体感的なものがやりたい場合は、選択肢としてプラスアルファでやることもできるので、面白い展開ができています。

猪口 齋藤さんは、コロナに対しても、危機というより挑戦という感じだったのでしょうか。

齋藤 もちろん、危機感はありましたがとても良いチャンスと捉えていました。ある意味、コロナは黒船だったと思います。皆前例踏襲で変わったことをしたくないので、最初はみんな抵抗しますよね。それでも何か教育的なことをやりたいというニーズはあって、「じゃあ、騙されたと思ってやらせてくれ」と。それでやってみると予想外に評価がとても高くて、「これでいいじゃん」とコロッと変わるんです。コロナがなかったら今でも常に出張状態だと思います。

僕は今京都に住んでいますが、自宅でほとんどが成り立っています。「住みたいところに住む」というのがこの10年前くらいからの生き方で、京都の前は福岡に住んでいました。仕事は東京が多いので、昔は、多い時で月の半分以上東京でホテル暮らしをしていましたが、今はピンポイントで、あとは大体リモートなのでバランスが良くなりました。

猪口 コロナでチームビルディングを基本であるコミュニケーションがこれまでのように取れなくなり、危機感を覚えた組織も多かったのではないかと思います。

齋藤 昨今「心理的安全性」という言葉がよく言われますが、心理的安全性というのは信頼関係と多様性が活かされる本音が言い合える場作りなので、そこをしっかり作れないとパフォーマンスが出ないというのが結論です。しかし、日本の経営層もリーダー層も新たな価値観や時代に合った変化を勉強しない集団になっています。ですからはやり言葉のように表面的に言葉は使用しても本質をまったく理解していません。日本において心理的安全は15年以上前から必要でした。それに気づけないことが現在の日本の経済的停滞を生んでいます。現象面だけ見てあたふたしている状態で、コロナでさらに加速した企業も多い。結論から言うと、うつ病が多発している企業が多くなり、コミュニケーションが成り立たないので業務が破綻している。いろいろな問題が起きている企業がある一方で、逆に生産性が上がった企業もある。生産性が上がった理由は簡単で、過度なマイクロマネジメントをできなくなったからです。無駄なコミュニケーションがむしろ減って、メンバーがのびのび仕事できるようになった。そういう意味でいうと、日本の管理職の半分以上がいらないのでしょうね。僕がそれを歯に衣を着せずに言うと、皆のけぞりますが(笑)

OSごとバージョンアップしない限り日本は再生しない

猪口 若手リーダー向けのコンサルティングが増えているということですが、現場ではどのような問題が起きているのですか。

齋藤 例えば、50代後半の事業部長が独裁で、業績が下がっているのにまったくやり方を変えようとせず、具申した部下が飛ばされる。それで、どうしたらいいですかと若い有能なリーダーが相談に来るのだけど、どうしようもありません。その人を飛ばせるか変えられる人間となると、社長になってしまうからです。社長と直談判するしかなく、社長とのパイプがないのであれば、違う会社に行くしかありません。こんなことが未だに日本中で起こっている。

僕らはよくOSという言い方をするのですが、OSが昭和なのであって、アプリケーションの問題ではありません。小手先の機能を少し変えれば日本は再生するという時代はとっくに終わっています。OSごとバージョンアップしない限り日本は再生しない。企業によりますが、そこに危機感を持っている人事の役員もいるので、例えば僕らのような組織づくりのコンテンツを持っていくと、自分たちがやっていることがいかに時代に合ってないか一応自覚はします。とりあえず自分たちがやっていることはちょっと違うということを自覚してもらうきっかけ作りになります。

