●『ザ・ノンフィクション』で深夜食堂「クイン」に密着

女優の吉田羊が、フジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』(毎週日曜14:00〜 ※関東ローカル)のナレーション収録に臨んだ。担当したのは、12日・19日の2週にわたって放送される『新宿二丁目の深夜食堂』。LGBTQの人々が集う東京・新宿二丁目で53年続く深夜食堂「クイン」を営む夫婦と客の人間模様を追った作品だ。

新宿二丁目という街は、通っていた店もあるほど慣れ親しんだ街だという吉田。「クイン」の人たちを通して何を受け取ったのか。そして、この街の魅力とは――。

『ザ・ノンフィクション』のナレーションを担当した吉田羊

○■“自分の好きなように生きなさい”と背中を押された

クインが営業するのは、日付が変わった午前0時から朝9時まで。飲食店をハシゴしてやってくる会社員や同性愛カップル、自身の店の営業を終えた“二丁目の住人”など、来店する多くの客の目的は、名物ママのりっちゃん(77)に会うことだ。恋愛の悩みや人生相談など、ここでしか話せない悩みをぶつければ、優しいアドバイスや、時に厳しい叱咤激励が返ってくる。

りっちゃんが見せる、客に対しても歯に衣着せぬ物言いとキャラクターの強さに、吉田は「最初は度肝を抜かれました(笑)」というが、「言葉を選ばないからこそ、相手の心にまっすぐ届いているのが、お客さんの表情を見ていると分かるんです。そして、相手と本気で向き合うりっちゃんにしか言えない言葉たちだと思いました」と実感。

また、「時には突き放したり叱咤したりするんだけど、それも相手を思ってこそなんですよね。ナレーションにもありましたが、今、きちんと叱ってくれる人が本当に少なくなっている中で、しっかり自分を思って叱ってくれる存在は、本当に貴重だと思いました」といい、「地方出身者にとっては東京のお母さんという存在だと思いますし、“二丁目の母”と呼ばれるのもうなずけます」と納得した。

そんなりっちゃんの印象的な言葉として挙げたのは、取材ディレクターに諭すように言った「あなたが私を理解しなくても、それはあなたの自由です」。

「今、承認欲求を満たすSNSなどのツールが増えているからこそ、それにとらわれてがんじがらめになっている若い方も多いと思うんです。でも、“理解されなくてもいいじゃない。自分の生きたいように生きられればいいじゃないの”って笑い飛ばしてくれるような強さをあの言葉から受けました。理解する側もしかりで、“理解できない自分がダメ”ではなく価値観の違いだと思えば、他者とのコミュニケーションが少し楽になるのかもな、と。こういう仕事をしていると、他者からの評価や判断が目に見えて、それに振り回される自分がいるし、振り回されまいとあがく自分もいるんですが、“好きでこの仕事を選んだんだから、そんなことは気にせず、自分の好きなように生きなさい”と、背中を押していただいたような気持ちになりました」

こうした金言が次々に出てくることから、「ナレーションを読んでいるうちに、次第に自分も人生相談しているような気持ちになったんです。最後はちょっと救われたような気持ちになって、“よし、明日も頑張ろう”と思えるように、力を頂ける回でした」と語った。

○■50年以上連れ添っても愛し合う姿「うらやましく拝見しました(笑)」

一方、厨房で腕を振るう夫の加地さん(77)も、魅力的なキャラクターだ。彼の言葉にも、「何度も胸を打たれたんですが、『もう一度付き合うとしても、りっちゃんと付き合う』とか『本当にかわいい人だよね』と言っていて、50年以上連れ添ってもまるで昨日出会ったかのように相手のことを思って愛していらっしゃるんですよね」と目を細め、「人生でそう思える相手にたった1人出会えたらどんなに幸せだろう…と、うらやましく拝見しました(笑)」と振り返る。

加地さん(左)とりっちゃん夫妻 (C)フジテレビ

この夫婦関係も、多くの客を引き寄せる原動力になっていると推測。

「おいしいものを出してくれる店がごまんとある中で、なぜ自分がその店を選ぶかというと、やっぱりそこにいる人が生み出す愛とか雰囲気とか、そういうものに心を震わされて通い始めるんですよね。クインはそれを本当に体現しているお店で、言葉にしなくてもご夫婦の間にある絆や愛情や信頼のようなものが店の中に満ちていて、そこに触れたくて皆さん通われているのかなと思いました」

●同じ傷を持つ人を嗅ぎ分ける力が強い街

りっちゃん(右)とクインの客 (C)フジテレビ

実は自身にも、二丁目によく通っていた店があったのだそう。「そこはゲイのママさんがいて、りっちゃんと同じように話を聞いて、寄り添ってくれて、時には突き放して怒ってくださって。それは私のことを思ってこそという愛情を感じるから、怒られてもまた翌週に足を運んでしまうお店でしたが、そのことをふと思い出して、懐かしいなと思いながら見ていました。新宿界隈で飲み歩いて、最終的に行き着くのが二丁目。朝5時までと言いながら、居る限り営業してくださるから、気づけば2日がかりで飲んだりする日も少なくなくて。ママさんが門倉有希さんの『ノラ』を歌うのがとても上手だったんですよ(笑)」と回想しながら、「これを機に、久しぶりにそのお店に行きつつ、クインの朝7時の朝ご飯を食べにいこうかしらと思いました(笑)」と、ハシゴ欲が湧いたようだ。

そんな吉田に“二丁目”の魅力を聞くと、「みんなどこかすねに傷を持った人々が集まっているからこそ、同じ傷を持つ人を嗅ぎ分ける力が他の街よりも強いというイメージがあります。だからこそ吸い寄せられていくけど、生意気な覚悟で訪れるとピシャっとやられてしまうんじゃないかな」と表現。

それを踏まえ、「清濁併せ呑む人々を50年以上見てきたりっちゃんだからこそ言える言葉が、本当に胸に響いてくるんです。言ってることがシンプルなんですよね。だから、“いろいろ考えずに、シンプルに生きなさい”と言われたような気持ちになりました」と、改めてエネルギーを受け取った。

○■ナレーションは「思わず感情が入りがち」に

慣れ親しんだ街が舞台だけに、ナレーション収録は「思わず感情が入りがちになってしまっていたので、なるべく客観的に、視聴者の方の感情を邪魔しないように読もうと意識しつつも、やっぱり無意識に感情が乗ってしまう部分がありました」といい、「そこは動画とナレーションが一体となったグルーヴ感として伝わればいいなと思います」と期待。

その上で、「新宿二丁目の名物ご夫婦のお客様への深い愛情と、お互いの夫婦愛、その2人に触れて心が救われていくお客様を見ながら、いつしか自分の心もフッと軽くなるような本当に温かい回だと思いますので、前後編じっくりとご覧になっていただきたいと思います」と呼びかけた。



●吉田羊福岡県久留米市出身。小劇場で女優としてデビューし、ドラマ『HERO』(14年)でブレイク。『コウノドリ』『真田丸』『コールドケース〜真実の扉〜』『恋する母たち』『ペペロンチーノ』『妻、小学生になる。』などのドラマ、『ハナレイ・ベイ』『記憶にございません!』『沈黙のパレード』『マイ・ブロークン・マリコ』『イチケイのカラス』などの映画に出演。現在は映画『Winny』が公開中のほか、4月スタートのドラマ『ラストマン-全盲の捜査官-』、来年放送のNHK大河ドラマ『光る君へ』が控える。