猪口 それはマインドセットの問題なのでしょうか。確かに既得権にしがみつくようなズルさはあるとは思いますが、考え方自体もそういうことですよね。

齋藤 悪い良いではなく、昭和の時代はそのようなマネジメント、考え方が通用していました。トップダウンで意思決定をして、部下が具体的なことを決定していく。答えが出やすい時代であればそれで十分通用しますが、テクノロジーをはじめとした世界の変化スピードが高速化している今、来年のことすら予測が不可能な状態です。天才も稀にいますが、天才ではないリーダーたちがほとんどで、その人たちが采配できる時代ではもうないのです。本当はそこをまず手放して、メンバー1人ひとりに権限委譲しなければなりません。しかし、日本の場合は、権限委譲はおろか次世代リーダーの育成も全然できていないので、正直なところ手放して渡す先もあまりありません。今までのリーダーにはきちんと育成をできる人が少なく、そこにもいろいろな問題が山積していますが、それに真っ向から向き合っている経営者も少ない。

猪口 リーダーのOSを変えるアプローチはどのようなものなのでしょうか。

齋藤 僕の場合、組織作りがベースです。書籍にも書きましたが、まずはOSの話を理解していただきます。「分かる」と「できる」はまったく違う次元の話です。この「分かる」ということを、フィールドワーク、実際のマネジメントの現場で、いわゆるDLTG(ラーニングサイクル)を回しながら数ヵ月間実践してもらいます。中間に様々な成果と課題が出てくるので、それを皆にブレストしながら変えていく。これはどちらかというとアクションラーニングの手法です。僕の場合、チームビルディングとアクションラーニングをミックスして、現実的なマネジメントや組織作りに浸透させていきます。だから短いものでも半年で、長いものだと、根本から風土改革をしているところでは5年目という会社もあります。徹底的にOSを変えるため、考え方そのものを変えるのです。死に体の企業組織は小手先の対症療法では再生しません。

猪口 研修を1回、2回でどうという話ではないのですね。

齋藤 たとえば、若手の長期のプログラムの中に僕らのチームビルティングを入れ込んでもらって、研修の期間内で、職場で、ある一定のチャレンジと成果を出すということを本気でやってもらいます。例えば、半年ぐらいかけて組織づくりをする。まずは自分を変える。私達がまず受講者に伝えるのは「自分が変わった分しかチームは変わらない」。メンバーもリーダーも自分を変えずに他者やチームを変えようとする。でも自分の目の前に広がる景色は自分が作り出しています。その景色を変えるために最も有効な手段は自分を変える(成長する)ことです。成果を出した6カ月後の最終プレゼンに、組織のできるだけ上の人(可能なら社長)を呼んできて、そのプレゼンを見てもらいます。そのプレゼンで、これまでの実績と本気の提言してもらいます。「自分たちはこうしたい」とか、「こうやったらこういう結果が出たから、これは価値がある、効果がある」とか、そういったプレゼンをしてもらって、継続的にやっていく。そのような取り組みを3年ぐらいしています。企業側にも効果性はかなり認めてもらっています。そして、目の前の若手メンバーの変化していく姿を直属の上司が見て、その上司も変化していきます。

日本人は結束したらパフォーマンスは上がる

猪口 今よくジョブ型制度をいかに導入するかということも言われていますが、そのジョブを生み出すスキルや能力の定義も分かりづらく、そもそも上司がまず部下のジョブ・ディスクリプションを書けないですよね。

齋藤 制度や仕組みを整えることは悪くはないのですが、では何を鍛えているのでしょうか。OFFJTもOJTも含めて、仕組みや指導者がいて動いているのであればジョブ型は機能しますが、そもそもスカスカなのに枠だけ作ったって意味ないじゃないですか。そもそも日本は、子どもの時から個性を磨くような教育体系になっていません。標準化されて、その標準化された軸にたまたまあった人が優秀と言われているだけで、それ以外の人たちはやる気をなくしています。欧米だと根本的に違って個人主義が徹底しているので、自分のスキルを磨くことにわりと特化しています。日本人は、学校の点数はありますが、本当の意味での実力を磨くという視点が多分ないです。

猪口 今、国を挙げてスキルアップ、リスキル、リカレントなど言われていますが、具体的に何をやっていいか分からないし、何を目指せばいいかも分からないのが現状です。

齋藤 それも国が決めたスキルマップみたいなものがあって、それに当てはめていくのだと思いますが、そもそもそれが怪しい。今決めても、来年再来年に時代が動いて、そのスキルに意味があるのか分かりません。また、スキルをもう1回磨き直すといっても、そもそも磨くスキルがないのだから磨きようがありません。それができる育成能力の高いマネジメント層も少ない。多くの課長、部長のプレゼンを見てきていますが、本当に抽象的でひどいものが多い。部下に資料を作らせていて自分のスキルを磨いていないことが分かります。皆、評論家のようになり既得権を守ることに重きが置かれる。そういう意味では、組織の成長も個人の成長もそうですが、育成や成長の視点が今の日本全体で欠けています。

猪口 その課題に対して、コミュニケーションやどうやってチーム作りをしていくかというところから入られているわけですね。

齋藤 良いチームは、当たり前のことですが、個々のメンバーが有能です。では「チームの中で有能な人材はどういう人材ですか」という話になります。私は3つの壁という有能な人材になるための指針を提示しています。その中で最も重要なことは、組織の中で有能な人材は、他人とつながれる人材です。なぜなら、組織の力をチーム力と言いますが、チーム力はそもそもシナジーです。シナジーは相互支援力で、つまり、お互いがお互いを助け合うことによって生まれる力です。しかし、他人に興味がない人は他人を助けず、それでいいと思っている人が多い。会社や何らかの組織に入って仕事をする時、そういう人間がいると確実に組織の足を引っ張ります。だから現時点でそうだとしたら、「あなたは無能です」ということを誰かが言ってあげないと気付けないのです。今まで試験で100点さえ取れば有能だと言われ続けてきたので、違うと教えてあげる大人がいないと、彼らはまさにスキルをもう1回転換することができません。僕は嫌がられても、「あなたは個人としては有能でも組織人としては無能だよ」と言ってあげるわけです。

猪口 会社なのだから、組織力を上げないといけないですよね。

齋藤 日本で一番重要なもの、日本全体の資産はやはり結束力です。様々なデータが物語っているようにこれは国民性ですね。日本人は結束したらパフォーマンスは上がるのだけど、結束しないとヘナチョコです。欧米の人は1人ひとりが立っていて1人でもパワーが出せますが、日本人がパワーを発揮できるのは結束したときです。しかし、様々な分断によってこの結束力が作りにくくなっている。逆に忖度や同調圧力と言った負の現象ばかりが目につきます。

猪口 例えが違うかもしれませんが、1人ひとりでは決勝に行けないのに、陸上のリレーでメダルが取れるわけですからね。

齋藤 それが日本の強さなのだけど、その強さを引き出すことに本質的に気づいている経営者、リーダーが非常に少なく、その術も知らない。更に企業の個人評価偏重の評価制度が追い打ちをかけています。未だに昭和の幻想の中で同じ経営やマネジメントをしているから、日本は沈没し続けている状態です。そこを根本的に変えたいですね。

猪口 齋藤さんの出番はまだまだありますね。

齋藤 僕はとりあえず死ぬまでやります。自分でやっているので引退もありません。自分で作っている仕事で、好きでやっているので、半分趣味みたいなものです(笑)

猪口 これからますますパワーアップですね。

齋藤 自分の中でやはり60歳は節目で、これまでの仕事の仕方とここからの仕事の仕方は多分変わると思います。単発的な研修は他のメンバーに任せ、仕組みや新しいチャレンジになるようなことに注力しようと思っています。

猪口 そこの方法論も変えていかないといけないですしね。

齋藤 そうですね。経営層と繋がるチャネルを見つけるとか、露出の仕方を変えるとか、組織的なものを作って広げていく人たちを増やしていきたいですね。いろいろやってはみたものの、結局何も変わらなかったというのも悲しいじゃないですか。だから自己満足ですけど、多少なりとも「ちょっと変わったな」ということが見えたらそれでいいです。それが見えたら、この世界は卒業できると思います。

猪口 本日は貴重なお話をありがとうございました。